トン・コープマン指揮N響(2回公演の2日目)
〇2023年9月21日(木)19:00〜20:50
〇サントリーホール
〇2階C2列39番(2階中央ブロック2列目上手寄り)
〇モーツァルト「交響曲第29番イ長調」K.201(10-8-6-5-3)(約23分、繰り返し全て実施)、同「フルート協奏曲第2番ニ長調」(8-6-5-4-3)+同「魔笛」より「恋人か女房があればいいが」(Fl=神田寛明)
 同「交響曲第39番変ホ長調」K.453(10-8-6-5-3)(約26分、繰り返し全て実施)
(コンマス=長原、第2V=森田、Va=村上、Vc=辻本、Cb=市川、Ob=よし村(「よし」は口の上が土)、Cl=松本、Fg=宇賀神、Hr=勝俣、Tp=菊本、Timp=久保)

変わらぬ躍動感

 N響のサントリー定期はコロナ以降なかなか行けなかったが、縁あってチケットを入手できたので、久しぶりに出向く。9割弱の入り。
 トン・コープマンと言えば、1990年代にアムステルダム・バロック・オーケストラ(AMO)によるモーツァルトの交響曲全集を録音するとともに、日本公演でも全曲演奏会を開くなど、日本にはお馴染みの指揮者。古楽奏法ではあるが、それまでの低いピッチ、高速テンポと味も素っ気もないフレージングによる演奏とは一線を画し、リズミカルで表情豊かな演奏を聴かせて、古楽の世界に多様性をもたらしたイメージがある。N響には過去2度ほど招かれたようだが、定期公演に登場するのは初めて(当初2021年に予定されていたが、コロナで実現しなかったとのこと)。

 今回は読響コンマスの長原幸太がゲストで登場。団員が揃ってもステージ上でチューニングせず、すぐに指揮者が出てくる。
 モーツァルトの29番、第1楽章、いつもの快速テンポを期待していたら、意外と標準的。43〜44小節のpと45以降のfの対比をはっきり付ける。69〜72のVaのHのトレモロを強調。展開部もあっさりとした表現でいつの間にか冒頭主題に戻っている。
 第2楽章、少し速め。弦のヴィブラートを抑えて古楽風の響きがする。丁寧なフレージングが心地良い。
 第3楽章、速いテンポを続けるかと思いきや、楽譜の指示通りのモデラートなテンポ。主部のリズミカルな音楽とトリオの典雅な雰囲気との対比が見事。
 第4楽章、やはり速くない。冒頭1オクターブ離れた2つのAをやや強調するように響かせてから次のフレーズへ。35以降の2Vのメロディをしっかり歌わせる。61〜62以降しばしば登場するVの上昇音階はきちんと弾かせているが、突き進むような勢いはない。AMOで聴かせたような大胆な表現は影を潜め、現代オケに寄り添ったと言うか、妥協した演奏のようにも聴こえる。

 フルート協奏曲には首席奏者の神田寛明が登場。第1楽章、ここでもテンポは標準的。神田のソロが始まるとオケが丁寧に支えるが、特に65以降、ObとHrが絡むと木管五重奏のような豊かな響きに。日頃から一緒に演奏している者同士でしか創れない、息の合ったアンサンブル。
 第2楽章、ソロの息長いフレージングにオケもしっかり寄り添っている。
 アタッカで第3楽章へ。神田の少し陰のある音色はこの曲の雰囲気にそぐわない感じもするが、弾むようなフレージングを前面に出すことで、そのマイナスを補って余りある。
 アンコールで「魔笛」のパパゲーノのアリア。歌の部分とグロッケンシュピールの伴奏部分をFlだけで自在に表現。後半ではアドリブのような技巧的なパッセージも盛り込む。何だかタミーノがパパゲーノに歌って聴かせているみたいで、実に面白い。

 39番第1楽章、今度はいつもの快速テンポに戻る。前半でソロを吹いた神田もステージに。編成上Flは1本なので、10以降など登場部分は、2曲目の協奏曲のように聴こえて得した気分。序奏最後の25、8分音符の後の休符を長めに取る。第1主題が始まる26以降は再び快速テンポに。94〜95、Clが主導する木管のアンサンブルが美しい。
 展開部も突っ走るが、178などの弦のトレモロはしっかり響かせる。第1主題に戻る直前の186の全休止も少し長め。
 第2楽章もスイスイ進むが、短調に転じた後の30以降に続く1Vのフレーズ、4つ目の8分音符にディミニエンドをかける。
 第3楽章も速いテンポ、管楽器が軽やかに4分音符を刻んでゆく。トリオに入ってもテンポは落ちず、ややせわしない雰囲気。後半の繰り返しで木管のアドリブを期待したが、不発。
 第4楽章、高速テンポを維持。展開部に入った直後の107の全休止も長め。第1主題に戻ってfの全奏になる直前、それまで楽譜通りリズムを刻んでいたティンパニが突然変異。161のEを叩く前にBを16分音符で2つ閃光のように挿入するのでびっくり。その後も最後までアドリブを挟んで盛り上げる。まるでティンパニ協奏曲。

 ようやくコープマンの意図した演奏ができたのに満足したのか、終演後真っ先にティンパニの久保を立たせて称える。
 いつもより小編成のN響、弦はヴィブラートをかけないわけではないが、かなり抑え目。しかし、それで響きが薄くなったり単調になったりしないところはさすが。
 もうすぐ79歳になるコープマンだが、独特の躍動感あふれる指揮ぶりはまだまだ健在。楽員解散後一般参賀。
 

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