ネルソン・ゲルナー ピアノ・リサイタル
〇2026年9月4日(金)19:00〜21:05
〇武蔵野市民文化会館小ホール
〇12列16番(最後列から4列目中央)
〇バッハ「トッカータハ短調」BWV911、シューマン「幻想曲ハ長調」Op17(約32分)
アルベニス「イベリア」第3巻、第4巻
+ショパン「夜想曲第20番嬰ハ短調」(遺作)、ラフマニノフ「前奏曲変ロ長調」Op23の2、ブラームス「間奏曲イ長調」Op118の2
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深遠なシューマンに鳥肌が立つ
2026〜2027シーズン最初の演奏会は、やはり武蔵野市民文化会館小ホールへ行きたいと思っていたら、ちょうどいい具合にピアノ・リサイタルがある。ネルソン・ゲルナーはアルゼンチン出身の57歳。そろそろ円熟期に差し掛かろうとするところだろうか?ほぼ満席の入り。
小柄でほとんど手を振らずにスタスタとステージに登場。何だか微笑ましい。
前半はドイツ物、まずはバッハ。右手だけで細かい音符の多いメロディを弾き始める。レガートが心地良い。12小節目のアダージョも丁寧に歌わせていくが、少しロマンティック過ぎるかも。題名は「トッカータ」だが、33以降はフーガになる。堅牢な音の伽藍が現れる。終盤の171以降のアダージョと174以降のプレストのコントラストも見事。
シューマン「幻想曲」第1楽章、左手の伴奏でいきなり雲海の上に連れていかれる。そのさらに高いところからまばゆいばかりの光に包まれて、天使たちが降りてくる。目まぐるしく曲想が変化するが、どれだけ表現の抽斗があるのか?と思うくらい、難なく弾き分けてゆく。そして225で最初のメロディが回帰してホッと一息。
第2楽章、冒頭の和音の連続は骨太な響き、5〜7にかけての付点のリズムがやや重い。明るい音楽だが、どこかに重苦しさが残っている。後半になると付点のリズムのキレもよくなってくる。
第3楽章、冒頭のアルペジオの何と優美なことか!その上に奏でられるメロディも気品に満ちている。ヘ長調に転じる38以降、徐々に緊張を高めてゆき、68以降のコラール風和音に持っていくまでの周到な音楽の組み立てが見事。ハ長調に戻る99以降、もう一度その興奮を味わえる。その後、音楽は安らかに生を終えるように鎮まってゆく。最後の3つの和音、ハ長調の主和音なのにとびきり美しい。鳥肌が立つ。
後半は一転してアルベニス。「イベリア」は既に全曲録音しているので、彼にとっては自家薬籠中のレパートリーなのだろう。
第3巻「エル・アルバイシン」、変ニ長調。左右の手を重ねながら交互に弾く冒頭メロディ、訥々と情熱の種を巻いていく。69以降、2オクターブ離れたユニゾンのフレーズと鋭い和音の塊が交互に現れ、そのコントラストが楽しい。
「エル・ポーロ」、ヘ短調。8分の6拍子の5拍目にアクセントを置くリズムを基調に、一見単調に聴こえるフレーズが様々な発展を見せる。終盤192以降、pから一気にffまで盛り上げる。
「ラヴァピエス」、変ニ長調、4分の2拍子。時折左右の手が交差しながら、複雑な和音進行が連続。32以降変イ長調に。78以降、1小節半のフレーズに高音部の鋭い和音が応えるといったパターンで音楽が進む。とにかく動きが目まぐるしい。
第4巻「マラガ」、変ロ短調、4分の6拍子。9以降の右手のメロディがよく歌う。転調を繰り返し、そのたびに雰囲気が変わる。
「へレス」、イ短調、4分の3拍子。終始静謐な雰囲気だが、「マラガ」以上にメロディを丁寧に歌わせる。この曲も転調が多い。最後のppppの和音も印象的。
「エリターニャ」、変ホ長調、4分の3拍子。明るく快活な音楽。前半は転調が続く。
どの曲も意外なほど色彩感がなく、エキゾチックな雰囲気もあまりしない。その代わりというわけでもないが、フレージングに隙がなく、リズムもやや窮屈に感じるくらい正確無比に刻んでいる。ゴヤの「黒い絵」シリーズを見たときのことを思い出す。
アンコールは彼のレパートリーの広さを誇示するような選曲。ショパンの夜想曲でまずは唸らせ、ラフマニノフの前奏曲でスケールの大きさを見せ付け、最後にブラームスの間奏曲で聴衆の興奮を落ち着かせる。充実した時間。
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