ヴァイグレ指揮読響
〇2024年1月20日(土)14:00〜15:50
〇東京芸術劇場コンサートホール
〇3階F列47番(3階6列目上手側)
〇ニコライ「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲
(14-12-10-8-6)、ウェーバー「クラリネット協奏曲第2番変ホ長調」Op74(12-10-8-6-4)
+不明(以上、Cl=ダニエル・オッテンザマー)
ベートーヴェン「交響曲第6番ヘ長調」Op68(田園)(約45分、第1楽章提示部繰り返し実施)
(12-10-8-6-4、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)(コンマス=長原)

箱庭の中を散策する「田園」

 この土日の読響マチネ―シリーズにも常任指揮者ヴァイグレが登場。9割以上の入り。

 ニコライ「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲は、かつてドイツ・オーストリア系の指揮者が好んで取り上げていたが、最近あまり聴かなくなったような気がする。冒頭VがCのオクターヴを弱音で響かせる中、夜の森に月が昇る場面のテーマを低弦が提示。徐々に各パートが重なって盛り上がってゆき、32小節目以降女房たちのおしゃべりを現すような賑やかな主題が始まる。以降、序曲らしく主要場面の音楽が次々と登場するが、ヴァイグレは各テーマをよく歌わせ、喜歌劇の賑やかな雰囲気を巧みに創り上げる。生憎の雨の中演奏会場まで来たことを忘れさせるような、明朗快活な演奏。今日もいい演奏会になりそう!

 ダニエル・オッテンザマーは2009年からウィーン・フィルの首席クラリネット奏者を務める。当時は父のエルンストも同じく首席として活躍しており、話題になった。ウェーバーの協奏曲は2曲あるが、第2番を演奏するのは珍しい。
 第1楽章、行進曲風の全奏から始まる。50からのソロは、いきなりEsの最高音から3オクターヴ下の最低音のEsへの跳躍で聴き手を驚かせる。その後も技巧的なパッセージに大胆な音の跳躍が織り交ぜられ、ソロが縦横無尽に動き回る一方で、68以降のようにpのアルペジオ風フレーズがオケに絡みつくような場面も聴き応え十分。
 第2楽章、Vaと低弦によるト短調の短い序奏に続き、ソロが悲しげな主題を歌う。一段落するとオケがト長調に転じて優しく慰めるような響きに。すると、ソロもそれに応えてハ長調で明るく歌う。その後も転調を重ね、「レシタティーヴォ・アド・リブ」と指定された63以降、ト短調に戻って文字通りオペラのレシタティーヴォ風のソロがロマンティックに歌う。
 第3楽章、ソロが3拍子の裏拍から始まる明るくリズミカルなメロディを提示、技巧的で息長いフレーズが次々と繰り出される。第1楽章以上に目まぐるしい動き。最後は再びオクターヴを超える跳躍が出てくる。
 オッテンザマーは、オケのみの演奏の間は奏者たちを見渡しながら音楽の中に溶け込もうとする。ソロのときは、前後左右に大きく動きながら演奏。技巧的な部分を軽々と響かせるだけでなく、音の芯の太さの使い分けも絶妙。楽譜上の音が大きくなったり小さくなったりしているような錯覚に襲われる。
 アンコールは、弱音で繊細に響かせるフレーズとアルペジオ風に上下するフレーズで構成される短い曲だが、祈りの音楽のようにも聴こえる。

「田園」も12型の弦で臨む。
 第1楽章、テンポはほぼ標準的。36以降の全奏はまとまっているが、ホールを圧するほどの響きにはならない。67以降、1Vの8分音符が連なる主題よりもVcのG−Cで始まる主題の方をやや重視し、後者の主題が1V→Fl→低弦→Hrへ受け継がれていくのを浮き立たせる。
 展開部の151以降の息長く盛り上がっていく部分も若干不完全燃焼。その後の263以降ももう少し響きの厚みが欲しいし、終盤440以降の全奏も前に進んではいるが緊張が高まる感じにはならない。
 第2楽章、丁寧に音楽を進めようとするのは伝わってくるし、木管のソロはどれも美しい。ただ、時折音楽の流れが淀む感じも。
 第3楽章、ここでも91以降の木管ソロは安心して聴いていられるが、そうして盛り上がった先の165以降の全奏が意外とおとなしい。
 第4楽章、嵐の音楽でもティンパニを必要以上に強打させないなど、バランス重視で進む。
 第5楽章、やや遅めのテンポ。9以降のように、主題を1Vから2Vが受け継いでいく場面では、2Vに受け渡されても埋もれないように配慮。最初の全奏の後、32〜33のVaとVcや34〜35の1Vのフレーズでほとんどテヌートを掛けず、あっさりめに通り過ぎる。
 終盤190以降の全奏も、喜びがあふれんばかりの感じまではいかない。最後のフレーズはインテンポ。

 弦の数を抑えているので、どうしても響きの厚みという点で物足りなさを感じてしまう。おそらくヴァイグレとしては、この曲は大人数で派手に鳴らすのでなく、室内楽的にまとめたいのだろう。

 この日も終演後ヴァイグレや一部の奏者がホワイエで募金箱を持ち、能登半島地震被災地への支援を呼び掛ける。もちろんこの日も寄付。

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