堀米ゆず子ヴァイオリン・ワークス��
○2007年9月15日(土) 14:00〜15:35
○東京文化会館小ホール
○Q列39番(17列目中央やや下手寄り)
○シューベルト「ヴァイオリン・ソナタ イ長調」D.574
 権代敦彦「永遠の賛歌 ヴァイオリンのための」作品107(委嘱世界初演)
 ラヴェル「ハバネラ形式の小品」
 エネスコ「ヴァイオリン・ソナタ第3番イ短調」Op25
+モーツァルト「ディヴェルティメント第17番二長調」K.334より第3楽章「メヌエット」、フォーレ「子守歌」Op16
○V=堀米ゆず子、P=野平一郎

900円で至福のひと時

 日本の企業がクラシックのコンサートに「協賛金」などの名目で資金援助するのは今や珍しいことではない。しかし実態としては寄付金でなく広告宣伝費による支援であるため、肝腎の入場料軽減に反映されない場合がほとんどである。「22世紀クラブ」はそんな風潮に一石を投じ、社会とクラシックとの間の垣根を低くするために91年から入場料900円のコンサートを開始し、今回で93回目になるそうだ。もちろんほぼ満席。文化会館の小ホールへ来たのも久しぶりだが、全自由席というコンサートも久しぶりである。

 堀米さんは若い頃から僕のお気に入りのヴァイオリニストである。日本の女流ヴァイオリニストにありがちな、思い詰めた表情、金属的な音色で攻撃的に弾く感じが全くない。シューベルトの冒頭から、瑞々しさにあふれた音色と清流のような節回しに引き込まれる。第2楽章では軽やかなリズムにこちらもウキウキし、第3楽章では祈るような静かな歌いぶりに襟を正す。そして第4楽章ではまた清流が戻ってくる。残念なのは、この作品の各楽章にもう一息の発展がないこと。もっと聴きたいと思っているうちに曲が終わってしまう。
 権代の作品は、2001年大阪の附属池田小学校事件で犠牲になった児童のお母さんが娘に宛てた手紙をもとに作曲されている。G線の長い音符の繰り返しに始まり、やがてそれが発展してGとそれより高い音との間を激しく行き交う。続いてD、A、Eの各線を起点に同じようなパターンの音楽が展開した後、天に昇るような素朴なメロディが現れる。でもそれはすぐ消えて冒頭のGの長い音符に戻り、聴く者に「永遠とは何か?」という問いを刻み付ける。

 後半はエネスコの前に堀米さんが曲目紹介してラヴェルを追加。ご馳走を作ったシェフが客に見せるのを一瞬じらして楽しむように、野平さんのピアノがゆったり奏でられ、そこにヴァイオリンが加わる。木陰でハンモックに揺られて涼んでいるような気分。
 しかしエネスコが始まると夢は破られる。イ短調を基調にしてはいるが、ジプシー風の自由奔放なメロディが時には調性を飛び越え、時にはバルトークを思わせる原始的なリズムが顕わになる。ルーマニアの原野を駆け抜ける暴れ馬みたい。第2楽章はピアノの細かい高音のさらに上をヴァイオリンが漂うように歌う。秋空を掃くようにかすかに見える雲を思わせる。第3楽章はさらに激しく馬が暴れる。しだいにピアノがヴァイオリンよりも過激に鳴らすようになる。だがそんな中でもヴァイオリンの音からなめらかさと気品が消えることはない。

 アンコールの二曲にも聴き惚れる。何も考えずただ音楽に身を任せる。特にフォーレは生で初めて聴いたので心に沁みる。
 野平さんのピアノも特筆モノ。蓋を全開したことで強弱と表現の幅が広がり、きめ細かにヴァイオリンをサポートしているのがよくわかる。

 いつものコンサートより少し早めに終わったが、900円で至福のひと時を過ごす。こんなコンサートが少しずつでも全国各地に広がってゆけば、日本のクラシック界も変わってくるに違いない。関係者の今後益々のご活躍を大いに期待しています。

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