札幌交響楽団東京公演2025
〇2025年2月3日(月)19:00〜21:25
〇サントリーホール
〇2階LC7列5番(2階下手寄りバルコニー7列目)
〇モーツァルト「ディヴェルティメントニ長調」K.136より第2楽章
武満徹「乱」組曲、伊福部昭「リトミカ・オスティナータ」+チェレプニン「10のバガテル」より第4曲(P=外山啓介)
シベリウス「交響曲第2番ニ長調」Op43(約44分)
+シベリウス「悲しいワルツ」Op44の1
(14-12-10-8-7、下手より1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)(コンマス=田島高宏)
秋山和慶に捧げる熱演
毎冬恒例の札響の東京公演、今回は「友情指揮者」の広上淳一が初登場。ほぼ満席の入り。
開演前に広上は元首席クラリネット奏者で事務局長の多賀登と、つい先日亡くなった秋山和慶(元ミュージックアドバイザー兼首席指揮者)にまつわる思い出や、この日演奏される武満や伊福部にまつわるエピソードなどを紹介。
この日の演奏も、まず秋山さん追悼ということで、彼や齋藤秀雄門下の演奏家たちが好んで取り上げたモーツァルトのディヴェルティメントの第2楽章から始まる。同じ齋藤門下の小澤征爾のように極端に遅いテンポや弱音を使うことなく、端整に弾かせていたが、このような演奏こそ秋山さんに相応しい。
「乱」組曲は、武満がこの映画のために作曲した29曲の中から編集して4つの組曲にまとめたもの。第1〜3曲は2分足らず、最後の4曲目が6分ほど。マーラー好みの黒澤明の強い要望で、武満の作品には珍しくティンパニが登場する。どの曲も短調主体の重苦しい雰囲気で、映画で描かれた悲劇的な場面が脳裏に浮かんでくる。
伊福部「リトミカ・オスティナータ」はピアノ協奏曲風。Hrの民謡風のフレーズから始まり、ピアノが16分音符の短いフレーズを、少しずつ変化させながらひたすらしつこく繰り返す。単一楽章で急−緩−急−緩−急という構成だが、緩の部分でもゆったりしたフレーズがゆったり繰り返され、エネルギーをため込む感じ。それを急の部分で果てしなく発散させる。中間の急の部分ではお馴染みのゴジラのテーマ(C−H−A)も顔を出す。
しつこいリズムの繰り返しだけでなく、拍子も5拍子か7拍子が多く(伊福部は日本語の五七調から着想したらしい)、西洋音楽の基本の拍子からすると字足らず、寸足らずの感覚があり、それもこの曲に力強さと生き生きした雰囲気を与えるのに寄与している。
ピアノ協奏曲風とは言えほとんど打楽器の一つとして扱われており、数多の打楽器群(ティンパニだけでなく、拍子木のようなクラベス、トムトム、コンガ、ティンバレスなどジャズやロックのバンドに使用されるものも)とときには対抗し、ときには協調しながら盛り上げてゆく。外山の弾きぶりは、単身でオケに立ち向かう武者のような風情があり、聴衆を興奮の渦に巻き込む。
アンコールでは一転して神秘的な雰囲気の曲で聴衆の心を鎮める。
シベ2第1楽章、広上が両手を広げ、左右に大きく振りながら冒頭の弦のフレーズを弾かせる。弦はテヌート重視で波のようにうねらせ、そこへ9小節以降に絡む木管はスタッカート重視で歯切れよく刻ませる。74以降、今度は弦のピツィカートが刻みながら緊張を高め、そこへ管楽器の伸びやかなロングトーンが重なってゆく。長いフレーズ感で響かせるパートと短く区切らせるパートとの対比が見事。
第2楽章、訥々と進む低弦のピツィカートの上をFgもやや控え目に歌う。ここでは両者のフレージングは異なるがじっと耐えている雰囲気に変わりはない。しかし、60以降VとVaがメロディを受け持つと、そこまでためていたものを発散するように歌い出し、一気に頂点へ。
嬰ヘ長調に転じる98以降、楽譜上の指示はpppだがそこまで音量は落とさない。その後も静と動の極端な切り替えが続くが明確に変化を付け、感情の起伏の大きさを巧みに表現。最後の弦のピツィカートも強烈。
第3楽章、やや遅めのテンポで弦の刻みも控え目。そこに加わる木管もレガート重視だが、72〜73に絡むTpは閃光のように鋭く響く。
トリオのObソロはもっと主張してほしい。主部に戻る155〜156の金管のフレーズも歯切れが良い。
トリオの主題が回帰した後、そのメロディを引き取った弦が299以降、第4楽章へ向かって突き進むが、ここでも曲想ががらりと変わる。
第4楽章、メロディパートを下で支えるCbのCisのfzの繰り返しが伊福部の曲を思い出させて面白い。最初の盛り上がりを受けて木管が奏でるフレーズを弦が受け継ぎ、58以降それを発展させるところでは、両足を少しずつ前にせり出させながら弦を歌わせる。
その後3つの大きな山を昇ってゆくが、どれもスケールの大きな演奏。終盤356以降の金管のファンファーレも力強く響かせる。ただし、最後の音には力強さよりも幸福感に満ちた豊かな響きで締めくくる。鳴らし切って指揮者の手が天に向かって伸びた姿勢のまましばらく静寂。聴衆にブラヴォー。
アンコールの「悲しいワルツ」はさらに破天荒な演奏に。冒頭のCbのピツィカートを聴いただけでは何の曲だかわからない。9から弦が奏でるホ短調のワルツを異常なほど遅いテンポで弾かせる。確かに指示はLentoだが、それにしてもこんなに遅い演奏は聴いたことがない。73以降Flがメロディを奏するト長調のワルツは通常のテンポなのだが、元のテンポに戻ると何とも重苦しい気分に。さすが広上ワールド。
団員解散後広上への一般参賀。予想していなかったのか、燕尾服の上着を脱いで上半身シャツ姿で登場。両手を合わせて顔の横に当て、「おやすみなさい」とおどけながら聴衆の喝采に応える。