堀米ゆず子 ヴァイオリン・ワークス��
○2009年9月11日(金) 19:00〜21:00
○東京文化会館小ホール
○W列34番(最後列ほぼ中央)
○モーツァルト「ヴァイオリン・ソナタ第32番ヘ長調」K.376(第1楽章提示部繰り返し実施)、ブラームス「ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調」Op100(約19分)、岡田加津子「母へ〜無伴奏ヴァイオリンのための」(委嘱世界初演)
R.シュトラウス「ヴァイオリン・ソナタ変ホ長調」Op18(約28分)
+コルンゴールド「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」Op35より第2楽章
クライスラー「中国の太鼓」「愛の悲しみ」
○V=堀米ゆず子、P=リュック・ドゥヴォス
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贅沢な秋の夜のひととき
良い演奏を安く誰でも来られるような演奏会を作りたい。そんな思いを共有する企業が結成した22世紀クラブによる、いわゆる「900円コンサート」。2006年〜2010年までは堀米さんのリサイタルを開いている。僕としては2年ぶりに駆けつけることができた(2年前のレポートはこちらからご覧下さい)。9割以上の入り。堀米さんは黒無地のロングドレス姿。
モーツァルトの第1楽章冒頭のF−G−A、つまりへ長調の「ド、レ、ミ」の音型に続いてその上のCを少し膨らませながら伸ばすのを聴いただけで、1日の疲れが溶けるように消えてゆく。提示部や再現部の結び方(46〜47小節など)も自然で、それまで空を自由に飛んでいた鳥がちょこんと小枝に止まるような感じ。第2楽章でもじっくり歌うヴァイオリンに身を任せる。第3楽章では先行するピアノが4でFisの装飾音付のGを3回鳴らすところで、1回目より2回目を強くし、3回目は抑え目。その一方でヴァイオリンはそのようなピアノの表現の変化に囚われることなく、安定した音楽の流れを堅持。例えば108〜109などフォルテで鳴らすピアノの上を重音の8分音符が4つ続くところなどでも、日本のヴァイオリニストにありがちながさついた感じが全くない。
ブラームスの第1楽章も落ち着いた出だし。31以降何度か出てくるEやHのオクターヴの重音も穏やかな音色。66以降の第2主題は抑え目の音量で歌い、75のフォルテになってもさほど大きくしない。しかし、内に秘めた芯の強さのようなものが伝わってくる。
第2楽章、冒頭のメロディを伸びやかに歌い、丘の上で深呼吸するようなさわやかな気分に。ニ短調に転じる16以降ではピアノのリズムが粘りがちで流れが悪いのに対し、ヴァイオリンは一見軽快に踊っているようで、心の中は憂鬱。
第3楽章、ほとんど低音部で弾かねばならない第1主題など、地味な音楽が続くので終盤(152以降)で慌てて華やかに鳴らそうとして中途半端な演奏になりがちなのだが、堀米さんは最初からしっかり響かせる。そしてこの主題に戻るたびに音楽の密度が濃くなっていくので、終盤にもスムーズにつながる。まるで去年の大河ドラマ「篤姫」で菊本が言った「女の道は一本道。途中で引き返すは恥でございますよ」を地で行くような演奏(何のこっちゃ)。
ここで休憩かと思ったら続けて岡田加津子の新作へ。アルツハイマー症を患うお母さんに向けて作曲したものだそうだ。ゆっくりしたテンポでハ短調の重音が子どもの歌のような平易なメロディを奏でる。作曲家自身が母への想いを綴った詩もプログラムに掲載されているが、その詩を付けて歌えそうな感じ。転調してもゆったりした音楽が続き、最初のメロディに戻る。後半はカデンツァ風の技巧的な音楽が出てくるが、また最初に戻る。そろそろ眠くなりかけたところで癒されるような変ホ長調の和音で終わる。
さて、いよいよシュトラウスのソナタだが、前半から気になっていたピアノの問題点がここで一気に噴出。手を広げて指をほとんど鍵盤から離さずに弾くというスタイルのせいか、特に低音の響きが薄くて軽い。だから和音も縦に積むべき俵を横に積んでいるような違和感がある。しかも横の流れも音同士がくっついているように聴こえ、レガートと言うより串に刺さった団子のような感じ。シュトラウス特有の音の跳躍も間で糸を引いているように聴こえてしまう。第1楽章はそんなピアノに対し、ヴァイオリンはまっすぐ進むが音の跳躍で少しだけポルタメントをかけるなど、やや薄味ながらシュトラウス風の味付けも垣間見える。
第2楽章、ヴァイオリンはここでも伸び伸びと歌うが、ピアノがシュトラウス特有の細かい3連符をモーツァルトの装飾音のように軽く扱うので、やはり違和感が残る。
第3楽章、変ホ短調のピアノの序奏もあまり暗い響きがしない。アレグロの主部に入るとヴァイオリンが速い上昇音階の頂点の音を長めに延ばして勢いを付ける。ただ途中で頻繁に転調するところなどは比較的淡白に通過、シュトラウス風のロマンティシズムよりは若さを強調した演奏ぶり。
アンコールで何とコルンゴールドのヴァイオリン協奏曲第2楽章という、珍しいだけでなく10分近い「大曲」を披露。その後のクライスラーの2曲を含め、アンコールは全て堀米さんは暗譜で演奏。今年もぜいたくな一夜でした。
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