九州交響楽団東京公演2024
〇2024年3月20日(水・祝)15:00〜17:00
〇サントリーホール
〇2階C10列10番(2階中央最後列から4列目下手寄り)
〇ベートーヴェン「交響曲第2番ニ長調」Op36(約30分、第3楽章繰り返し実施)
 R.シュトラウス「英雄の生涯」Op40(約47分)
(16-14-12-10-8、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)(コンマス=扇谷)

4年遅れの集大成

 九州交響楽団は2020年3月14日に東京公演を予定していたが、コロナ禍のために中止になってしまった。今回ようやくリベンジの機会が訪れる。しかも、楽団創設70周年記念と、今年度末で音楽監督を退任する小泉和裕のラスト公演というおまけもつく。前売は完売、9割5分以上の入り。

 団員の入場とともに自然と温かい拍手がホールに響きわたる。
 ベト2第1楽章、テンポは標準的だが、序奏から重心の低い、安定した響き。第1主題に入っても落ち着いた歩みで進む。ただ、最後の音にびっくり。スコア上は全音符で書いてあるティンパニにトレモロをさせている!
 第2楽章、若干速めのテンポで淡々と進む。美しいが、思ったより感情の起伏が少ない。
 第3楽章、3音の短いフレーズの繰り返しが軽快な雰囲気を創り出す。トリオの楽器間の受け渡しも丁寧。
 第4楽章、短いフレーズを際立たせるのでなく、全体的な音楽の流れを重視。終盤370小節以降の全奏も、聴く者を驚かせると言うより音楽としてのスケールの大きさを印象付ける。
 最近のベートーヴェン初期の交響曲の演奏には珍しく、弦を16型の大編成に。事情が許せば管楽器も倍にしたかったのかも。晩年の作品のような老成した雰囲気が、この曲から出てくるとは面白い。

「英雄の生涯」、「英雄」冒頭のテーマは地にしっかり足が付いている。やや遅めのテンポ。楽器が徐々に加わりながら豊かな音楽へと発展していくプロセスが何とも心地良い。
「英雄の敵」の木管、1音ずつ着実に響かせながら英雄に対して執拗な攻撃。高音域で目立つFlのフレーズだけでなく、3番Obなどが提示するH−D−Cのフレーズもしっかり耳に届いてくる。これはなかなかうっとうしい。
「英雄の伴侶」のヴァイオリン・ソロも、落ち着いたテンポで細かいパッセージも明瞭に響かせる。気の強さだけでなく気品も備えた伴侶の姿が目に浮かぶ。ただ、二人が結ばれる音楽の途中、VがEs−F−Gesの上昇音型をアクセント付きで奏でるところでは、小泉の振りがあまりに直線的で吹き出してしまう。
「英雄の戦場」は文字通り英雄パートと敵パートのガチンコ対決。緊張が高まってゆき、ついに英雄の勝利。凱旋行進のような英雄のテーマに思わずホロリとくる。
「英雄の業績」における自作の引用も明確に示される。弱々しいテナーTuとバスTuの和音に続く切れ切れのフレーズは抑えめ。
「英雄の隠遁と完成」で再び登場する切れ切れのフレーズは、一転して強奏。敵の批判を回想する場面もかなりオケを鳴らし、トラウマの深刻さを印象付ける。しかし、最後は伴侶の優しいソロに癒される。最後の和音は頂点に達してからあまり音量を落とさないまま終わる。

 全体的に遅めのテンポで演奏された割には遅さを全く感じない、充実した音楽。パート向けの指示を全くと言っていいほど出さず、とにかく音楽全体の流れとまとまりを重視した小泉のアプローチに、九響の団員たちが十二分に応えているのはもちろん、足りないところを補っているかのような場面も。10年余にわたる小泉音楽監督時代の集大成と呼ぶにふさわしい熱演。
 3月12日に入団したばかりのホルン首席奏者、ルーク・ベイカーは少し線は細いが安定した響きで、まずは上々のデビュー。
 団員解散後小泉の一般参賀。
 
 新年度からは太田弦が首席指揮者に就任、一気に世代交代が進む。今回の東京公演は20年ぶりとのことだが、もう少し頻繁に、せめて2,3年に一度は東京で聴いてみたいものである。

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