尾高忠明指揮読響
〇2025年5月27日(火)19:00〜20:50
〇サントリーホール
〇2階P6列5番(2階舞台後方最後列から2列目上手側)
〇尾高尚忠 交響的幻想曲「草原」
ブルックナー「交響曲第9番ニ短調」(コールス校訂版)(約60分)
(16-14-12-10-8,下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)(コンマス=白井)
父に捧げるブルックナー
1992〜98年に読響常任指揮者を務め、現在は名誉客演指揮者の称号を持つ尾高が約5年ぶりに定期演奏会へ登場。7割程度の入り。コンマスはゲストの白井圭が務める。
前半は父尚忠の作品。モンゴルの草原を題材にした交響詩。静寂な雰囲気の弦楽合奏から始まり、Hrが5度と3度を組み合わせたテーマを提示。ウィーン留学時代に影響を受けたレスピーギを連想させる。ドヴォルザーク「新世界」第3楽章トリオに似たメロディが登場して遊牧民族の踊りを想起させる一方、行進曲風の音楽では近代装備の軍隊の威容を彷彿とさせる。しかし、そのような喧噪も一瞬の出来事のように過ぎ去り、最後は元の静寂の弦楽合奏が回帰する。留学仲間の有馬大五郎から与えられたという「日本的なものと西洋音楽の融合」を正に具現化した音楽。シンフォニックなアンサンブルの中に提示されるテーマが東洋風で、どこか懐かしい響きがする。
後半のブル9も尚忠に縁のある作品。亡くなる直前に指揮した曲だそうだ。
なお手元にコールス校訂版がないため、以下の小節番号はノヴァーク版のものであることをご容赦願いたい。
第1楽章、速めのテンポでスイスイ進んでいくかと思わせたが、63小節目以降のユニゾンでは、ずっしりとした重量感ある響きを聴かせる。77以降の弦のピツィカートに絡む木管のフレーズをpながら明瞭に提示し、8分音符と4分音符の違いも明確。
その後はどちらかと言えば淡々と進むが、154以降Obの提示する第3主題は伸びやか。
金管の強奏に応える276の弦の上昇フレーズも過度にアクセントを付けない。続く弦のピツィカートに木管がフレーズを重ねていく部分もまだまだ控え目な響き。
333以降の全奏でようやく重量感ある響きが戻ってくる。ただ、それが一段落した後の400以降の弦の合奏はあまりテヌートをかけず、サラサラと進む。453〜458にかけての弦楽合奏で少し緊張が高まる。
517以降のコーダ、着実に響きを積み重ね、548〜549のユニゾンでこの日一番の力強い響きとなり、続く全奏にホロリと来る。
第2楽章、ほぼ標準的テンポ。奇をてらったフレージングなどはなく、時計の針が時間を刻むように進む。147以降管楽器にVの上昇フレーズがしつこく絡む部分でもほぼインテンポ。
トリオの1Vの主題はスタッカートを抑え目にしてレガートに近い感じで弾かせる。
第3楽章、冒頭1Vの主題、墨をたっぷり含ませた太い筆で線を描くような充実の響き。この響きを出したくて白井を呼んだのかも。少し遅めに始めて5以降は標準的テンポに。17以降の全奏も心地良い。
45以降の第2主題も豊かな響き。冒頭主題に戻る直前、73〜75のFlはかすれさせずきっちり吹かせる。
105以降の息長いクレッシェンドも一歩ずつ着実に昇ってゆく感じ。
140以降再び昇っていく部分では、アクセントよりも音符の長さを正確に守らせながら響きを積み上げる。
163以降のObの不協和音のクレッシェンドは控え目。
173以降さらに長い道を頂点に向かって昇っていく部分、安心して響きに身を委ねる。206の全休止前最後の和音は必要以上に強調せず、4分音符の長さできっちり切る。
コールス校訂版の変更箇所にはほとんど気づかなかったが、最後の金管の和音に重なる弦の3つの音、ノヴァーク版は全てピツィカートだが、コールス版では最初の2つをアルコで弾かせていたのだけはわかった。
どのパートもフレージングの始まりと終わりを明快にし、そんな整然とした横の流れと重心の低いハーモニーとの組合せが、尾高独自のブルックナー像となって聴衆に伝わってくる。読響の響きも、特に弦がいつも以上に引き締まっていたのが印象的。
カーテンコールではエルダー楽員でこの日が最終ステージとなるチェロの渡部玄一に花束贈呈。
楽員解散後は尾高への一般参賀。井上道義の引退、秋山和慶の死去と日本人長老指揮者が減っていく中、1947年生まれの尾高がいつの間にかコバケンに次ぐくらいの長老になってしまった。まだまだ元気な姿を見せてほしいものである。