ギオルギ・バブアゼ(V)+田隅靖子(P)
○2010年3月12日(金) 19:00〜20:55
○カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」
○最後列から3列目ほぼ中央
○オタル・タクタキシヴィリ「ヴァイオリンとピアノのための三つの小品」
 アレクシ・マチャバリアニ「ヴァイオリン協奏曲」第2楽章
 同「ロマンス」
 スルハン・ツィンツァゼ「ポエム」
 ヴァジャ・アザラシヴィリ「スケルツォ」「ノクターン」
 ショスタコーヴィチ「ヴァイオリン・ソナタ」Op134(約33分)
+同・映画音楽「馬あぶ」組曲Op97aより「ロマンス」

グルジアの歌心・ソ連の恐怖

 ギオルギ・バブアゼはグルジアの首都トビリシ出身、2001年から関西フィルのコンサートマスターを務める。2年前自身が率いるトビリシ弦楽四重奏団の公演を東京文化会館小ホールで行い、オール・グルジア・プログラムを披露(詳しくはこちらをご覧下さい)。その時共演した田隅さんと今回はヴァイオリン・リサイタルを開く。大阪場所が間近なので残念ながら今回グルジア出身の力士たちは見えず。120席ほどの小ホールに9割程度の入り。

 タクタキシヴィリ「3つの小品」の1曲目は、ショスタコーヴィチの交響曲第5番第2楽章に出てくるヴァイオリン・ソロを思わせる軽やかなダンスのメロディ。中間部で少し盛り上がって最初のメロディに戻ると、下降音型が続いてだんだん気分が沈んでくる。2曲目は弱音器付で演奏され、風車が回っては止まるようなメロディが印象的。3曲目は2曲目のメロディが明るく変形され、力強く行進。
 マチャヴァリアニ(1913〜1995)のヴァイオリン協奏曲は彼の代表作で、1950年にオイストラフのソロで初演されている。夢見るような優しいメロディに始まり、途中から重音の連続で気分を高めてゆく。最後は雲が空の彼方へ消えてゆくように終わる。
 「ロマンス」はピアノのト長調のアルペジオに始まり、ヴァイオリンが天からふわふわと降りてくる花びらのようなメロディを奏でる。花びらはしばしば風に巻き上げられるが、またふわふわと降りてくる。
 ツィンツァゼ「ポエム」は、D−F−Dといった三度進行の細かい音型に長い音符が続く憂鬱な雰囲気で始まるが、やがて不機嫌そうな激しい動きになり、最後は静かに終わる。
 アザラシヴィリの「スケルツォ」はショスタコーヴィチを思わせるリズムの刻みがしつこく繰り返される。「ノクターン」は一転してロマンティックな曲。杏里「オリヴィアを聴きながら」にそっくりの部分もある。2年前の文化会館のコンサートでは、ピアノ五重奏版でアンコールで演奏されたので、懐かしかった。

 ショスタコーヴィチのヴァイオリン・ソナタは1969年、やはりオイストラフにより初演されている。生で聴くのは初めて。第1楽章はピアノがオクターブで低音から一つずつ計算式で割り出されたような音列を並べ、その上をヴァイオリンがD−S−C−Hの音型を少し崩したメロディを奏でる。じわじわと恐怖が迫るような雰囲気。しかし、ピツィカートで4度の下降音型(死を意味するらしい)が示されると、一気に緊張が高まる。
 第2楽章は変ホ短調、いかにもショスタコらしい無窮動的なスケルツォ。それが似た曲想の協奏曲第1番第2楽章よりも延々と続く感じで、最初の主題が戻ってくると息苦しくなる。譜めくりもピアノとヴァイオリン両方必要で大忙しだが、1人で見事に任務遂行。
 第3楽章はゆっくりした主題に始まる24の変奏曲だが、最晩年のヴィオラ・ソナタほど枯れておらず、しばしば挿入される4度の下降音型が突き刺さってくる。途中でピアノのカデンツァが入り、続いてヴァイオリンのカデンツァとなる。最後に第1楽章の主題が戻ってくるが、再び4度の下降音型で引きちぎられるように終わる。
 アンコールは一転してハ長調の伸びやかな音楽に癒される。

 バブアゼのヴァイオリンは終始引き締まった音色で、前半はグルジアの歌心を惜しげなく披露し、後半はショスタコーヴィチの恐怖心を忠実に伝える。アンコールがまるで両者の和解のように響く。田隅さんのピアノは前半ヴァイオリンに優しく寄り添い、後半は低音を重厚に響かせ、暴れ回るヴァイオリンの手綱をしっかり握っておられる。
 今回もグルジアの作曲家たちの名作をいくつも聴けてよかった。2年前よりさらにグルジアが身近になったような気分。

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