夕暮れのフランシス・プーランク
〇2026年3月22日(日)16:00〜17:20
〇東京文化会館小ホール
〇Q列28番(最後方から7列目、やや下手寄り)
〇プーランク「クラリネット・ソナタ」「フルート・ソナタ」「ピアノ、オーボエ、ファゴットのための三重奏曲」「ホルンとピアノのためのエレジー」「六重奏曲」

〇Fl=白尾彰、Ob=古部賢一、Cl=三界秀実、Fg=吉田將、Hr=日高剛(「高」はハシゴ高)、P=佐野隆哉


プーランクには夕暮れが合う

 今年の東京・春・音楽祭のプログラムを眺めていたら、「夕暮れのフランシス・プーランク 管楽器とピアノによる室内楽」というのが目に入る。タイトルもおしゃれだし、プログラムも盛りだくさん。これは行かないわけにはいかない。ほぼ半分の入り。

 まずはクラリネット・ソナタ。三界は新日フィル、都響に在籍、都響では首席奏者を務める。
 第1楽章、「悲しげなアレグロ」。この作品の前に書かれたフルート・ソナタ冒頭のフレーズを反転させた動機がffで激しく提示される。ネズミが少し走っては止まり、また走っては止まり、といった動作を繰り返し、ようやく穴の中に逃げ込んで一息つくような雰囲気。9小節目以降は伸びやかで夢見心地の歌となる。その後もフルート・ソナタに似たフレーズが顔を出す。
 第2楽章、ロマンツァ。ppの静かなフレーズが、fの32分音符の下降音階でさえぎられる。19以降に2度提示される2オクターブの64分音符による上昇音階が印象的。
 第3楽章、情熱的なアレグロ。快活でリズミカルな主部と憂鬱な雰囲気の中間部が交互する。
 消え入りそうな弱音を美しく響かせ、この曲に込められた悲しみや鬱屈した気分を巧みに表現。

 続いてフルート・ソナタ。白尾は新日フィルの元首席奏者。
 第1楽章、冒頭の32分音符のフレーズがややかすれるが、その後のメロディは控え目ながらもスムーズな流れ。
 第2楽章、変ロ短調のメロディをしっとりと響かせる。
 第3楽章、陽気で快活な音楽だが、どこかはしゃぎ過ぎまいと自制しながら進む感じ。
 フルート特有の華やかな響きを少し抑え、どこかひなびた雰囲気が伝わる演奏。

 ピアノ、オーボエとファゴットのための三重奏曲はこの日のプログラムの中で最も若い時期の作品。古部は新日フィルの元首席奏者、吉田は読響やサイトウキネンオーケストラの元首席奏者。
 第1楽章、ピアノの荘厳な序奏を受けて、ファゴットのカデンツァ、堂々とした中にもどこか斜に構えた雰囲気が入り混じる。続くオーボエのカデンツァも同様。15以降2人一緒に吹き始める。
 第2楽章、ここもまずピアノのメランコリックな序奏の後ファゴットがまず悲し気なメロディを提示し、そこにオーボエがかぶって3者によるアンサンブルとなる。
 第3楽章、ピアノが一転して明るい舞曲風メロディを提示すると、今度はオーボエとファゴットが揃ってこれに応える。春の訪れを喜ぶような雰囲気が、自然と聴く者の心も温めてくれる。
 終始安定した響きの吉田に対し、古部は高音でもうひと伸びほしいところも。

 ホルンとピアノのためのエレジーは「デニス・ブレインの思い出に」との副題が付いている。日��はN響を含む数団体のオケに所属したのち、現在は新日フィルの客演首席。
 冒頭のホルンの主題は12音で書かれている。続くアジタート・モルトでは16分音符4つのフレーズが繰り返されることで、ブレインの死の衝撃を表現しているのだろうか。ピアノが別の12音主題を提示し、同じ曲想の音楽がまた現れる。
 33以降4分の3の穏やかな追悼の歌をホルンが奏でる。少しずつ感情が高まり、105以降低音から突き上げるような激しい分散和音となるが、それも徐々に収まってゆき、最後のホルンのフレーズも12音。Hのロングトーンにピアノの低音がビッグ・ベンの鐘のように鳴る。
 暗めの響きで終始緊張を保った演奏。

 最後は六重奏曲。ピアノの前に下手からフルート、オーボエ、ホルン、ファゴット、クラリネットの順に並ぶ。
 第1楽章、フルート以外の5人が3オクターヴを一気に駆け上がる。6以降の主部に入るところで、ここだけ譜めくりストが忘れて、佐野が素早くページをめくる。ピアノの無機的な16分音符の伴奏の上を管の5人がリズミカルだがドライなアンサンブルを聴かせる。
 111の全員の和音の後ファゴットだけが残ってカデンツァ。曲想が穏やかになり、117以降オーボエに続き、125以降ホルンがロマンティックな歌を聴かせる。
 第2楽章、オーボエが優美な主題を聴かせ、これに導かれるように他の管楽器も加わる。19以降の中間部はホルンのフレーズを皮切りに弾むような音楽に。
 第3楽章、短い序奏に続いてまたもホルンが力強い主題を提示。その後もたびたびホルンがメロディを受け持つので、このためにホルンを中央に置いたのかと思わせる。最後の豊麗な和音がだんだん減衰していくところなど、正に「夕暮れのフランシス・プーランク」にふさわしい。

 第一線から一歩退いた名手たちが、それぞれの持ち味を生かしながら披露するプーランクにはどこかほのぼのとした雰囲気が漂う。しかし、この演奏会の一番の功労者はピアノの佐野だろう。軽いタッチと切れ味鋭いフレージングで、基本的には控え目だが要所で存在感を発揮。全体約80分弱のプログラムを休憩なしで弾き通すスタミナにも脱帽。

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