工藤重典&パスカル・ドゥヴァイヨン デュオ・リサイタル
〇2025年9月11日(木)19:00〜20:40
〇武蔵野市民文化会館小ホール
〇14列25番(最後方から2列目上手側)
〇モーツァルト「ヴァイオリン・ソナタ第26番変ロ長調」K378(第1楽章提示部繰り返し実施)、プーランク「フルート・ソナタ」
ドビュッシー/工藤重典「チェロ・ソナタ」、ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第8番ト長調」Op30の3(第1楽章提示部繰り返し実施)
+ラヴェル「ハバネラ形式の小品」、ドビュッシー「美しき夕べ」
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フルートが奏でるソナタの世界
かたや、我が国を代表するフルート奏者、工藤重典。今年演奏活動50周年を迎える。こなた、フランスを代表するベテラン・ピアニスト、ドゥヴァイヨン。巨匠クラスの2人が共演するとあっては、駆け付けないわけにはいかない。ほぼ満席の入り。
まずはモーツァルトのK378の「ヴァイオリン」ソナタ。かつては第34番と称されることが多かったが、この日のプログラムには6曲の偽作などを除いた曲順として「第26番」と表記されている。
第1楽章冒頭はピアノが主題を提示、フルートが左手の伴奏に3度で絡むオブリガート風のフレーズを奏でるが、低音域のためピアノに埋もれがち。9小節目以降ようやくメロディパートとなるが、楽器が温まっていないのか、今一つ響いてくれない。最後のVパートの重音は一番上の音を選択。
第2楽章も冒頭からしばらくは低音域のフレーズが続き、30以降メロディパートを担当するところでようやくFlらしい響きが届くようになる。
第3楽章はピアノのメロディを9からFlが受け継ぐので、比較的聴きやすい。13以降の16分音符の連続するフレーズなど、Vとは違った軽やかさがあって面白いが、音量的には依然としてやや物足りない。
2曲目の前に工藤のトーク。ドゥヴァイヨンとまるまる1回分のリサイタルで共演するのは初めてと紹介した後、この日のプログラムはプーランク以外Flオリジナルの作品がないことを敢えて公言し、その意図を説明。Flのための大作を書いてくれなかったベートーヴェン以降の作曲家たちに不平を漏らす一方で、小品集でなくソナタをまとめて演奏したかったとのこと。プーランクのソナタについては、彼の師匠であるランパルが、初演予定日に旅立つ予定のルービンシュタインのリクエストを受けて、前日彼のためだけに「初演」したエピソードを紹介。
プーランク第1楽章、冒頭の32分音符4つのフレーズに濃い目の表情を付けてから、活き活きと歌い始める。当たり前の話だが、前作と比較するとFlが主役として音楽を引っ張ってゆく。繰り返し提示される32分音符のフレーズを、ピエロがコロンビーヌに手を変え品を変えしながら言い寄るが、相手にされない。
第2楽章、3からの変ロ短調風メロディが、湖に映る寂しげな月を連想させる。その月を眺めながらピエロがたたずんでいる。
第3楽章、一転してピエロが楽し気に踊り出す。Flならではの高音がピエロの掛け声のように響き、音楽を盛り上げる。リズムの切れ味も痛快。師匠仕込みの名演。ドゥヴァイヨンのFlとの間合いも絶妙。メロディはFlを立て、自分がメロディの場合も出過ぎない。
後半冒頭で再びトーク。ドビュッシーのチェロ・ソナタを取り上げた理由について、最低音がFlと同じで、チェロの楽譜を2オクターヴ上げれば吹けるとのこと。バッハの無伴奏チェロ組曲も同じやり方でチェロ奏者に聴かせて、気持ち悪がらせてるとのこと。悪趣味〜(笑)
その「チェロ」ソナタのプロローグ、やはり音域が上がっているのと、5〜6にかけての細かいパッセージが軽やかに響くので面白い。
「セレナードとフィナーレ」、オリジナルではピツィカートが多用されるが、そこをFlで吹き分けるのはなかなか大変そう。
「フィナーレ」、7以降伸びやかに歌うメロディ、ヴィブラートを効かせるVcに対し、Flは朗々と響き渡る。最後の音はFlらしく耳に刺さるような高音で締める。
ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタについては、同時代のオランダのFl奏者による編曲があり、それを取り上げるとのこと。
第1楽章、4や8の装飾音付きのフレーズを聴いていると、この曲はFlで演奏するのに相応しく思えるから不思議。最初のモーツァルトに比べると、VとPが対等に扱われているから、Flで演奏しても違和感がない。
第2楽章、冒頭から低音域が続くが、最初のモーツァルトのときよりピアノとのバランスは改善。
第3楽章、細かいフレーズの連続だが2人の息はぴったり。Flならではの軽やかな響きがこの曲にはよく似合っている。
鳴り止まぬ拍手にスコア1枚持って登場し、「アンコールの1曲目」とアナウンスして聴衆の期待を膨らませる。ラヴェル「ハバネラ風の小品」、Flを含め様々な楽器で演奏されるが、エキゾチックな雰囲気を出すにはやはりFlがぴったりかも。
2枚目のスコアを持って出てくると「とは言っても、あと1曲しか用意してない」と言って聴衆をコケさせる。ドビュッシーの歌曲の編曲版、聴衆の興奮を落ち着かせるような演奏で締める。
それにしても、ドゥヴァイヨンの多才さには驚くばかり。プーランクやドビュッシーは言うまでもないとして、モーツァルトやベートーヴェンでは、Flとのバランスに十分配慮しながら、古典的な様式感やフレーズ感が全く崩れない。工藤の大胆な挑戦をしっかり後押し。
特に後半、どちらを先に行かせるでもなく、2人で肩を組み合いながら一緒にステージを下がる姿が印象的。
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