長島剛子・梅本実 リート・デュオ・リサイタル
〇2025年10月28日(火)19:00〜20:45
〇浜離宮朝日ホール
〇18列9番(最後方から5列目ほぼ中央)
〇ウェーベルン「4つの歌曲」Op12、ベルク「4つの歌曲」Op2、シェーンベルク「4つの歌曲」Op2、同「キャバレー・ソング(ブレットル・リーダー)」より「分をわきまえた愛人」「ガラテーア」
マーラー「大地の歌」(ピアノオリジナル版)より第6楽章「告別」
+リスト「喜びも悲しみも」、シェーンベルク「キャバレー・ソング」より「ギガルレッテ」、アイヴズ「イルメナウ」
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後期ロマンと十二音の境界世界へ
毎年恒例、ソプラノの長島剛子とピアノの梅本実によるデュオ・リサイタル。「世紀末から20世紀へ」と題したシリーズの18回目は新ウィーン学派とマーラーの歌曲を取り上げる。いつもの東京文化会館小ホールでなく、浜離宮朝日ホールでの開催。7割程度の入り。
ステージ上方にスクリーンが吊り下げられ、字幕が表示される。
ウェーベルンのOp12、「日が去って」の冒頭、弱音の和音に不安定なフレーズが重なる前奏。日が暮れて夜になり、男が恋人におやすみの言葉をかけるが、男の心は不安でいっぱい。
「神秘の笛」は李白の詩をベトゲがドイツ語に訳したもの。マーラーの「大地の歌」でも使われている。
「太陽が見えたとき」はスウェーデンの劇作家ストリンドベリのドラマ「幽霊ソナタ」の場面から歌詩が取られている。
「似たもの同士」はゲーテの詩。花と蜂の関係をシニカルに描く。ワルツ風。
12音技法を取り入れる前の時代の作品だが、極限まで無駄をそぎ落としたフレーズや複雑なハーモニーは、既にウェーベルン独自の世界を確立している。
ベルクのOp2、「眠るんだ、眠るんだ」はニ短調風、左手の五度のフレーズが揺りかごの動き、急速な上昇アルペジオが息子の死の苦悩を連想させる。下降音型のメロディが眠りへ逃避を促す。
「眠り込んだまま私は」は抒情的な和音の上を故郷への想いを歌う。
「私な最強の巨人を倒した」は力強いフレーズで始まるも、長続きせずだんだん弱々しい響きに支配される。
「大気は暖かい」は静かな雰囲気で始まるが、後半で激しいグリッサンドから奈落の底へ落ち、Bの低音が連打される上を"Stirb!"(死ぬがよい!)の一言が不気味に響く。
シェーンベルクのOp2は1899〜1900年の作。
「期待」では湖畔に立つ男が、赤い屋敷の中から女の白い手に差し招かれる。変ホ長調を基本に書かれ、32分音符の5連符が波を表現する一方、半音階が多用され、神秘的な雰囲気。
「きみの金色の櫛を僕におくれ」はイ長調。情熱的な若者が女を口説く歌だが、その若者がイエスで女が娼婦マグダレーナと知れば、聴く者は衝撃を受けずにはいられない。36〜37小節の「マグダレーナ?」を聴くと、背筋が寒くなる。
「高揚」もイ長調。短い曲の中に、気持ちが高まる様子が巧みに表現されている。
「森の日差し」はロ短調。16分音符4つのフレーズを多用し、春の光が森の中できらめく情景を表現。
さらにシェーンベルクが2曲。しかし、これらは1901年に書かれたものの彼の没後1970年にようやく出版された、キャバレー「ユーバーブレットル」のために歌曲集。「分をわきまえた愛人」は、禿げた男が恋人に気を引こうと、彼女が溺愛する猫を頭に乗せる。「ガラテーア」では男が愛する女の髪と手と足にキスさせてくれと誘惑するが、唇だけはキスしない。そこにキスするのは「ファンタジー」だと歌う。
いずれもユーモアあふれる詩にOp2とは正反対の、平易でロマンティックでお洒落なメロディとハーモニーで書かれている。
後半はマーラー「大地の歌」。オケ版で演奏される場合がほとんどだが、彼自身がオケ版と別に、編曲でないピアノと声楽によるオリジナル版を残している。
第6楽章は「告別」と題され、前半は月の夜に友を待ち続ける孟浩然の詩、後半は友に別れを告げる王維の詩。別々の詩を一つに物語のようにつなげている。
冒頭のピアノ左手のCのオクターヴ連打と右手の細かいパッセージが冬の夕暮れの空気を創る。友を待ちわびる歌が、最初は抑制された響きで始まり、ピアノと絡み合いながらだんだん気持ちを高めてゆく。
間奏のピアノをたっぷり堪能した後、後半はいきなり別れの場面。寂しさ、辛さに覆われた音楽が、春の風景を思い描くことで次第に癒されていく。
オケ版より短めだが、音楽の中身としてはむしろ凝縮されているような感じで、あっという間の演奏。
硬軟巧みに使い分ける長島の歌、それを絶妙な間とバランスで支える梅本のピアノ。ホールが変わっても変わらぬアンサンブルが聴けてホッとする。
アンコールの曲名も字幕に表示され、聴衆としては何ともありがたい。ゲーテの詩によるリストの歌曲も恋の妄想を面白おかしく歌う「ギガルレッテ」も良かったが、驚いたのは最後のアイヴズ。ゲーテの詩に付けた曲で、後期ロマン派ドイツ歌曲にしか聴こえない。次回以降まとめて取り上げてほしい。
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