木村善明(バリトン)&梅村知世(ピアノ) デュオ・リサイタル
〇2026年9月15日(火)14:00〜15:55
〇武蔵野市民文化会館小ホール
〇13列16番(最後方から3列目中央)
〇ハイドン「天地創造」より「天はあふれる光で輝き」、シューベルト「御者クロノスへ」D369、レーヴェ「詩人トム」Op135a、R.シュトラウス「素朴な歌」より「ああ、不幸なわたし」Op21の4、ヴォルフ「メーリケ詩集」より「狩人」、ブラームス「49のドイツ民謡集」より「太陽はもう輝かない」「谷の底では」「私の彼女はバラの色の唇をしている」、デッサウ「動物の詩」より「豚」「象」、プフィッツナー「4つのリート」より「おまえの馬たちにひづめで掻かせよ」Op32の4
ワーグナー「パルジファル」より「時が来た」、ベルク「ヴォツェック」より「これは一体どういうことだ、ヴォツェック?」、R.シュトラウス「薔薇の騎士」より「私は横になる」
+R.シュトラウス「無口な女」より「なんと音楽は美しいのだ」

日本のオペラ界を牽引する逸材登場

 バリトンの木村善明は東京藝大で博士号まで取得した後渡独し、20年近くドイツなどの歌劇場で活動した後、今年から拠点を日本に戻す。7月に東フィルの「カルメン」にスニガ役で出演したほか、12月には新国「フィガロの結婚」の題名役で出演。その彼が本格的なリサイタルを開くとあっては、行かないわけにはいかない。
 ピアノの梅村も東京藝大修士課程修了、2016年ロベルト・シューマン国際コンクールで最高位を受賞して以降、ドイツを中心に活動している。聴けなかったが、昨年武蔵野市民文化会館小ホールでリサイタルを行っている。
 ちなみにこの二人、ともに岡山県出身で高校も同じとのこと。平日午後のコンサートだが9割以上の入り。

 実はこのリサイタルでとんでもない事件が発生したのだが、それについては別途ブログで記録しておく。

 前半はハイドンからプフィッツナーまで、木村が国内外で学び、レパートリーとしているドイツ・リートを披露する。言わば日経「私の履歴書」の音楽版のようなプログラム。
「天地創造」第2部の「天はあふれる光で輝き」は、第6日の後に大天使ラファエルが歌うアリア。冒頭のフレーズを聴いただけで、類稀な歌手であることを直感。輝きと深みを兼ね備えた声質、豊かな声量、いつまで聴いても飽きない声だ。レシタティーヴォ風の前半ではロウDまで難なく響かせ、バスのレパートリーも十分歌えることを示す。
 その後は木村自身が2,3曲ずつ曲の紹介をしながら歌う。
 シューベルト「御者クロノスへ」は2オクターヴのユニゾンが走る上を歌い始めPは途中から和音連打となる。
 レーヴェはシューベルトと同時代の作曲家で、シューベルトと同じくらい多くの歌曲を残しているにもかかわらず、日本ではマイナーである。木村としては大好きな作曲家で、多くの人に魅力を知ってほしいと願っている。「詩人トム」は詩人のもとに天の女王が現れ、一目惚れした詩人は女王に求愛し、二人で森に入るという内容。ロマンティックな構成のP伴奏がシューベルトと対照的で面白い。
 続いてロマン派後期を代表するR.シュトラウスとヴォルフから。「ああ、不幸なわたし」が失恋の嘆きを歌うのに対し、「狩人」は恋人と喧嘩して家を飛び出した男が森で狩りをするもうまくいかず、気付けば家に戻っていて仲直りするという少しコミカルな歌。
 ブラームスのドイツ民謡集は、ドイツで研鑽中に先生が歌うのを聴いて涙したという。「太陽はもう輝かない」「谷の底では」は失恋の歌、「私の彼女はバラ色の唇をしている」は恋人の魅力を歌う。
 20世紀に活躍したデッサウの「動物の詩」は短いながらも、愚かな動物の所作を紹介しながら実は人間の愚かさを風刺している。「豚」は一本足なのに無理な跳躍をし、「象」は聞き間違えで持ちきれない材木を運ぼうとする。
 そして、前半最後はプフィッツナー。「おまえの馬たちにひづめで掻かせよ」も小曲だが、旅立とうとする恋人を必死に引き留めようとする、切迫した歌。

 これだけの多彩な歌をあの声で歌ってくれる。どの曲にも生気があふれ、歌に込められた感情が、深さと高まりを伴って聴く者に迫ってくる。一つ一つの曲がオペラの一場面のように、劇的な雰囲気を帯びる。ただただ聴き惚れる。

 後半は木村がドイツの歌劇場で歌い演じた役柄を披露。いずれも日本語で役柄の本音を語ってから歌い始める。
 まず梅村が一人で登場。「パルジファル」第2幕冒頭途中から弾き始めると、赤いマントを羽織り、槍を持った木村が登場、途中でクンドリーが登場して二重唱に近くなる部分もあるが、クンドリーの歌はPで多少補足する程度。第1場の終わりまで、クリングゾルのパートは全て歌い切る。マントを上手に脱ぎ捨て、槍も置いて退場。
「ヴォツェック」では白衣を着て黒縁眼鏡をかけて速足で登場、せわしなくステージ上を動き回る。歌い終わるとやはり白衣と眼鏡を上手に脱ぎ捨てて退場。
「薔薇の騎士」は、第2幕で結婚式の関係者たちが去った後の場面。灰色のガウン姿で登場。途中で手下たちが絡む部分はPで補足。途中で懐から手紙を取り出し、Pの譜面台に置いて梅村に読ませようとするが、自分で読むよう突き返される。マリアンデルからのメッセージを日本語で読み上げる。満足してワルツを歌い、眠くなってステージ脇に座り、ガウンを脱いで横になる。仰向けに寝たまま最後のロウEを朗々と響かせる。

 アンコールはR.シュトラウス「無口な女」第3幕でモロザス卿が歌う「なんと音楽は美しいのだ」。素朴だが何とも心に沁みる。

 木村は間違いなく日本のオペラ界を引っ張る歌手としてますます活躍するだろう。彼の歌を少しでも多く聴きたいと純粋に思う。ハイドンからデッサウまで、リートもオペラもしっかり支えた梅村の演奏も見事。

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