ティーレマン指揮ウィーン・フィル(東京公演4回の初日)
〇2025年11月11日(火)19:00〜20:30
〇サントリーホール
〇2階RA列3番(上手側バルコニー3列目オルガン寄り)
〇ブルックナー「交響曲第5番変ロ長調」(ノヴァーク版)(約77分)
(16-14-12-10-8、下手から1V-Vc-Va-2V、CbはVcの後方)(コンマス=ホーネック、Fl=マンホルツ、Ob=ブライト、Cl=オッテンザマー、Fg=デルヴォー、Hr=ヤネジチ、Tp=ハイメル、Tb=キューブルベック、Tu=ハルワックス、Timp=ミッテマイル)

抑制とこだわりが生んだ名演

 1956年に初来日したウィーン・フィル。そこから約70年後の今年、何と40回目の日本公演となる。今回は6年ぶりにティーレマンが登場。東京公演の初日はブルックナーの5番で、いよいよ来たかという感じ。ほぼ満席の入り。
 
 ティンパニ奏者の右後方にもう1人団員が座っている。何のため?
 第1楽章、冒頭のアダージョはやや遅めのテンポ。低弦の落ち着いたピツィカートの上を、3小節目からVaとVが長い音符で溶け込むように重なってゆく。6のVaの8分音符のフレーズはほとんど聴こえない。15からのユニゾンの全奏が地の底からわき上がる。43以降のファンファーレ、47で一旦音量を落としてから再びクレッシェンドさせる。
 51以降のアレグロからはほぼ標準的なテンポ。79以降の全奏はレガート重視。
 109以降の1Vの第2主題のやや暗い雰囲気と、131以降の木管とHrのほのかに明るいやり取りとの対比が見事。
 161以降、木管と弦のメロディに金管が被っていくが、バランスの取れたアンサンブル。177以降の管の強奏、音量十分で力強いがアクセントは控え目。199以降の全奏や展開部の319以降も同様。
 終盤の493以降、驚きの光景が眼前に。ティンパニ奏者の後方に控えていた団員が立ち上がり、Bのトレモロを共に強打し始める。この団員は第2ティンパニ奏者だったのだ!
 最後の音は念を押すように長めに延ばす。

 第2楽章、弦のピツィカートに合わせて1小節6つで刻む。Obのソロが入っても変わらない。メロディパートは少々やりにくいかも。
 31以降の第2主題、ふくよかで落ち着いた響きで進めてゆく。最初のクライマックスとなる63以降もその雰囲気は変わらない。
 85以降の全奏にも強引なところがなく、安心してオケの響きに身を委ねる。95〜96のpとffの対比も淡々と。
 139以降の息長いFlソロに聴き惚れる。
 終盤196以降の最後のクライマックスも豊かな響きだが、聴衆を圧倒する感じはない。

 聴衆の咳が収まらないうちに第3楽章へ。やや速めだが急かす感じでなく、インテンポを維持。23以降のワルツ風の部分、少しだけ腰を振りながら指揮。
 流れ重視で進んでいくが、186以降のリタルダンドはしっかりかける。主部終盤の356のffのティンパニは控え目。
 トリオも淡々と進み、107におけるV,Vaのトレモロのアクセントも控え目。

 第4楽章、アダージョの序奏はやや遅めだが、アレグロのフーガはほぼ標準的テンポ。31以降のフーガ主題、低弦にしっかり弾かせているがアクセントはあまり付けない。47以降に加わる管も同様。
 67以降の第2Vによる第2主題が美しい。細やかに各楽器が絡んだ後121以降低弦が加わり一段響きが豊かになる。
 137以降の全奏でも強いアクセントはない。175以降金管によるコラールの主題もふっくらした響きで攻撃的な部分は全くない。
 223以降コラール主題によるフーガを先導するVaの響きにも酔う。
 343以降ppでフーガが延々と続くが、時間が止まったような感じ。350のティンパニ2発で目覚めたかと思ったら、まだまだppのまま続く。366あたりからようやく盛り上がっていって390で頂点に達し、すぐしぼんでしまう。398から第2主題へ回帰することでホッとする。
 その後の弦の複雑な動きが454で収束し、コーダへ向けて駆け上がっていく。悠揚迫らぬスケールの大きな響きが幾層にも積み重ねられる。
 そして614以降、再び第2ティンパニが加わる。最後の音も長め。

 指揮者の腕が下りるまで沈黙が続く。聴衆にブラヴォー。

 ティーレマンの指揮は終始最小限の動きで、強いアクセントを要求したり、クレッシェンドであおったりするようなこともしない。特に第4楽章ではオケに任せる部分もしばしば。とにかく自分の中の田舎根性を抑えて、ウィーン・フィルの響きに一瞬たりとも野蛮な動きで邪魔しないよう、細心の注意を払っている感じ。そのおかげで終始ふくよかな響きとまろやかなフレージングが保たれる。
 ただし、スケールの大きな響きにはこだわったようだ。第2ティンパニ奏者だけでなく、Hr2人、TpとTbを各1人増員したのはそのような狙いがあったからだろう。また、ステージ最後列に並ぶTbとTuの配置も、通常とは逆に上手から増員のTb、第1、第2、第3、そしてTuの順に座っていた。
 カーテンコールで団員たちから称えられると、勢いよく指揮台にドンっと駆け上がったところでやっと素を出した感じ。
 団員たちは早々と解散したが、木管奏者8人はまとまって握手を交わし合い、「オレたち、増員された金管やティンパニにも負けなかったね」と健闘をねぎらい合う。
 ティーレマンに2回の一般参賀。

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