アドリアン・プラバーヴァ指揮シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団
〇2026年5月25日(月)19:00〜21:15
〇武蔵野市民文化会館大ホール
〇2階38列21番(2階最前列ほぼ中央)
〇ベートーヴェン「レオノーレ」序曲第1番Op138
 同「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」Op61(約44分)
+イザイ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調」より第4楽章「復讐の女神たち」(以上、V=アンティエ・ヴァイトハース)
 同「交響曲第5番ハ短調」Op67(運命)(約31分、第1楽章提示部、第3楽章トリオ繰り返し実施)
+同「コリオラン」序曲Op62
(12-10-8-6-4、下手から1V-Vc-Va-2V、CbはVcの後方)

パイネマン級の巨匠ヴァイオリニスト現る

 シュトゥットガルト・フィルは一昨年創設100周年を迎えた。ワインガルトナー、クナッパーツブッシュ、シューリヒトなども指揮したドイツでも有数のオケの一つである。堂々とオール・ベートーヴェン・プログラムを組むところにオケとしての矜持が見える。ほぼ満席の入り。

「レオノーレ」序曲第1番は、作品番号こそOp138だが、作曲された時期としては最もよく演奏される第3番とあまり変わらないようだ。序奏にしても主題にしても、3番よりはるかに単純で、内容的にもベートーヴェンにしては物足りない感じが残る。そんな短所も含めてきっちりした演奏。

 ヴァイオリン協奏曲のソリスト、ヴァイトハースは1966年ベルリン生まれ。1991年にヨアヒム国際コンクールで優勝したが、演奏活動よりもベルリン芸術大学、ハンス・アイスラー音楽大学、クロンベルク・アカデミーなどで教育者としての活動の方がよく知られているかもしれない。自身も優勝したバッハ国際コンクールで、彼女に師事した岡本誠司が優勝していることで、日本では馴染みがあるかもしれない。銀色に近いグレーのワンピース姿。
 第1楽章、冒頭のティンパニから緊張が高まる。Obも良く歌うし、10小節目以降の弦の刻みも引き締まったフレージング。自分たちの先生がソリストなので気合を入れて弾いている学生オーケストラのような雰囲気すら漂う。29や31の全休止にもピンと張り詰めた空気を感じる。79〜80、83〜84のティンパニのトレモロを目立たせて、まるで交響曲の1楽章のような重厚な序奏。
 89から始まるソロは、そんな学生たちにお手本を示すような、落ち着いた中にも毅然とした弾きぶり。101以降の第1主題には隙がなく、111以降のG線からの上昇アルペジオは、さほど力を入れていないのにしっかり客席まで届く。151でイ長調からイ短調に転じるが、明るい日差しにさっと雲がかかる感じ。181以降、16分音符による細かいフレーズが延々と続くが、旋律を担当するパートの方を向きながら、室内楽のような緻密さでアンサンブルを組み立てていくのに聴き惚れる。普通は細心の注意を払って弾く204の高音を何事もないようにさらりと響かせるのも心憎い。217以降224の全奏に向けて盛り上げていくところもレガートでいながら一音一音の輪郭が不明瞭にならない。
 301以降、ロ短調からト短調へ展開してゆく部分もソロとオケが緊密に掛け合い、メランコリックな雰囲気を創り上げる。357以降そこから一歩ずつ気を取り直して冒頭の主題に戻るところも、ソリストのリーダーシップが際立つ。
 カデンツァはベートーヴェン自身が編曲したピアノ協奏曲版のカデンツァを元にしたもので、変ロ長調の主題を重音で響かせた後、ティンパニとのやり取りが面白い。
 第1楽章が終わったところでパラパラ拍手。

 第2楽章、やや速め。ソロは淡々と弾き進み、15〜16の高音もさり気なく。28以降は一気に緊張を高めるものの、40以降は再び穏やかな空気を隅々まで送ってゆく。
 その穏やかさがだんだん遠ざかってゆくのを名残惜しそうに見送ったところで、88の弦の重厚な和音が鳴る。
 少し長めのカデンツァを披露してから第3楽章へ。派手さはないが素朴な明るさに満ちている。
 イ長調に転じる50以降も軽快に弾いていくが、ロンド主題に戻る直前の92でも短いカデンツァを入れる。
 ト短調に転じる127以降のFgとのやり取りにもうっとり。
 278のカデンツァも通常通り入れる。トリルになったところで280以降に低弦が入ってくるのがこれまた快感。

 技巧をひけらかすようなところは一切ないが、端正ながら隙のないフレージングが気品に満ちた響きを生み出す。そこにベートーヴェンらしい生命力が加わる。同じくドイツ生まれで若くして評価されながら教育活動に重きを置いたために録音があまり残っていないエディト・パイネマン(1937〜2023)を思い出してしまった。彼女が今生きていたらこんな演奏をしたのかなあと勝手に妄想。
「ありがとう」の後曲名と「ベートヴェンには何の関係もないけど」と前置きしてアンコール。聴衆の興奮を鎮めるなんてな発想は全くないらしく、イザイをバリバリ弾いて、聴く者をさらに熱狂させる。カッコイイ!

 後半の「運命」第1楽章、テンポはほぼ標準的だが、冒頭の「タタタ」の前に休符がある感じがしない。「ター」のフェルマータは2回目の方が短いくらい?56〜57,58の全休止に前半ほどの緊張感がない。75以降の1Vのフレーズを楽譜のスラーを重視して2小節ごとに区切りながら弾かせる。
 展開部182以降のVa以下の下降フレーズは力強い。196以降の管と弦の掛け合い、管はマルカート気味だが弦はレガート。
 再現部268のObソロが吹き終わらないうちに1Vの「タタタター」が始まる。303以降のFgの「タタタター」もレガートを維持して生命感がみなぎっている。
 第2楽章、VaとVcの第1主題は引き締まったフレージング。全奏になった後の31でVcが1オクターブ降りるところも心地良い。2回目の全奏が収まった後の88以降、VとVaのメロディに絡むVcの刻みもppながら存在感がある。
 3回目の全奏の後、ppの弦の刻みに加わる127以降の木管も良く歌う。変イ短調に転じた後変イ長調に戻って最後の盛り上がりへつなげる180以降の低弦の支えも素晴らしい。205以降のFgも雄弁。
 第3楽章、ここも低弦主導で音楽が進む。主部終盤の114以降頂点に向かって徐々に盛り上げていくFgとVcの息長いフレーズも聴き応え十分。
 トリオの低弦も迫力十分。
 第4楽章に入っても低弦の支えが安定、CFgやTbも加わってより厚みのある響きに。34以降も低弦とFgの支えはしっかり聴こえるが、旋律パートのVの響きが薄い。50以降1Vのpのメロディに2V以下がfで応える部分も少しバランスが悪い。64以降の第2主題、Vaはよく響いているがそれに合の手を入れる2Vがやや弱い。
 展開部、木管主導から再び全奏へ至る106以降、ここでも低弦の支えが頼もしい。112以降のTbも朗々とした響きで心地良い。頂点に達した132以降2VとVaが走り始めるが、ここもVaの方が目立つ。
 その後もVa以下の安定した響きの一方で、せっかくの対抗配置のVがもう一息聴こえてこないのがもどかしい。終盤で頻繁に出てくるGP(全休止)も前半ほどの切れ味がないのが惜しい。

 アンコールは「運命」と同じころに書かれ、同じハ短調の「コリオラン」序曲。演奏が終わって指揮者がしばらく動かず、ホールを静寂が支配する。

 プラバーヴァは指揮者には珍しいインドネシア出身。デトモルトではヴァイオリンを学んでいるが、その後指揮に転じマズアやハイティンクの副指揮者を務めたようだ。職人肌の指揮ぶりで、協奏曲以外は暗譜。指揮者としての経験を積むにはシュトゥットガルト・フィルのようなオケは最適だろう。日本のオケにも2回ほど客演しているようだが、また来てほしいものだ。

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