阪哲朗指揮読響
〇2024年6月8日(土)14:00〜15:55
〇かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
〇2階2列15番(2階2列目ほぼ中央)
〇ロッシーニ「ウィリアム・テル」序曲
ロドリーゴ「アランフェス協奏曲」
+ローラン・ディアンス「タンゴ・アン・スカイ」(以上G=村治佳織)(8-6-4-3-2)
ブラームス「交響曲第1番ハ短調」Op68(約45分、第1楽章繰り返し省略)
(14-12-10-8-6、下手から1V-Vc-Va-2V、CbはVcの後方)(コンマス=戸原)
安心感に新発見の喜びも
読響は定期演奏会以外にも各地で演奏会を開いているが、この日はかつしかシンフォニーヒルズでの公演。それだけでは特に行く理由もないが、阪哲朗が振るとあっては行かないわけにはいかない。京成の青砥駅を降りるとヨハン・シュトラウス2世の像に出迎えられる。地元の人たちもこのホールでの演奏会を楽しみにしている人が多いのか、ほぼ満席の入り。
「ウィリアム・テル」序曲、Vc首席の遠藤真理のソロが聴く者の不安を掻き立てる。続く嵐の場面、「セヴィリヤの理髪師」でも同様の場面があるが、さらに激しく吹き荒れる感じ。続くEHr(北村貴子)のソロは一転してのどかな雰囲気。その空気を金管が切り裂き、行進曲へ。場面ごとの曲風を明確に、かつ無理なく変化させてゆくところは、さすがオペラを振り慣れている阪らしい音楽運び。
2曲目用の準備として、指揮台の下手側に指揮台より広くて低い台が運ばれ、ピアノ用の背もたれ付椅子が置かれる。その手前に集音マイク、後ろにスピーカーを設置。
我が国を代表するギタリスト、村治佳織も早いもので昨年デビュー30周年記念のベストアルバムをリリースしたそうだ。「アランフェス協奏曲」の作曲者ロドリーゴにも生前会って彼の曲を演奏したこともあるそうだ。全身真っ赤な衣裳で登場。
第1楽章、ささやくような音で最初のフレーズを弾き始め、2回目は大きく豊かな音で響かせる。スペインの青い空と強烈な日差しが目に浮かぶ。途中で遠藤のVcソロと合わせる場面も。
第2楽章、再び北村のEHrが大活躍。今度は夜のまだ冷めきらない空気に月影が見えてくる。何度聴いてもええメロディや。
第3楽章、軽快な音楽に乗って人々が歌い踊り、くつろいでいる。
村治のソロに合わせるとき阪は細心の注意を払ってオケの音量を制御し、オケだけの部分では目一杯弾かせる。その切り替えが見事。
アンコールではフランスのギタリストで作曲家のディアンスの曲を披露。リズミカルな中にもちょっとした哀愁を感じさせる。
ブラ1第1楽章、ほぼ標準的テンポで始まるが、驚いたのは指揮ぶり。ほとんど拍子を刻まず弦によるうねるような音楽の流れを創ることに専念している。提示部に入り42小節目以降、主題を提示する1V+低弦と8分音符を刻んでいく2VとVaの対比が、対抗配置だとよくわかる。
展開部に入っても流れ重視の振り方に変わりはないが、それが一旦静まった後295のCFg(コントラファゴット)から始まる新たな音楽を徐々に盛り上げていくプロセスも心地良い。そして再現部に入る直前の341〜342、低弦のffのフレーズを強調。今まで何百回と聴いてきたはずなのに「ここにこんなフレーズがあったのか!」と初めて認識。
第2楽章のテンポもほぼ標準的。6以降の低弦をしっかり響かせる。
55〜56にかけて、下手側の1Vが最高音から、その奥に位置する低弦が最低音から歩み寄っていくところも快感。73以降も低弦が主導。
コンマスのソロが入る直前の81〜90にかけてのアンサンブルにも細心の注意を払ってハーモニーを造ってゆく。コンマスのソロはやや控え目。
第3楽章も標準的テンポ。スムーズに流れてゆくが、ロ長調に転じる71以降は再び丁寧に一つずつ積み上げていくような音楽に。
アタッカで第4楽章へ。ここも最初は標準的なテンポだったが、2回目のピツィカートによるアンサンブルが終わった後の22以降、accel(アッチェランド)の指示に従わず遅いテンポのまま進んでゆく。Tbが加わる30以降は標準的テンポに戻る。
第1主題が始まる62以降、再び流れ重視の指揮ぶりに。95からの全奏に入ってもテンポは変えない。むしろ一歩ずつ確認しながら踏みしめていくような雰囲気。ffの指示だがまだ全開にはしない。
展開部に入って少しずつ緊張を高めていくが、その頂点となる286でもまだ全開にはならない。
再現部が一段落した後の375以降、CFgとBTb(バストロンボーン)のフレーズを皮切りに音楽が再スタート。ハ長調に転じる392以降エネルギーが徐々に満ちてゆき、408以降でついに全開。ホロリと来る。その勢いを保って進むが、最後の和音でCbを一瞬早く弾かせる。ずっしり根を張った大木がそびえ立つ。
弦のアンサンブルをしっかり固めた上に管・打楽器のハーモニーを積み重ねてゆく。重厚で格調高い演奏に安心して身を委ねられるのだが、時折新たな発見もある。青砥まで電車を乗り継いできた甲斐があった。