アルバ・ヴェントゥーラ ピアノ・リサイタル
〇2025年9月22日(月)19:00〜21:00
〇武蔵野市民文化会館小ホール
〇12列17番(最後方から4列目ほぼ中央)
〇アルベニス「イベリア」(第1巻「エヴォカシオン」「港(エル・プエルト)」「セヴィリヤの聖体祭」、第2巻「ロンデーニャ」「アルメリア」「トゥリアーナ」、第3巻「エル・アルバイシン」「エル・ポーロ」「ラヴァピエス」、第4巻「マラガ」「へレス」「エリターニャ」)
+モーツァルト「ピアノ・ソナタ第11番イ長調」K331より第3楽章(トルコ行進曲)、ショパン「練習曲嬰ハ短調」Op10の4、同「前奏曲変ニ長調」Op28の15(雨だれ)


目くるめくスペインの光と影

 アルバ・ヴェントゥーラはバルセロナ出身、アリシア・デ・ラローチャに師事し、スペインを中心に活動するピアニスト。40代後半、おそらく来日は初めて?録音を含めて彼女の演奏を聴くのは初めてだが、いきなりアルベニス最晩年の大作「イベリア」全曲を取り上げるとあっては、行かないわけにはいかない。ほぼ満席の入り。

 第1巻、「エヴォカシオン」は「魂を呼び戻す」という意味。変イ短調、4分の3。シンコペーションのリズムを刻む左手に、右手のメロディがうねってゆく。前半は重苦しい雰囲気だが、ハ長調に転じる75小節目以降、上昇音型の繰り返しが、呼び戻された魂の声を連想させる。
「港(エル・プエルト)」はカディス地方のサンタ・マリア港を題材に取ったらしい。変ロ短調、8分の6。冒頭右手の8分音符3つのフレーズの繰り返しが朝日に反射する波のように聴こえ、比較的単純なフレーズの積み重ねに1拍目、2拍目、4拍目に休符を入れるリズム感が相まって、朝の港の賑やかな風景が目に浮かぶ。
「セヴィリヤの聖体祭」は嬰ヘ短調、4分の2。32分音符3つの装飾音に8分音符の和音が組み合わされた短いフレーズが繰り返された後、右手の8分音符4つを基本とする訥々としたフレーズが行進曲風に始まる。徐々に発展し、一気に頂点に達した後急速に静まってゆく。135以降は左手を右手に交差させてメロディを受け持たせる。191以降再び祭りの興奮と行列が過ぎ去った後の静けさが訪れる。
 第1巻が終わると立って聴衆の拍手に応え、続けて第2巻へ。
「ロンデーニャ」はマラガ地方の舞曲。ニ長調8分の6、1拍目を休符に下降する主題の繰り返しに鋭いスタッカートの和音が絡む部分と、93以降のうねるようなメロディが主導する部分とが交互に現れるが、前者の2回目はより発展し、熱狂した音楽へ。後者の2回目はそれを鎮めるような雰囲気。
「アルメリア」は12曲の中で最も長く10分近くかかる。ト長調8分の6、メランコリックな雰囲気の音楽がだんだん盛り上がって、65〜66の和音連打で頂点に達する。それも一瞬でまた元の雰囲気に戻り、87以降は左手が3拍目と4拍目をつなげたリズムを続ける上を右手が和音や装飾音付きのメロディを奏でる。
「トゥリアーナ」はセヴィリア地方の一地域。イ長調4分の3、フラメンコ風の快活な舞曲が変奏曲風に発展、どんどん超絶技巧的になってゆく。

 ここで休憩。

 第3巻、「エル・アルバイシン」はグラナダの古い地区。変ロ短調、8分の3。冒頭からの左右交互連打、69以降しばしば登場する2オクターヴ離れたユニゾンで提示されるメロディが印象的。
「エル・ポーロ」はアンダルシア地方の舞曲。ヘ短調、8分の6。5拍目にアクセントを置いた独特のリズムを持つ比較的単純なメロディが、他の曲ほど複雑ではないが、徐々に絡み合って発展してゆく。
「ラヴァピエス」はマドリッドの地区名。変ロ短調、4分の2だが8分3連符が多用されているので8分の6のように聴こえる。8分3連符と8分音符2つの組合せが一瞬ブルックナー・リズムを思い起こさせるが、それとは似て非なるエネルギーが発散される。78以降は2小節あるいは4小節ごとに8分3連符5つのメロディとそれを断ち切るような和音のパターンが繰り返される。
 第3巻が終わると再び立って聴衆の拍手に応え、続けて第4巻へ。
「マラガ」は地中海に面する古い港町。変ロ短調、4分の6。朝もやのような暗い雰囲気の序奏の後、息長いエキゾチックなメロディが登場。30以降は左手がメロディを提示。そこにアクセントを効かせた右手の短いフレーズの連続が絡む。
「へレス」はフラメンコで有名なスペイン南部の都市。イ短調、4分の3。比較的単純なフレーズがボレロ風に盛り上がった後、28以降の8分の3の舞曲へ。その後は静かな雰囲気が続くが、再び技巧を駆使して盛り上がる部分も。
「エリターニャ」はセヴィリヤ城外の宿屋の名前。変ホ長調、4分の3。陽気なセヴィリヤ舞曲が次々と繰り出され、人々が夜の更けるのも忘れて踊り続ける。

 スペインの強い日差しと濃い影、そして人々が地元ゆかりのリズムで踊る姿が目に浮かぶ。ホール全体がスペインの空気に包まれる。ヴェントゥーラはときに腕をしならせ、ときに顔を鍵盤に近付け、超絶技巧も安定した弾きぶりで、どの曲も自信にあふれた表現。

 しかし、その後アンコールが3曲。しかもモーツァルトとショパン。彼女にしてみればアルベニスだけじゃないところを示したかったのだろうが、「トルコ行進曲」の繰り返しを後半も含めて全て実施するなど、明らかに蛇足。せっかく浸っていたスペイン気分が消え去ってしまう!

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