神奈川フィル みなとみらいシリーズ 定期演奏会
〇2023年1月13日(土)14:00〜16:00
〇横浜みなとみらいホール
〇3階RD2番(3階上手側バルコニー最後方から2つ目のブロック)
〇ブラームス「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」Op77
(V=金川真弓)(約42分)
 チャイコフスキー「交響曲第1番ト短調」Op13(冬の日の幻想)(約46分、第3楽章繰り返し実施)
〇小泉和裕指揮神奈川フィル(14-12-9-8-7、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)(コンマス=石田)

少女歌劇の男役が歌うブラームス

 昨年デビュー・アルバムをリリースした若手注目株のヴァイオリニスト、金川真弓がブラームスの協奏曲を弾くというので、珍しく神奈川フィルのみなとみらい定期へ。7割程度の入り。

 第1楽章、遅めのテンポ。9小節目以降のObのフレーズがもう一息上まで昇り切らないので、少々不安に。しかし、そんな不安も90からソロが入ると吹っ飛ぶ。テンポ以上の推進力で技巧的なフレーズを次々と疾走し、冒頭主題が回帰する136で伸び伸びと歌う。その後は緊張感が増す部分と少し緩む部分とをくっきり弾き分けながら進み、イ短調の第2主題が始まる246以降はもう一段緊張を高めて頂点まで弾き切る。
 ハ短調に転じる304以降、改めて徐々に響きを積み重ねてゆき、379のCisの頂点へ持っていくところの盛り上げ方も見事で、ホロリと来る。
 カデンツァでは技巧のアピールをやや控え目にして、537以降の冒頭主題へ自然に戻っていくような流れ。
 第2楽章、Obソロの響きはかなり改善。32以降のソロも穏やかに歌う。嬰ヘ短調に転じた後の56以降は一転して強靭な意志を感じさせる響き。その後は聴衆の興奮を徐々に鎮めるように進んでゆく。
 第3楽章、冒頭2小節の16分休符で緊張を高め、3〜4にかけては殆ど間を置かない。彼女特有のフレージングが何ともカッコいい。57以降の重音で上昇する音階も切れ味抜群。
 22以降一旦熱を冷ましてから257以降のコーダに向かう音楽の流れも自然。コーダに入って少しだけテンポを上げるが、あおるような感じはない。
 少女歌劇の男役がソロを歌っているような、凛々しさとダンディズムを感じさせる演奏。オケについては、ソロが弱音で細かいパッセージを弾く部分でもう少し控え目になってほしい。

 後半はチャイコフスキーの1番。全曲チクルス以外でなかなか聴く機会がないのでありがたい。
 第1楽章、テンポはほぼ標準的。Vのトレモロの上をFlとFgが冬の空気を連想させるメロディを奏でる。それだけでゾクゾクしてくる。同じリズムのフレーズをしつこく繰り返しながら117以降の最初の頂点へ持っていく流れも心地良い。137以降、Clソロの第2主題から徐々に音楽が発展し、管楽器の和音に弦が後打ちで応答しながら盛り上げていくところなど、いかにもチャイコらしい。
 第2楽章、弦による落ち着いた響きで始まるが、24以降Obが変ホ長調からハ短調へ移行する民謡調の主題を提示。それが64以降ヘ短調に転じてVcで、125以降ハ短調に戻ってHrで繰り返される。Obにはもう少し響きの伸びがほしい。Vcはよく歌っていたが、Hrはアクセントを強調し過ぎで、全体的にもっとレガートで奏でてほしい。
 第3楽章、ハ短調ながら軽快なスケルツォ。トリオはひとときの夢を見るような、はかないワルツ。
 第4楽章、Fgの沈痛なフレーズが他のパートへ受け渡されながら発展しかけるも、すぐに力を失い消えそうになるが、47以降ト長調に転じると、初めて加わるTbとTuが一気にホールの空気を明るくしてゆく。春の訪れを告げるかのような、重厚で力強い音楽が続く。一旦静まっても、また次の音楽の山へ向かってゆく。特に359以降終盤に至る息長い盛り上がりは快感。
 粗削りだがチャイコらしい魅力に満ちた曲。小泉は派手な動きは一切見せず、愚直に音楽に立ち向かい、この曲のありのままの姿を聴衆に伝える。

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