バイエルン州立ゲルトナープラッツ劇場管弦楽団
〇2026年4月29日(水・祝)14:00〜16:25
〇武蔵野市民文化会館大ホール
〇2階38列21番(2階最前列中央)
〇バーンスタイン「キャンディード」序曲、同「ウェスト・サイド・ストーリー」より「マリア」「トゥナイト」(T=ルチアン・クラズネツ、S=レーカ・クリストフ)、同「セレナード」(約30分)
+ヴァインベルク/クレメル「24の前奏曲」Op100より第5番(以上V=クレメル)
ワーグナー「さまよえるオランダ人」より「期限は切れた」(Br=マティヤ・メイッチ)、同「ワルキューレ」より「冬の嵐は過ぎ去り」(T=クラズネツ)、同「タンホイザー」より「夕星の歌」(Br=メイッチ)
R.シュトラウス「4つの最後の歌」より「夕映え」(S=クリストフ)、同「薔薇の騎士」組曲
+同「明日の朝」Op27の4、菅野よう子「花は咲く」
〇ミヒャエル・バルケ指揮
〇12-10-8-6-5, 下手より1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方

神業ヴァイオリニストの有終の美

 ミュンヘンで歌劇場と言えば、誰しもクライバーやサヴァリッシュなど数々の名指揮者が数々の名演を残し、何度も来日公演を行っているバイエルン国立(州立)歌劇場を思い浮かべるが、州立歌劇場はもう一つある。1865年、ワーグナーの庇護者として有名なあのバイエルン国王、ルートヴィヒ2世が民衆の要望を受けて設立した、ゲルトナープラッツ歌劇場である。ウィーンで言えば国立歌劇場に対するフォルクスオパーのような位置付けの、正に「民衆劇場」(Volkstheater、フォルクステアター)として、オペレッタやミュージカルを含む幅広いレパートリーを上演している。
 そのオケが来日するだけでも注目だが、そこに往年の神業ヴァイオリニスト、ギドン・クレメルがソリストとして最後の日本公演を行うとあっては、行かないわけにはいかない。ほぼ満席の入り。

 前半はオール・バーンスタイン・プログラム。「キャンディード」序曲はドイツのオケらしく生真面目な演奏だが、弱拍の突っ込みなどリズムにやや乱れが見られる。
「マリア」を歌うクラズネツはルーマニア出身。明るく張りのある声で、英語の発音も明瞭。
「トゥナイト」にはハンガリー出身のクリストフも加わる。こちらも豊かな響きと気品を備えた声だが、英語の発音が不明瞭。

 さて、いよいよクレメルの登場。カーキ色のシャツに黒ズボン姿。79歳だが足取りはしっかりしている。譜面台を自分のほぼ真左に置く。
「セレナード」第1楽章「ファイドロス - パウサニアス」、ゆったりした序奏から速い主部に移っていくあたりまでは、まずまず無難だったが、中盤以降重音が多用される部分になると、まだ楽器が温まっていない感じがする。弓の毛が頻繁に切れ、演奏の合い間に切れた毛を抜くので、観ている方も落ち着かない。
 第2楽章「アリストファネス」は終始丁寧に歌っていく。少し弾きぶりにも余裕が出てくる。
 第3楽章「エリュキシマコス」は無窮動的で、短いながらも技巧的な曲だが、このあたりから弓の毛は切れなくなる。
 第4楽章「アガトン」、緩急入り混じる起伏の大きい音楽。かつてのクレメルならもっとスケール感を出せただろうに、とつい思ってしまう。
 第5楽章「ソクラテス - アルキビアデス」は賑やかなどんちゃん騒ぎ。オケは盛り上がっているが、そこにヴァイオリンが十分切り込めていけないのが、もどかしい。
 聴きながら1990年代初めにカーネギーホールでシュニトケなどを弾いていた姿を思い出していた。緊張感に満ちた音、剃刀のような切れ味のフレージング、刃物の上を歩いているようなピアニシモ。たまに運指が危なっかしくなっても、それも含めて聴く者を興奮させる。残念ながらそんな姿は見られなかった。

 しかし、諦めるのはまだ早い。アンコールのヴァインベルクの冒頭で、ようやくG線から骨太の音が出てきた。高音域のフレーズもしなやかで美しい。最後の最後に円熟の演奏を聴けて、ホッとする。長らくお疲れ様でした!

 後半はワーグナーとリヒャルト・シュトラウス、バイエルンのオケの得意レパートリーが並ぶ。
「期限は切れた」を歌うメイッチはクロアチア出身。陰のある声質は魅力的だし、声量も十分だが、音程がアバウト。
 クラズネツの「冬の嵐は過ぎ去り」は、張りのある声質と甘美なフレージングが見事に融合。
 メイッチが再び登場して「夕星の歌」。こちらの音程はまずまず。歌に応えるVcのフレーズに聴き惚れる。
 ここまでで一旦指揮者も退場。

「夕映えの中で」のクリストフは安定した歌いぶり。
「薔薇の騎士」組曲も終始手堅い演奏だが、目まぐるしい転調が織り成すハーモニーの変化で、シュトラウス特有の色気のようなものが伝わってくる。

 ここまでで十分盛りだくさんなのだが、さらにアンコール2曲の大サービス。「明日の朝」はクリストフがしっとりと歌う。せっかくの豊かな声量を発揮できる曲がこの日はなくてもったいない。
「花は咲く」はオケのみの演奏だが、さすが劇場のオケと言うべきか、どのパートも雄弁に歌う。

 バルケの指揮は終始安全運転という感じだが、ドイツのオケらしく、Va以下の弦ががっちりまとまっているので、ハーモニーに安定感がある。単に各パートがよく響くだけでなく、互いにかみ合っているのが何とも心地良い。オケの規模とホールの大きさもちょうどいいバランスが取れている。ぜひまた来日してほしいものだ。

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