ピアノと管楽五重奏団織笛(おるふえ)第17回演奏会
○2011年6月7日(火)19:00〜21:05
○ルーテル市ヶ谷センター
○G列13番(7列目ほぼ中央)
○ヨーロッパ民謡/磯部周平「ABCのうた」
 モーツァルト/大滝雄久「きらきら星変奏曲」K.265
 《6人の奏者、5分間リサイタル》
 テレマン「12のファンタジー」より第2番イ短調(Ob=山本安洋)
 シューベルト「即興曲変イ長調」D.935の2(P=大滝良江)
 熊本県民謡/山本邦山/大滝雄久「五木の子守唄」(Fg=大滝雄久)
 ダマーズ「子守り歌」Op19(Hr=冨成裕一)
 A.F.G.バッハ 練習曲「エレジー」(Cl=磯部周平)
 ドビュッシー「シリンクス」(Fl=一戸敦)

 ムソルグスキー/山本安洋「ホヴァンシチナ」前奏曲
 プロコフィエフ/大滝良江「3つのオレンジへの恋」より「行進曲」
 磯部周平「きらきら星変装曲」
 ラヴェル/磯部周平「ボレロ」
+モーツァルト/磯部周平「トルコ行進曲」

○P=大滝良江、Fl=一戸敦、Ob=山本安洋、Cl=磯部周平、Hr=冨成裕一、Fg=大滝雄久


色褪せぬパイオニア精神 

 ほぼ2年前の魅生瑞の演奏会で、織笛と私との出会いについて書いた。あの時は当時を懐かしみつつも、私にとって織笛はもう生で聴けない、過去の演奏団体だった。
 ところが、17年ぶりに当時のメンバーが集まって織笛が復活すると言う。これはサッカー日本・チェコ戦があろうと、何が何でも駆けつけねばならない。ステージ両端にパイプ椅子が並べられるほどの盛況ぶり。

 「ABCの歌」は静かに始まるが、すぐにウキウキした合奏に。聴衆を一気に楽しい音楽の世界へ引き込むところはさすが。それぞれの楽器が自由奔放に歌い、最後はR.シュトラウスの「ティル」風に終わる。
 モーツァルトの変奏曲では管楽器が交代しながらメロディを受け継いでいくところが面白い。でも、ピアノは伴奏ばかりでさぞ退屈だろうと思っていたら、第7変奏でうっぷんを晴らすようにメロディを弾く。うーむ、すっかりこっちの考えが読まれてるなあ。
 魅生瑞にも受け継がれている5分間リサイタル、山本さんの演奏するテレマンは小曲4つで構成。1曲目以外はかなり動きが激しい。シューベルトは、大滝良江さんが「最近シューベルトっていいなあ」と思った曲だそうだ。確かに他の即興曲の要素が集められて面白いかも。大滝雄久さんは、2年前にも取り上げた「五木の子守唄」を、震災への思いを込めて演奏。富成さんが選んだダマーズは現代フランスの作曲家だそうだが、黒人音楽風のメロディと「タタター」のリズムの連続が印象的。「A.F.G.バッハ」って、ヨハン・セバスチャンの何代後だろうと考えていたら、磯部さんのペンネームだそうだ。本人が紹介したとおり、ロングトーンの練習のはずが飽き足らずに目まぐるしく動き回る。一戸さんの「シリンクス」も震災後音楽家に何ができるか、自問しながらの演奏。

 前半は1列だった補助席が後半は2列に増えている。
 「ホヴァンシチナ」前奏曲は山本さん、「3つのオレンジへの恋」は大滝良江さんがそれぞれ気に入った曲だから編曲されたとのこと。2人とも気軽にお話になるが、こうしたことの積み重ねで織笛や魅生瑞のレパートリーがどんどん拡大していったんだと実感。
 「きらきら星変装曲」以降のトークは磯部さんの独壇場に。「変奏」でなく「変装」というところがミソ。いや、もちろん「ドドソソ」と始まるのだが。あかん、だんだん釣られてきた。ピアノの長大なアルペジオの上を「ドドソソ」のメロディが流れ、タイムマシンに乗って400年前の世界へ。「三星のフーガ」(各変装の題名は喫茶店でメンバーが話し合って決めたそうだ)はバッハ「小フーガ」風、「ケッヘル博士の忘れもの」はもちろんモーツァルト風、「嵐のハイリゲンシュタット」はベートーヴェンの「田園」風に始まるがすぐに激しい音楽へ。「クララのためのロマンス」はシューマン風、「紅葉のマズルカ」はショパン風、「指環(リング)はお嫌い?」はブラ1風に始まるがワーグナー風?が混じる。「コスモスの舞踏」は歯切れのいいバルトーク風、「オレンジ色の行進曲」はさっきどっかで聴いたような音楽(学校廻りをしていた時に子どもに「黒鍵で伴奏しながら白鍵でメロディを弾くとプロコフィエフになる」と言って遊ばせたというエピソードに爆笑)、「星に憑かれた12音」はシェーンベルクと言うよりウェーベルン風。「たそがれどきのレント」がフランセとは思わなかった。そして「終曲/もう一つのフーガ」はブリテン「青少年の管弦楽入門」のフーガにそっくり。おもろい、おもろい!
 「ボレロ」は磯部さんによるとラヴェルに対抗しようとあれこれ茶々を入れたが、結局「ラヴェルにひれ伏して終わる」曲だとか。ピアノの弦の上に布を敷き、譜面台の横におもちゃの小太鼓を置き、大滝良江さんが右手でそれを打ちながら左手で和音を最弱音で鳴らす。そこまで繊細な工夫をする一方で、しばらくするとFgがメロディを早めに切り上げたり、これに加わるFlの連続音が多過ぎたり、ミスみたいなアレンジが出てくる(それとも本当にミスだった?)。途中でストラヴィンスキーの「春の祭典」が顔を出した、と思ったら、管楽器がいきなり全員リコーダーに持ち替えて3度並行のメロディを吹き始める。確かに音色的に似ている。学校の音楽の時間で不良生徒達が一斉にいたずらをしているみたい。何とか元の六重奏に戻っていよいよクライマックス、と思ったら「ダフクロ」が闖入。どうしても普通のピアノ六重奏に編曲したくないという意地なのか、反骨精神なのか、単に人をおちょくって遊びたいだけなのか。演奏を聴きながら何度もふき出す。

 アンコールは、これも学校廻りをしていた頃によく演奏したという「トルコ行進曲」。これまたモーツァルトのイ長調の曲なら何でもいいや、という感じでピアノ協奏曲23番やクラリネット五重奏が乱入。終盤になると、管楽器奏者が1人ずつ立ち上がり、クラリネット協奏曲だけでなく、ファゴット協奏曲なども無理矢理イ長調に転調して割り込む。ああ、この演奏を学校で聴いた子どもたちが羨ましい。

 1979年のデビューコンサート以来室内楽編曲と「楽しいコンサート」の可能性をとことん追求してきた織笛のパイオニア精神は、今も全く色褪せていない。当時に比べれば日本でも自身でアレンジしたりお話したりしながら演奏する音楽家もいないわけではないが、彼らは織笛に追い付くどころか、17年のブランクがあったのに、逆に引き離されてしまっている。織笛のメンバーの中には面白い話ができる人がいる一方で、口数は少いながらも自分の言葉で聴衆にきっちり伝えられる人もいる。そして何より17年のブランクを感じさせない息の合ったアンサンブル。トークと演奏がこれだけ高水準でバランスを保つ演奏家・団体は他に見当たらない。

 長らくN響の首席で活躍された磯部さんも現在は時間がありそうだし、国内主要オケに在籍する他のメンバーも徐々に余裕が出てくるだろう。これを機会に是非織笛としての活動が本格的に再開されることを大いに期待したいし、学校訪問も是非再開してほしい。

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