新国立劇場「ジュリオ・チェーザレ」(4回公演の2回目)
○2022年10月5日(水)17:00〜21:35
○オペラパレス
○4階4列22番(4階最後列やや下手寄り)
○ジュリオ・チェーザレ=マリアンネ・ベアーテ・キーランド(MS)、クレオパトラ=森谷真理(S)、セスト=金子美香(MS)、トロメーオ=藤木大地(CT)、アキッラ=ヴィターリ・シュマノフ(Br)、コルネーリア=加納悦子(MS)ニレーノ=村松稔之(CT)、クーリオ=駒田敏章(Br)
〇リナルド・アレッサンドリーニ指揮東フィル
(8-8-6-5-4)、新国合唱団(10-10)
〇ロラン・ペリー演出

これぞ「国立歌劇場」の底力

 新国今シーズン最初の演目は、初のバロック・オペラとなるヘンデルの「ジュリオ・チェーザレ」。実は元々2年前の4月に上演が予定され、チケットも早々と完売したのだが、コロナの影響で上演中止となった。改めて今シーズン最初の演目として、公演回数も1回増やしてついにリベンジを果たすこととなった。残念ながら引越公演ではこうはいかないだろう。毎シーズン自主制作公演を続ける「国立歌劇場」だからこそ実現できたと言えるだろう。ほぼ満席の入り。

 序曲が始まると幕が上がる。博物館の収蔵庫という設定。中央で椅子に座って新聞を読む男。上手が職員の出入口。その奥に貨物用の大きなエレベーター。古代エジプトや古代ローマの胸像や大理石の頭部などが下手の棚や中央にかけて雑然と置かれている。職員たちが現れ、エレベーターからは別の作品を運び出す。
 第1幕第1場、下手から胸像の並んだ棚が引き出され、ローマ軍の合唱はその胸像が口を動かしていて面白い。
 奥からチェーザレとクーリオ登場。登場人物たちは当時の衣裳を身に着けている。チェーザレはローマの軍服だが軽装で、ローマ軍最高司令官にしては地味な出で立ち。クーリオはトーガ姿。
 第2場、奥からコルネーリアとセスト登場。チェーザレは下手に置かれたガラスの展示ケースの中に入ってそこから歌う。
 第3場、上手からアキッラ登場、ポンペイウスの大理石像の頭部分を縛り付けて持ってくる。その像の周りで嘆き悲しむコルネーリアとセスト、コルネーリアはその場に倒れる。チェーザレはトロメーオを非難するアリアを歌って下手へ退場。
 第4場、気が付いたコルネーリアにクーリオが求婚するが断られ、奥へ退場。職員たち、仕事を終えて上手へ退場し、収蔵庫内の明かりが消える。出入口の外からもれる光がポンペイウスの頭部を照らす。コルネーリアは夫の死を悲しみ、セストは復讐を誓うアリアを歌い、それぞれ退場。
 第5場、下手から横たわった巨大なエジプトの石像が運ばれてくる。クレオパトラはその上に乗っている。ニレーノも一緒に登場。上手からトロメーオ登場。クレオパトラと言い争いになり、彼女がアリアを歌い始めると、石像の頭部に跳びついてよじ登ろうとするが失敗。椅子を持ってきて真ん中あたりから上がろうとするも、やはり失敗。クレオパトラが歌い終わって下手へ退場するとトロメーオは石像の裏へ。
 第6場、上手からアキッラ登場。石像の下からトロメーオ登場し、チェーザレの反応を聞く。アキッラ退場後、チェーザレへの憎悪を募らせるアリア。
 第7場、石像は下手へ下げられ、木箱が上手中央に置かれる。開けると壺が入っており、ポンペイウスの骨壺という設定。改めて彼の死を悼むチェーザレのところへ、下手からニレーノがビールケースを積んで運ぶような手押し車にリディアに扮したクレオパトラを載せて登場。左の胸を露わにしたように見える妖艶な衣裳。一目惚れするチェーザレ。チェーザレ退場後、クレオパトラとニレーノのやり取り。
 第8場、別の大きな像が木組みの状態で下手に置かれる。奥からコルネーリアとセストが来るので、クレオパトラとニレーノは下手の像のところに隠れる。セストがコルネーリアに父の復讐を誓う。クレオパトラたちも姿を現して助力を申し出る。
 第9場、下手の像は片付けられ、奥にクーリオ、チェーザレ、トロメーオ、アキッラが並ぶ。4人前に出てきて、トロメーオはチェーザレに忠誠を誓うが互いに腹の内を探り合う。左右にガラスの展示ケースが置かれ、上手にトロメーオ、下手にチェーザレが入る。チェーザレがアリアを歌う間、トロメーオの入った展示ケースをノックするが、反応なし。職員たちが槍を持って集まる。歌い終わるとチェーザレたち退場。
 第10場、奥からコルネーリアとセストが入ってくる。展示ケースから出てきたトロメーオ、アキッラにセストを拘束するよう命じる。さっきの職員たちがセストを中央奥へ追いやる。トロメーオは、コルネーリアには女庭師を命じて退場。
 第11場、アキッラのアリアもコルネーリアの心は動かず、職員たちとともに退場。コルネーリアとセストの別れを悲しむ二重唱、下手に2台並べられた荷台にそれぞれ座って歌う。歌い終わると、職員が荷台を反対方向へ引いてゆく。

 第2幕第1場、4人の侍女たちが笑いながら奥から上手へ走り去ってゆく。クレオパトラも奥から登場、ニレーノにチェーザレを迎えに行くよう命じて上手へ退場。
 第2場、中央にイタリアの田園風景を描いた巨大な絵画が置かれる。ニレーノはアリアを歌った後、絵の前へチェーザレを案内。絵の左右に椅子が置かれ、バンダの奏者が9人、バロック時代の衣裳で登場。4人の侍女たちも同じ格好。最後にリディアに扮したクレオパトラがやはり同じ格好で登場、絵が額から外されると、絵と額の間に入ってチェーザレを誘惑。さらに、クレオパトラを描いた絵やヤシの木が並ぶ砂浜を描いた絵などが「動く書割」のように場を盛り上げ、チェーザレをその気にさせる。チェーザレのアリアでは、ニレーノがヴァイオリン・ソロの弾き真似をしたり、ヘンデルの肖像画を見せたりする。
 第3場、下手から台車に乗せられたヤシの木2本をコルネーリアが押して登場。アリアを歌った後後方からアキッラ登場、愛を訴えるも拒絶される。
 第4場、上手からトロメーオ登場。アキッラをその気にさせて退場させた後、今度は自分がコルネーリアに求愛。しかし、拒否されてコルネーリア退場。トロメーオ、怒りのアリアを歌い終わると叫び声をあげて退場。
 第5場、下手奥からせり出してきた棚の上にコルネーリア。自害しようとするが、上手から現れたセストに止められる。
 第6場、ニレーノがキャスター付き階段を持ってきて棚に寄せ、コルネーリアも降りてくる。ニレーノはコルネーリアがトロメーオに呼ばれたことを知らせるが、同時に力になると伝えて一緒に退場。残ったセストのアリアでは、上手手前の木箱から剣を何本も取り出す。ホリゾントが開き砂漠とピラミッド、砂嵐が見える。職員たちが慌てて棚や収蔵品に布やビニールを被せてゆく。
 第7場、下手から足付きの展示ケースが出てくる。職員たちが中の船の模型を取り出し、ガラスを磨いている。リディアに扮したクレオパトラ登場し、アリアを歌った後ケースの中に横たわって寝たふり。上手からチェーザレ登場、リディアを見付けて愛を告白。
 第8場、上手からクーリオ登場、チェーザレに急を告げる。チェーザレが敵を撃ちに行こうとすると、クレオパトラは彼の足にしがみつき、つい正体をばらしてしまう。上手から職員たちがチェーザレとにらみ合い。チェーザレは彼らを倒してクーリオとともに退場。1人残ったクレオパトラのアリア、再びホリゾントに砂漠とピラミッドが見え、宮殿の柱のような収蔵品が並べられる中で歌う。

 第3幕第1場、上手の出入口前に木箱を積み上げ絨毯が被せられた一角。後宮という設定らしく、トロメーオが侍女たちを侍らせている。気に入らない従者を蹴飛ばしたりしている。下手の棚には両手を上から縛られたコルネーリア。その手前に絨毯の修復?をしている職員たち。侍女たち、後宮からコルネーリアのいる方向に向かって絨毯を敷く。トロメーオ降りてきてコルネーリアのところへ向かい、抱こうとする。
 第2場、背後からセストが剣を持ってトロメーオを襲うがアキッラに止められ失敗。アキッラはトロメーオにチェーザレが死んだと報告、絶望するコルネーリアとセスト。セストはエレベーターの中へ連行される。アキッラはクレオパトラが攻めてきたことも告げ、勝ったら褒美にコルネーリアとの結婚を所望。しかし、トロメーオは拒絶し、アキッラ驚く。トロメーオは侍女たちを連れて奥へ退場。その際に絨毯を修理していた職人たちも絨毯をたたんで奥へ運んでいくが、そこで陰になったコルネーリアも縛りを解いて一緒に退場。
 第3場、残ったアキッラが寝返りのアリアを歌い、歌い終わると大声で叫んで奥へ退場。
 第4場、職員たちに担ぎ上げられたトロメーオとクレオパトラがにらみ合うが、クレオパトラは降ろされ、敗北。クレオパトラは椅子に縛り付けられ、トロメーオから小突かれるなどしていたぶられる。トロメーオたち退場。
 第5場、1人残ったクレオパトラのアリア。後半で縛りを自分で解き、歌い終わると奥へ退場。
 第6場、下手に頭と足の一部の欠けた巨大な大理石像が運ばれてくる。その足元からチェーザレ登場。像を覆っていた白布が職員たちによって外され、床に敷かれる。その周囲に立っていた職員たちは次々倒れる。
 チェーザレがアリアを歌い終わると奥からセストとニレーノ、下手から傷ついたアキッラ登場。アキッラの最後の言葉をセストとニレーノは背後から、チェーザレは上手端から聞く。
 第7場、チェーザレはセスト、ニレーノと再会。アリアを歌って退場。
 第8場、残ったセストのアリア。職員たち立ち上がる。歌い終わると一同退場。
 第9場、古代エジプトの城らしきレプリカが奥からせり出してくる。その中に横たわるクレオパトラ。その手前に座る4人の侍女たち。彼女たちに別れを告げていると、背後からチェーザレ登場。再会を喜ぶ。チェーザレ、アリアを歌って退場。1人残ったクレオパトラのアリア。
 第10場、コルネーリアとトロメーオ登場、トロメーオがコルネーリアに迫る。コルネーリア、棚から剣を取り出して構える。
 第11場、背後からセスト登場し、コルネーリアと2人でトロメーオを刺し殺す。喜ぶコルネーリアのアリアを、背後から少々不安げに見つめるセストだが、歌い終わると2人抱き合って奥へ退場。
 第12場、職員たちが木箱や絨毯を移動させ、中央やや下手寄りに玉座のように積み上げる。てっぺんにパイプ椅子2脚。チェーザレ奥から登場して玉座の椅子に座る。上手奥から絨毯が運ばれ、広げられると中からクレオパトラ。降りてきたチェーザレとじゃれ合い、2人とも玉座へ。ニレーノがビールケースを載せる手押し車に死んだトローメオを載せて下手から登場、他の人物たちも玉座の周囲に勢揃い。一同歓喜の歌を歌う中、職員たちは仕事を終えて上手へ退場、収蔵室内の電気を消す。しばらくすると警備員たちが懐中電灯を持って登場人物たちを照らす中、幕となる。

 ペリーの演出は、バロック時代に主流だった書割を何枚も重ねた舞台を現代風にアレンジし、絵画や彫像や展示ケースを縦横に動かすことで場面を創り上げる。面白い舞台。

 歌手たちはバロック音楽専門と古典派以降のオペラ専門の混成部隊。前者に属するキーランドは、安定した歌いぶりだがもう一息声を響かせてほしい。藤木と村松の両カウンターテナーはどちらも素晴らしい。藤木は高度な技術と声の色気で豊かな表現ぶり。村松は粗削りだがよく声が通り、存在感を発揮。古代エジプトの壺から飛び出したような、右手を顔の前に突き出し、左手をお尻の横から突き出すポーズを何度も決める。
 後者に属する歌手たちは総じて長く延ばす音はよく響く(特に森谷は圧倒的)が、細かい音符を回す部分では響きが薄くなりがち。また、森谷を筆頭にヴィブラートを聞かせる歌い方が、どうしても前者の歌手たちと合わせると違和感を覚える。

 しかし、そんな混成部隊の声がなぜかオペラとして一つのまとまった流れで聴こえてくる。それは何と言ってもアレッサンドリーニ指揮の東フィルの功績。ピッチは現代(おそらくA=440Hz)だが、ノンヴィブラート、ノンレガート奏法を徹底しながらも、音楽の流れに全く淀みがない。どちらのタイプの歌手でも上手く乗せて気持ちよく歌わせている。開演前はどこかで眠くなることも覚悟したが全くそんなことはなく、特に第1幕の90分などあっという間だった。
 
 一見地味なバロックオペラだが、集客も問題なさそう。今後も様々な作品を様々な演奏スタイルで見せてほしいものだ。

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