長島剛子・梅本実 リートデュオ・リサイタル
〇2026年10月30日(金)19:00〜20:40
〇浜離宮朝日ホール
〇1階18列14番(最後方から5列目ほぼ中央)
〇リゲティ「夏」、フォルトナー「沈みゆくがよい、美しき太陽よ」、プフィッツナー「許しを求めて」Op29の1、ヒンデミット「ヘルダリーンの詩による6つの歌曲」より第5曲「断章」、ブリテン「6つのヘルダリーン断章」より第5曲「人生の半ば」、リーム「歌曲集」Op1より第3曲「人生の半ば」、ウルマン「沈む太陽」「春」「夕べの幻想」
アイスラー「ヘルダリーン断章集」より第1曲「希望に寄せる」、第5曲「ある街に寄せて(ハイデルベルク)」、第6曲「思い出(ドイツ人の歌)」、リーム「ヘルダリーンの詩による3つの歌曲」(「許しを求めて」「人生の半ば」「ツィンマーに」)、ロイター「ヘルダリーンの詩による3つの歌曲」Op67(「沈む太陽」「夜(パンと葡萄酒より)」「人生行路」)
+リーム「歌曲集」Op1より第3曲「人生の半ば」、ウェーベルン「似た者同士」、リスト「喜びにあふれ、悲しみに満ち」、アイヴズ「イルメナウ」
![]()
一見は百聞に如かず
ソプラノの長島剛子とピアノの梅本実による「世紀末から20世紀へ」と題されたリートデュオ・シリーズも、今回で19回目となる。この日はヘルダリーンの詩による歌曲を集めたプログラムで、8年ぶり3回目となる。7割程度の入り。
リゲティ「夏」は、前半繰り返されるピアノの下降音型に、乾いたメロディが重なっていくのが印象的。
フォルトナー「沈みゆくがよい、美しき太陽よ」はヘ短調を基調とした音楽。ここでも詩の内容に合わせたピアノの下降音型が耳に残る。
プフィッツナー「許しを求めて」は複雑なピアノの和音が鐘のように響くのに乗せて、半音階の祈りのメロディが歌われる。
ヒンデミット「断章」はイ短調を基調とする歌だが、彼特有の機械的なハーモニーが聴ける。彼を嫌っていたヒトラーが政権を取った後に作曲され、最後の「私は空ろで、もはや生きたい気持ちもない」が痛切に響く。
ブリテン「人生の半ば」は変ロ短調を基調にしている。前半の穏やかな音楽と後半の暗い響きのコントラストが面白い。
同じ詩をリームが作曲すると、全く違った音楽に。ピアノによるウェーベルン風の断片的フレーズに、ソプラノも高音と低音の極端な対比、語り風のシュプレッヒシュテンメなどを駆使して歌う。最後はピアノが最低音を肘で打つように響かせる。
以上6曲を一気に歌い上げる。
ウルマンはユダヤ人のためナチスの迫害を受け、収容所で命を落とした作曲家の一人。「沈む太陽」は12音技法だが終始穏やかな響き。「春」は詩の内容と全く合わない陰鬱な音楽。世を去った恋人に会いたい思いが込められているのか?「夕べの幻想」は、前半こそロマンティックな音楽で人々の営みが描かれるが、後半はそれに対する孤独な自分への絶望が歌われる。調性感は残っていて、転調による曲想の変化が興味深い。
アイスラー「希望に寄せる」は、ソプラノによる魂の叫びのような"O!
Hoffnung!"(おお、希望よ!)に始まり、必死に希望を探し求めるが見当たらない。"Wo
bist Du?"(あなたはどこ?)をささやくように歌った後、再び希望への切なる呼びかけが続く。その思いを残酷に否定するかのような、激しいピアノの後奏。
「ある街に寄せて」は、ハイデルベルクの光景を、シューベルトの歌曲を思わせるピアノの和音連打に乗せて、素朴なメロディで歌われる。途中で和音連打が細かくなり、音楽も熱を帯びる場面が2回挟まれる。
「思い出」は、ドイツ人に対する批判と愛に満ちた詩と音楽。世界の人々の考え方に影響を与える思想家たちを生んでいるのにその思想だけ搾取されている、という捉え方が面白い。4分の2拍子の前半と8分の6拍子の後半で曲想も変化。
再びリームの作品。いずれも2004年の作曲。プフィッツナーも作曲した「許しを求めて」は、緊張感に満ちた音楽だが、同時に円熟味も感じられる。
「人生の半ば」は、この日3回目の登場。しかもリームが同じ詩に再び作曲したもの。こちらも前半歌われた曲に比べれば、どこか聴く者に寄り添おうとする響きが伝わってくる。
「ツィンマーに」のツィンマーとは、ヘルダリーンを引き取った家具職人の名前。短いながらも、詩人の想いが凝縮された曲。
最後はヘルマン・ロイターの作品。このシリーズの常連にとっては馴染みのある作曲家だ。「沈む太陽」は、ウルマンよりもさらに抒情的な雰囲気。「夜」も終始穏やかなピアノの伴奏と親しみやすいソプラノのメロディが印象的。最後の「人生行路」では、一転して激しい無窮動的なピアノに、ソプラノの力強いメッセージが歌われる。
今回もヘルダリーンに魅せられた作曲家たちが、いかに多様な歌曲を産み出してきたか、を耳をもって実感。
昨年に続いて今回もステージ後方に字幕で詩が表示され、詩と音楽の組合せの妙を存分に味わう。
アンコールでは前半に歌ったリームの歌曲に続き、ゲーテの詩による歌曲を3曲も。次回の予告編かも。
![]()