びわ湖の春音楽祭2024 ファイナル・コンサート
〇2024年4月28日(日)17:00〜18:05
〇びわ湖ホール大ホール
〇3階3C列24番(3階3列目ほぼ中央)
〇マーラー「交響曲第5番嬰ハ短調」より第4楽章「アダージェット」
ブラームス「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」Op77(約43分)(V=ダリボル・カルヴァイ)
〇阪哲朗指揮京響(12-10-8-6-4、下手から1V-Vc-Va-2V、CbはVcの後方)(コンマス=泉原)
夢と憧れのおこぼれに
今年の「びわ湖の春音楽祭」は、「夢と憧れ」をテーマに2日間、びわ湖ホール内各ホールで16公演が実施されるほか、メインロビーでの無料コンサートや滋賀県内各地での関連コンサートなど、多彩なプログラムが用意される。
帰省のついでに時間ができたので、大ホールで行われるファイナル・コンサートへ。入口前のパネルを見ると売切公演も目立つ。メイン・ロビーには音楽祭とのコラボ商品の販売ブースもあって、多くの人たちで賑わっている。すっかり県民に定着した音楽イベントのように見える。
大ホール客席は9割近い入り。
「アダージェット」は、ステージ中央、指揮台に向かい合う形でHpが置かれている。マラ5の全曲演奏のときなら下手端に置かれることが多いのだが、破格の扱い。Hp協奏曲のように、と言うよりは、Hpを弦パートの一部であるかのように弾かせたいということだろう。
テンポはほぼ標準的。阪は棒を持たずに指揮。ハーモニーの変化を明瞭に示しながら、アクセントや強弱の変化は必要以上に強調せず、広がりある音楽の流れを創ってゆく。終盤のクライマックスから徐々に静まっていく部分、最後は1Vと低弦、すなわちステージ下手側に位置する奏者たちだけで演奏。対抗配置にすることで、3パートのアンサンブルが互いに寄り添いながら終わりに向かっていくのがよくわかる。文字通り「夢と憧れ」の一つの象徴のような演奏。
後半はカルヴァイによるブラームスのヴァイオリン協奏曲。カルヴァイはスロヴァキア出身、2020年ウィーン交響楽団の第1コンサートマスターに就任。以前阪と同じ曲を演奏した折、カルヴァイが最初の音を2小節早く弾き始める「フライング」の事故が起きたそうだ。
第1楽章、もちろん今回は無事に、90小節目からソロが弾き始める。冒頭のDの音をやや長めに延ばす。102以降の分散和音風の細かいフレーズなどをくっきり響かせるなど、136以降の冒頭主題までのプロセスを丁寧に聴かせる。その後は、164以降の重音が続く部分に向けて緊張を高めた後、246以降の第二主題に向けて息長く音楽を積み重ねてゆく。
ハ短調に転じる304以降、重音のメロディは重厚に響かせる一方、312以降pで細かいフレーズをつなげてゆく部分では対照的に繊細なフレージングなのだが、少し響きが薄くなり、どこへ行くのか心細くなる瞬間も。332以降fでトリルを持続しながら上昇音階を昇っていく部分からは再びしっかりした音楽の創りとなり、381以降のニ長調の全奏へ至るまでの盛り上げ方は見事。
終始かなり遅いテンポだが、遅さを感じさせない音楽の推進力がある。
第2楽章、ほぼ標準的テンポ。Obソロの響きがやや不安定だったが、木管全体のアンサンブルは美しい。32以降のソロは少し線が細い印象。しかし、嬰ヘ短調に転じる52以降はしっかり響かせる。ヘ長調に戻る78以降は、ソロがしばしばObの方に視線を向けながら弾いていて、Obとのアンサンブルを相当意識しているのがわかる。
第3楽章、やや遅めのテンポだが、16分休符を十分意識したフレージングで、躍動感のある音楽に。
終盤の267以降もさほどテンポを上げない。最後の3つの音は1音ずつ強調しながら響かせる。
カルヴァイはソリストと言うよりコンサートマスターとしてオーケストラの一員として弾く意識が強いように見える。オケ全体と合わせるより、1Vの方を向きながら弾くなど、今弾いている自分のフレーズに関連深いパートとのアンサンブルをかなり意識している。それ自体が悪いわけではないのだが、あまり立ち位置を変えられると、楽器の響き方も変わってくるので、聴衆としては気になる。
対する阪は曲全体をいかに交響楽として響かせるかに腐心。ソロをかき消すことはしないが、ソロが休みの部分では、遠慮なくオケを鳴らす(特に金管とティンパニ)。全体的にはスケールの大きな音楽に。
団員たちの入場時から拍手が自然と湧き上がる一方で、一部聴衆は楽章が終わるごとに拍手。音楽を楽しんでもらうことが最優先なのだが、最低限のマナーをどう普及していくか。今後の主催者の対応を注視したい。