ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会��
〇2024年3月16日(土)15:00〜16:50
〇東京文化会館小ホール
〇R列34番(最後列から6列目ほぼ中央)
〇ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第5番ハ短調」Op10の1、同「同第12番変イ長調」Op26(約17分)、同「同第22番ヘ長調」Op54
 同
「同第17番ニ短調」Op31の2(テンペスト)(約19分)、同「同第18番変ホ長調」Op31の3(約20分)
(以上、繰り返し全て実施)
+同「同第6番ヘ長調」Op10の2より第3楽章

あっさりからだんだんこってりへ

 ルドルフ・ブッフビンダーは現在77歳だが、ベートーヴェン弾きとしては長年高い評価を得ている。2021年にピアノ・ソナタとピアノ協奏曲全曲の録音をリリース。その前年に日本でもピアノ・ソナタ全曲演奏会が予定されていたがコロナの影響で延期。今年20周年を迎える東京・春・音楽祭で改めて7回に分けて全曲演奏を行うこととなり、この日はその2日目。ほぼ満席の入り。

 第5番、第1楽章冒頭から速いテンポですいすい弾いていく。強弱の変化もあまり明確でない。第2楽章も速め。音楽の流れはスムーズだが、あまりにスムーズで耳に残らない。第3楽章でやや緊張が高まるが、終盤のでクレッシェンドで音楽の流れも弱々しくなってゆく。ソナタと言うよりバガテルを聴いているような気分。
 より複雑になっているはずの第12番でも、弾きぶりが変わらない。第1楽章の主題も軽やかに提示、変奏に入ってもなかなか響きが豊かになってくれない。短調になる第3変奏でやや暗めの響きになる程度。
 第2楽章17〜21小節にかけてのpからsfへの盛り上がりも控え目。第3楽章、葬送行進曲の和音も終始響きが軽く、右から左へ抜けていくような感じ。40年近く前にハンブルクでこの曲をポリーニで聴いたときの印象とあまりに違うので、面食らう。第4楽章も一筆書きのようにサラサラと弾いていくのだが、本当にこんな曲だったっけ?
 第22番第1楽章、メロディが少し歌うようになる。付点のリズムが続くメロディックな部分と24以降3連符の和音を連打していく部分との曲想の違いも少しはっきりしてくる。第2楽章は無窮動的なフレーズが延々と続くのだが、徐々に緊張が高まってゆき、だんだん聴く方も息苦しくなっていく。ようやく着地して、こちらもホッとする。

 後半の「テンペスト」第1楽章、ここでもppの序奏から徐々に緊張が高まるのがこちらにも伝わるようになってきた。21以降、左手が右手を交差してメロディを提示するが、右手の伴奏の方が目立つ。
 第2楽章、やや落ち着いたテンポになった分メロディもより歌い、和音の響きも広がりが感じられるようになる。
 第3楽章、前半のようにサラサラ弾き飛ばすかと思われたが、30以降左手がメロディを主導する部分で初めて低音をfでしっかり響かせ、俄然音楽に奥行きが出てくる。やっと心に引っかかるような、ベートーヴェン特有の曲想が聴けるようになってきた。

 第18番第1楽章、頻繁に繰り返される「ターンタタ」のフレーズを聴く者に刻み付けるように弾く。ようやく「しつこいベートーヴェン」になってきた。35以降、2小節ごとの<>を繰り返しながら緊張を高めていくところも振幅が大きくなってきた。
 第2楽章になると、スムーズな音楽の流れを維持しつつ、34〜35のffとpなど、強弱の幅もはっきり付けるようになる。
 第3楽章はメヌエットだが、今度はメロディを丁寧に歌わせ、緩徐楽章に近い雰囲気に。
 第4楽章、終始変わらない軽やかな音楽の流れにsfなどのアクセントを濃い目に付け、強弱の幅も明確。前半の3曲とは打って変わってスケールの大きな、これぞベートーヴェンの醍醐味と言うべき演奏。
 聴衆の一部が最後の和音が鳴り終わらないうちに拍手のフライング。ただ、それも納得できるくらいの熱演。

 アンコールも第22番の第2楽章をより単純にしたような無窮動的音楽。このようなパターンの曲が得意なのかもしれない。一部立ち上がって喝采を送る聴衆も。

 今回のツィクルスは、3日連続本番、中1日でさらに4日連続本番というかなりタイトなスケジュール。おそらくそのせいもあってか、前半をあっさりめに弾いて後半にスタミナを温存しているようにも見える。表現の幅と奥行きも後半になると断然豊かになり、これが本来の演奏スタイルなのだろう。

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