木嶋真優(V)+江口玲(P)
○2012年3月13日(火)19:00〜20:55
○紀尾井ホール
○2階BR2列23番(2階上手サイド2列目中央よりやや前)
○ロカテッリ/イザイ「ヴァイオリン・ソナタへ短調」Op6−7、ストラヴィンスキー「ディヴェルティメント」、ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調」Op47(約33分、第2楽章繰り返し実施)、チャイコフスキー「ワルツ・スケルツォ」
+吉松隆「平清盛」より「夢詠み…紀行」、ファリャ/クライスラー「スペイン舞曲」、フォーレ「夢のあとに」

心の奥底に潜む思いを表に

 海外での活躍目覚しい木嶋さんだが、東京でのリサイタルはほぼ3年ぶりになる。前回も聴いたが、あまり有名ではないが内容の濃い曲を堂々とした表現で聴かせたことが今でも印象に残っている。今回のプログラムは「クロイツェル」をメインに据え、成長ぶりをいい意味で誇示しようという意欲が感じられる。

 前半はレモン色のレースに覆われたオレンジのドレス。
 ロカテッリのソナタは、緩急緩急の構成。元々それなりに技巧的な曲のようだが、イザイがさらに加えたと思われる重音などの装飾がこれでもか、という感じで耳に飛び込んでくる。「トンボー」(墓標)という副題からは少し離れた、派手だがややけばけばしい感じもする。木嶋さんは低音をたっぷり響かせる一方、速い楽章では過激な編曲ぶりを楽しむかのように大胆に弾き進む。
 ストラヴィンスキーの「ディヴェルティメント」は舞踊音楽「妖精の口づけ」を元にしたものだが、同じスタイルの「イタリア組曲」に比べるとずっと複雑な作風。CD「シャコンヌ」にも収録されている。曲間で弓の切れ端を取り除きながら、こちらも文字通り熱演。ただ、どちらの曲も少し荒っぽい表現が混ざるのが気になる。

 後半の衣裳は上半身は白、下半身は花柄。
 「クロイツェル」第1楽章、落ち着いたヴァイオリンの出だしに続き、5小節目のピアノの出だしはバーンと強めに。18以降のプレストは文字通り速いテンポ。45以降はスコアどおりpで。63の3拍目の重音はスタッカートを付けず4分音符分延ばす。115〜116のアダージョでかなりたっぷり響かせる。144以降ピアノがかなり奔放に弾いてゆくが、これに負けじと149以降のピツィカートを強烈に鳴らし、そのエネルギーを保ったまま155以降のヴァイオリンのメロディにつなげる。ただし、提示部クライマックスの172以降のffは強調しない。
 終盤の578以降のアダージョでもピアノはゆったり響かせる。582以降は突進するが、たたみかけずインテンポのままきっちり終わる。拍手しかける聴衆約1名。
 第2楽章も速いテンポ。第2変奏の細かいフレーズも一気に弾き通すが、一音一音粒立っているのであっさりした感じがしない。最後のFは少し長め。逆に第3変奏では豊かに響いているが、あまり憂鬱な感じはしない。
 第3楽章冒頭のピアノもバーンと大胆に鳴らす。ここもテンポは速い。32のDは強調しない。同じフレーズをしつこく繰り返す58〜61や182〜185ではほとんどテンポを変えない。クライマックス直前の487以降と497以降のアダージョはあまり遅くしない。501以降も最後まで自分のペースを維持。
 全体的にピアノはしばしば大胆な表現をするが、ヴァイオリンは前半より抑え目の表現を貫く。ベートーヴェンの作品という意識が歯止めをかけるのかもしれない。
 「クロイツェル」の後となると、チャイコフスキーはもはやアンコール的位置付けに。前回もそのようなプログラムを組んでいた。彼女の好みかもしれない。前半からステージに置かれていた譜面台も仕舞われ、登場の途中で木嶋さんが江口さんに話しかけ、彼は苦笑?したような顔のまま一礼。このリラックスした雰囲気が演奏にも反映。今にも踊り出しそうな弾きぶり。
 
 アンコールはピアノの譜面台に置かれたipadで曲を決め、譜めくりもタッチ一つで。21世紀の演奏会という感じがする。
 毎週聴いている「平清盛」のエンディングを生で聴けるとは何とも贅沢。放送されているのは短縮版ではなく、オリジナルの長さだとわかる。「スペイン舞曲」は前回も取り上げた曲で前半の大胆な弾き振りが戻ってくる。最後に「夢のあとに」を落ち着いた響きで聴かせ、聴衆の興奮を鎮める。

 全般的に前回に比べ、表現に大胆さが増したような気がする。特に速いフレーズを激しく聴かせる場面が目立った。「平清盛」でだんだん心の奥底の本性を表に出すようになる待賢門院と重なるように見えたのは、テレビの観過ぎだろうか?
 江口さんは今回もピアノの蓋を全開し、時にはヴァイオリンをかき消すことも構わず切り込み、時には弱音で繊細に支える。

 それにしても7割程度の客席の入りとは寂しい。なかなか日本で聴ける機会がない分ある程度仕方ないかもしれないが、今後清盛効果が徐々に現れることを期待したい。

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