新国立劇場「こうもり」
〇2026年1月27日(火)14:00〜17:15
〇オペラパレス
〇4階4列56番(4階最後列上手端)
〇アイゼンシュタイン=トーマス・ブロンデル(T)、ロザリンデ=ザビーネ・ツヴィラク(S)、アデーレ=マリア・シャブーニア(S)、オルロフスキー=藤木大地(CT)、フランク=レヴェント・バキルジ(B)、ファルケ=ラファエル・フィンガーロス(Br)、アルフレード=伊藤達人(T)、フロッシュ=ホルスト・ラムネク(BBr)、ブリント=青地英幸(T)、イーダ=今野沙知恵(S)
〇ダニエル・コーエン指揮東響(12-10-8-6-4)、新国立劇場合唱団、東京シティ・バレエ団
〇ハインツ・ツェドニク演出
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再演を侮るなかれ
新国立劇場の「こうもり」は2006年にテノール歌手のハインツ・ツェドニク演出による舞台が初演され、以降再演を重ねて今シーズンで7回目となる。すっかり新国のレパートリーとして定着しているが、不覚にもまだ観たことがなかった。
平日マチネにもかかわらずほぼ満席の入り。課外授業と見られる高校生たちの姿が目立つ。
序曲が始まるとオペラカーテンが開き、このオペレッタを紹介する戯画が現れる。右側に仮面を被った女性の大きな顔、彼女が吊り下げる時計を下の燕尾服姿の男が這いつくばって取ろうとしている。左側には夜会の客たちや街灯が描かれ、時計と街灯にスポットが当たっている。
第1幕、アイゼンシュタイン邸の庭。通常室内で演じられるが、屋外というのは珍しい。下手手前にテーブルと籐の椅子、上手手前にも東屋風のスペースがあり、やはりテーブルと椅子がある。奥は下手から格子状の門、女中部屋、邸の本宅が並んでいる。
通常舞台裏から歌われるアルフレードの求愛の歌、舞台中央に立つ彼にファルケが何事か指示して下手に退場。アルフレードも一節歌った後下手に下がる。女中部屋からアデーレ登場。2回目のアルフレードの歌は舞台裏から。
アデーレと入れ替わりに本宅からロザリンデ登場。下手の椅子に座って薬を飲み、安静にしているところへアルフレードがやってくる。何とかアルフレードを去らせると字幕に「あの日本人テノール」と表示されて笑わせる。
ロザリンデとアデーレの二重唱の後、門からアイゼンシュタインとブリントが入ってくる。ブリントは帽子を落としたまま一旦退場するが、忘れたことに気づいてこっそり戻り、アイゼンシュタインたちに見つかってまたもめる。
ブリントが去った後アイゼンシュタインはアデーレに夕食の準備を指示。寿司、刺身、しゃぶしゃぶ、酒を日本語で注文。
門からファルケ登場。ロザリンデがアイゼンシュタインの服を取りに行くか間に夜会に誘い、アイゼンシュタインもだんだん乗り気になる。二重唱が終わってロザリンデが戻ってくると、ファルケは縄跳び、アイゼンシュタインは籐椅子を頭上に持ち上げる。
ファルケが去るとアイゼンシュタインは上機嫌で本宅に退場。アデーレが門から夕食を東屋へ運んでくる。盆の上に重箱と急須と茶碗が乗っている。ロザリンデから休暇を許可され、喜ぶアデーレ。
燕尾服姿のアイゼンシュタインが登場し、三重唱。途中でロザリンデに重箱の蓋でお腹を叩かれる。アデーレのお尻を触るが悲鳴なし。歌い終わるとアデーレも女中部屋へ。
アルフレードが再び現れ、アイゼンシュタインのガウンを着て、茶碗で「さあ飲もう」と歌いかける。
門からフランクが警官2人を伴い登場。アルフレード、再び茶碗を持ってフランクに一緒に飲むよう勧めるが、結局飲ませない。その様子にロザリンデは特に反応なし。その間にアデーレが本宅からこっそりロザリンデの服を抱えて女中部屋から門を通って脱出成功。
ようやく警官2人がアルフレードを連行。フランクも去って1人残ったロザリンデに招待状が届く。
第2幕、戯画が上がると舞台前方のみを用いた舞台。上下2段になっていて、中央に上下をつなぐ階段が下手側からかけられ、上がったところが踊り場状になっていて、アリアを歌う歌手たちの舞台の役割も果たす。上段の左右にさらに3段ほどの階段と5,6人立てそうな床を伴ったスペースが作られ、その上に歌手たちが立ったり、上段にいる歌手たちのベンチに使われたりする。
夜会に集まった客たちの合唱が終わった後、その音楽がBGM風に繰り返される間に客たち退場。
下段の下手からアデーレ登場、上手にいるイーダを見つけて声をかける。ロザリンデの服をこっそり借りただけでなく「丈を詰めて」というのが笑える。上手からオルロフスキーの声がすると、2人は上段の下手へ移動して座る。
ファルケ、2人の従者とともにオルロフスキー登場。上段中央の椅子に座る。イーダとアデーレに財布を渡すと、2人は喜んで上手へ退場。
下段下手からアイゼンシュタイン登場。ウオッカを勧められると、アイゼンシュタインはオルロフスキーが座っていた椅子へ。従者から注がれたウオッカを飲んで噴き出す。
オルロフスキーは「私は客を迎えるのが好き」を踊り場で歌い始め、途中で蓋をしたウオッカの瓶をファルケに投げる。瓶は逆さまになるがファルケ、ナイスキャッチ。
上手からアデーレとイーダが戻ってくる。アイゼンシュタインと鉢合わせ、客たちも集まってくる。アデーレも踊り場で「侯爵様、あなたのような方は」を歌う。
下段下手からフランク登場。上段に上がってアイゼンシュタインとフランス語のやり取り。途中で日本語も混ざる。一旦客たちははけるが、その際にアイゼンシュタインがアデーレのお尻を触る。アデーレ今度は悲鳴を上げる。
舞台にはファルケ1人残る。下段下手から仮面を被ったロザリンデ(ハンガリーの伯爵夫人)登場。上段に上がって下手側に座る。上手からアイゼンシュタインとフランク登場、ファルケに声をかけられ、伯爵夫人に気付く。フランクも興味津々だが、アイゼンシュタインが挑戦することとなり、ファルケとフランクは上手へ退場。
伯爵夫人とアイゼンシュタインのやり取りは下手のベンチで。心拍を数える役割を交代すると言って伯爵夫人はアイゼンシュタインの時計を取り上げ、胸元へ。
客たち再び集まってくる。伯爵夫人はアデーレの服を見て、「丈を詰め」たことに気付く。チャールダーシュは踊り場で歌う。
男のダンサー5人が登場し、ヨハン・シュトラウス2世のポルカ・シュネル「ハンガリー万歳!」に合わせて踊る。うち1人は上段でときどき夫人にも絡むが、絡み方がやや中途半端。
「シャンパンの歌」で舞台の仕切りが外され、前方の段差もなくなり、ようやく奥の広大な夜会場が現れる。これ以降「兄弟姉妹になりましょう」も含め、ソロで歌う歌手たちが舞台前方に出てくるまでの距離が遠くなり、動きがややせわしくなる。伯爵夫人にアイゼンシュタインとフランクが寄り添い、アイゼンシュタインは隙を見て胸元の時計を取り戻そうとするが失敗。
ポルカ「雷鳴と電光」が始まると、歌手たちは後方へ、前方には男女5組のダンサーたちが登場。後方ではフォークダンス風の輪舞から全員が1列になっての行進となり、前方のダンサーたちも加わる。最後はお決まりのアイゼンシュタインと伯爵夫人の正面衝突からドミノ倒しとなる。その一部始終をオルロフスキーだけは前方で1人眺めている。
朝6時の鐘が鳴り、慌てて下手へ退場するアイゼンシュタインとフランクの様子を見て、オルロフスキーは腹を抱えて大笑いし、ひっくり返る。
そのまま休憩なしに第3幕へ。舞台前方、第2幕前半と同様の構造で、上段の中央が所長室。奥の上手寄りに舎房につながるドア、上手側にもドアがあり、その外は奥に向かって細い廊下がある。
フロッシュは奥のドアから登場、いつものシュナップスでなく焼酎の小瓶を持っている。朝の挨拶、3つ数えるのも日本語で。カレンダーのギャグはなし。「アンネン・ポルカ」に乗って歌う場面も。フロッシュ役には珍しい。
フロッシュの退場と入れ替わりに上手側のドアからフランク帰ってくる。コートとマフラーは床に脱ぎ捨て、上着も取って刑務所の制服を羽織り、下手側の机に向かう。時計をカップに入れてお湯を注ぎ、ティーバッグを見て時刻を知ろうとする。机の上のろうそくの火で煙草に火を付け、水の噴射機でろうそくの火を消し、煙草をくわえて座り、新聞を頭上に掲げて読むうちに眠りこけて煙草の火で新聞に穴を開ける、というお決まりのパターン。
フロッシュ戻ってフランクとのやり取り。呼び鈴が鳴ると、フロッシュは下手の窓から下を覗き込む。ただ、そのさらに下手側にも部屋のような空間があり、舞台構造としてはちょっと辻褄が合わない。
アデーレとイーダが廊下を通って上手側のドアから入ってくる。「田舎娘になって」を歌い終わった後、アイゼンシュタインが来るというので、フロッシュは2人を奥のドアから隠れさせる。
廊下を通って上手側から入ってくるアイゼンシュタイン。フランクと互いに正体を打ち明け合っては口に入れた水を噴き出す。
フランクが退場し、アイゼンシュタインが所長の椅子に座っていると、下段下手からフロッシュがブリントを連れて登場。フロッシュが退場(山高帽のギャグもあるが今一つ受けない)した後アイゼンシュタインはブリントの上着と眼鏡とかつらを取り上げる。
奥のドアからアルフレード、上手側のドアからロザリンデ登場。アイゼンシュタインとの三重唱は、アイゼンシュタインが所長席に座り、アルフレードとロザリンデが上手に置かれた、裁判所内の仕切りのような木製の柵の中の椅子に座って始まる。激高したアイゼンシュタインは所長の机の上に立って正体を現す。しかし、ロザリンデに時計を見せられて万事休す。
種明かしの場面では刑務所の壁が上がって、再び奥の夜会場が現れる。しかし、舎房につながるドアはそのままで、最後の合唱を歌い終わるとフロッシュはアイゼンシュタインを収容すべく連れて行こうとする。でもその先はまた夜会場なのでは?
ブロンデルはベルギー出身、ワーグナーでは「ラインの黄金」ローゲ、「マイスタージンガー」ダーヴィッドだけでなくジークフリートも歌うようで、キャラクターテノールとヘルデンテノールの両方の役ができる器用な歌手のようだ。声質としては明るくよく通るので前者に近いと思うが、通常アイゼンシュタインをテノールが歌う場合は後者が多いことを考えても、役柄としてはむしろ前者の声質の方が合っていると思わせるだけの説得力がある。
ツヴィラクはスロヴェニア出身、最初はリューやミミなどのリリックや役柄を歌っていたが、2023年新国に初登場したときには「タンホイザー」のエリーザベトを歌っている。高音が朗々と響くのが心地良く、ロザリンデにはぴったし。
シャブーニアはベラルーシ出身、技巧は確かだが、声の線が細過ぎる。藤木のカウンターテナーは安定した響き、舞台姿も絵になる。バキルジ、フィンガーロスも堅実な歌いぶり。伊藤のテノールも終始よく響いていて、ロザリンデがうるさがるのも納得。
コーエンはダルムシュタット州立歌劇場の音楽総監督。遅めのテンポで楽譜に書かれた音符をきっちり音にさせる。この作品へのアプローチとしては生真面目に過ぎるかもしれないが、速いテンポにこだわり過ぎてオケのフレージングが上滑りになるよりずっといい。第2幕終盤でややアンサンブルに綻びが見えたが、全体的には職人的な手堅さが光る。東響も指揮によく応え、充実した演奏。
合唱指揮は桂冠指揮者の三澤洋史。長年聴いてきたせいかもしれないが、やはり彼が指揮した方が合唱のハーモニーもオケやソリストたちに馴染むように思える。
近年はシーズンプレミエの演目ばかり観ていて、再演の演目まで手が回らなかったが、実際観てみるとやはり上演回数を重ねてきたが故の蓄積のようなものが伝わってきて、安心して観ていられる。何より嬉しかったのは、久々にオペラカーテンの開閉が見られたこと。プレミエの演目では黒の緞帳を使うことがほとんどなので、逆に新鮮。第3幕の後には、1人ずつのカーテンコールが文字通りカーテンからの出入りで見られたので大満足。あれさえ見られれば、幕を開けてからまた1人ずつ登場させる必要はない。オペラハウス本来の楽しみを思い出す。やはり再演演目は侮れない。
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