堀米ゆず子 J.S.バッハ/ブラームス プロジェクト at Hakuju vol.1
○2013年10月18日(金)19:00〜20:50
○Hakuju Hall(白寿ホール)
○N列5番(14列目中央やや下手寄り)
○ブラームス「ピアノ五重奏曲ヘ短調」Op34(P=リュック・ドゥヴォス、V=堀米ゆず子、山口裕之、Va=小倉幸子、Vc=辻本玲)(約39分、繰り返し省略)
ブラームス「ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調」Op108(P=リュック・ドゥヴォス)(約20分)
バッハ「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調」BWV1004(約22分、繰り返し省略)
+バッハ「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番ホ長調」BWV1006より「ロンド風ガヴォット」

秋は室内楽に限る

 横浜のフィリアホールで好評を博した、バッハとブラームスの作品を堀米ゆず子を中心に披露するシリーズが白寿ホールでも開催されることとなった。プログラムもメンバーも少しずつ違うし、同じ曲でも500席のホールでの演奏が300席のホールになるとどうなるかなどなど、興味は尽きない。9割程度の入り。

 それにしても、いきなりブラームスのピアノ五重奏曲とは、弾く方も大変だろうが聴く方も相当の気合が必要。第1楽章、やや速めのテンポで柔らかめの響きで始まるが、4小節目のピアノの速いパッセージが今一つ熱くない。これに応える弦もfzはきちんとつけるがスタッカートはあまり付けずにレガートを重視。このスタイルが全曲通して貫かれている。73〜74のVcの下降フレーズで少しスタッカートを付けるのが却って目立つくらい。展開部に入って徐々に緊張を高めるがその頂点となる133以降も攻撃的なアクセントは聴かれない。136以降2Vが3連符を延々と続けながら息の長いクレッシェンドを演出。終盤の283以降も弦に鋭く切り込む感じはなく、むしろ響きの厚みでじわじわと押し進めていく。
 第2楽章はレガートが曲想にもよく合う。特にホ長調に転じる33以降金木犀の匂いにむせ返るような甘い雰囲気に。
 第3楽章、普通なら一転してスタッカートやアクセントを強調するはずだが、ここでも徹底したレガート。ピアノもガンガン叩く感じではない。
 第4楽章、やや遅めのテンポに。42以降のVcがスタッカートを少し強めに付けるが、却ってやや平板に聴こえてしまう。
 全体的に音を切るときにもあまり勢いを付けないので、この曲にしては優美な雰囲気。小倉のVaはしっかり主張している。辻本のVcもよく響いているが、レガートの波の中で1人だけ時折ノンレガートで挑戦しようとするのが結果的に目立ってしまう。ドゥヴォスのピアノは決めるべきところでずしっと響かない。もちろん堀米のVは揺るぎない流れを作っているが、その主流からしばしばはみ出しそうになる3人を山口が最終的に扇の要としてまとめる。

 ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番は昨年3月にフィリアホールでも聴いた。第1楽章、速めのテンポで迷いなく進むスタイルは変わらないが、130以降嬰ヘ短調に転じる153までつなげていく過程など、より息の長いフレーズが感じられる。第2楽章もレガートが効果的で、ピアノの優しいサポートもあり夢見る気分に。第3楽章では頻繁に出てくるFisの8分音符2つのスタッカートをあまりかけない。しかし、第4楽章ではいつもの激しさがようやく戻ってくる。

 バッハのパルティータの2番、「アルマンド」は落ち着いたテンポだが流れに淀みはない。「クーラント」で少し弾む感じが出てくる。「サラバンド」で一度心を鎮めてから、「ジーグ」でテンションを上げて速いパッセージを弾き通す。そして、大きく息を吐いてから「シャコンヌ」へ。
 最初は少し遅めで始めるが、細かい音符の連続となる37以降は徐々に緊張感を高めていく。決して息が詰まるほどではないが、ニ長調に転じるところを目指して息の長さで勝負する感じ。ニ長調の部分は輝きと厚みを備えた響き。ニ短調に戻ってからは徐々に興奮が収まっていくが、最後まで響きの厚みは変わらない。

 共演者たちもカーテンコールに呼び出した後1人で登場し、「まったくしょうがないわねえ」と言わんばかりに歩きながら急いでチューニングしてすぐに「ロンド風ガヴォット」を弾き出す。最初は鼻歌のようだが、主題に挟まれる部分の響きがだんだん充実し、「シャコンヌ」並みの大曲を聴いたような気分に。

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