イ・ムジチ合奏団
〇2025年9月18日(木)19:00〜21:40
〇武蔵野市民文化会館大ホール
〇2階39列16番(2階2列目下手寄り)
〇ヴィヴァルディ「2つのチェロのための協奏曲ト短調」RV531(Vc=ピエトロ・ボスナ、ルカ・シニョリーニ)、ジェミニアーニ「合奏協奏曲第12番ニ短調」(ラ・フォリア)
ヴィヴァルディ「フルート協奏曲ヘ長調」Op10の1,RV433(海の嵐)、バッハ「管弦楽組曲第2番ロ短調」BWV1067(繰り返し全て実施)+バッハ「無伴奏フルート・パルティータイ短調」BWV1013より「サラバンド」(以上Fl=工藤重典)
マルコトゥッリオ「The Two Flowers」(二輪の花)、レスピーギ「リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲」P.172、ショスタコーヴィチ/ペッキア「5つの小品」、バルトーク「ルーマニア民俗舞曲」Sz.56
+蒲池美侑「INORI-beyond silence」、ヴィヴァルディ「弦楽のための協奏曲イ長調」RV158より第1楽章、山田耕筰「赤とんぼ」
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「四季」なしでも熱狂の嵐
イ・ムジチ合奏団がヴェネツィアの音楽祭でデビューしたのが1952年。それから既に70年以上経ち、現在のコンサートマスター、マルコ・フィオリーニは8代目となるが、我が国での人気はいささかも衰えていない。今日(19日)はオペラシティ・コンサートホールでの公演が予定されているが、その前日に武蔵野市民文化会館へ。彼らの看板とも言うべき「四季」を含まないプログラムにもかかわらずチケットは完売、ほぼ満席の入り。
半円形に弦の奏者が並び、その後方上手側にチェンバロ、下手側にピアノ。
まずヴィヴァルディの2つのチェロのための協奏曲。ト短調なので第1楽章を聴いていると「四季」の「夏」を思い起こさせるフレーズも出てくる。ソロパートはほぼ対等に書かれているが、第3楽章では第1Vcが先に弾いたメロディを第2が受け継ぐのでなく、次のメロディを弾いてそれを第1が受け継ぐといった場面もある。いつもは12人の中で演奏しているチェロ奏者2人をズームアップして聴いているようで面白い。
ジェミニアーニ「ラ・フォリア」は師匠であるコレッリのヴァイオリン・ソナタを合奏協奏曲風にアレンジしたもの。単純だがメランコリックな主題に23の変奏が付けられているが、変奏がだんだん複雑になるにしたがってアンサンブルの緊張感が高まっていくところはさすが。
続いて先週小ホールでリサイタルを開いたFlの工藤重典がソリストとして登場。ステージ中央に立ち、嬉々として「海の嵐」を吹いている様子を見て、先週「ロマン派にはフルートのための作品が少ない」と愚痴っていたのを思い出す。嵐と言うより爽やかな海風を感じさせる。
さらにバッハの管弦楽組曲が続く。重心軽めのアンサンブルにランパル仕込みの工藤のFlがよくマッチしている。「ロンド」は正に両者一体となった演奏だし、「ブーレ」のソロも軽やかで心地良い。「ポロネーズ」のソロは少し落ち着いた雰囲気。「バディネリ」では、イ・ムジチ側がさりげなくスタッカートを効かせることで音楽の流れに躍動感が生まれる。
工藤はアンコールでもバッハの無伴奏フルート・ソナタの1楽章を聴かせ、先週の借り?を返す。
ここまででちょうど1時間。何と贅沢なプログラム!
後半最初の曲アントニオ・マルコトゥッリオ「The Two Flowers」は、イ・ムジチが広島・長崎の被爆から80年に当たるこの年に始めた国際作曲コンクールで優勝作品に選ばれたもの。
4つの楽章から成り、第1楽章は夏の朝の太陽を思わせる上昇音型の主題から始まる。穏やかな音楽が第2楽章で一転して激しい曲想となり、原爆投下が描かれる。第3楽章は哀悼の音楽、第4楽章で第1楽章の主題が回帰し、街の再生が描かれる。調性を維持し主題に明確な性格を与えており、21世紀におけるバロック音楽と位置付けられるかも。
カーテンコールでは客席の作曲家へ大きな拍手。
レスピーギは手慣れた演奏。「イタリアーナ」はVcのピツィカートが雄弁。「宮廷のアリア」では、Vaのメランコリックな主題と様々なテンポの舞曲との対比が見事。「シチリアーナ」は速めのテンポで、必要以上に沈鬱にならないよう配慮。かつてのNHKFM平日夜のクラシック番組のエンディングを思い出す。「パッサカリア」は少し重厚感を加え、緊張感に満ちた演奏。
これだけで聴く方としては十分満足なのだが、さらに2曲続く。ショスタコーヴィチ「5つの小品」の「プレリュード」は映画「馬あぶ」、「ガヴォット」「エレジー」は付随音楽「人間喜劇」、「ワルツ」は映画「司祭と下男バルドの物語」、「ポルカ」はバレエ「明るい川」からそれぞれ取られたもの。
最後のバルトーク「ルーマニア民俗舞曲」は「棒踊り」「帯踊り」「踏み踊り」「角笛の踊り」「ルーマニア風ポルカ」「速い踊り」の6曲。
どちらもイ・ムジチの明るい弦の響きに民族的な響きやフレージングが加味されて面白い。
後半の曲はレスピーギ以外チェンバロ奏者のブッカネッラはピアノで加わる。でも、休憩中チェンバロのチューニングもしてたよね?
アンコールの1曲目は新進の作曲家蓮池美侑が広島・長崎の被爆に寄せて書いた曲。おそらくコンクールに応募した作品だろう。弦楽合奏のみによる、祈りと安らぎの感じられる音楽。鳴り止まぬ拍手。
でもチェンバロのチューニングしてたよね?
ブッカネッラも登場してチェンバロの前に座る。Vc奏者のボスナが"Vivaldi"とアナウンス。ひょっとしていよいよ?
確かにヴィヴァルディの曲。しかし「弦楽のための協奏曲」。今夜は絶対「四季」はやらないのね?
さすがに拍手で少し催促してみる。ついに3曲目のアンコール。ブッカネッラもチェンバロ前に。今度こそ?
聞き覚えのあるメロディが登場するが「四季」ではない。「赤とんぼ」を自由に転調して発展させた秋らしい曲。イ・ムジチ版か?
とうとう最後まで「四季」の演奏はなかった。この日はやらないという方針だったのだろう。しかし、全く不満はない。それどころか、武蔵野文化会館に集まった聴衆のためのスペシャル・プログラムを聴き通せた充実感が込み上げてきた。アンコールを続ける聴衆から「ありがとう!」の声も。私も全く同じ気持だ。ありがとう。
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