ヴァイグレ指揮読響(第248回日曜マチネシリーズ)
○2022年6月26日(日)14:00〜15:50
○東京芸術劇場
○3階G列29番(3階7列目ほぼ中央)
○ワーグナー「さまよえるオランダ人」序曲
 モーツァルト「ファゴット協奏曲変ロ長調」K.191(Fg=ロラ・デクール)
 (10-8-6-3-2)

+ファビオ・ジャノーラ「マルチフォニック・ファゴットのための古代と現代の舞曲」より"Afrocubana"
 ベートーヴェン「交響曲第7番イ長調」Op92(約40分、第1楽章提示部、第3,4楽章繰り返し実施)
 (14-12-10-8-6、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVaの後方)(コンマス=長原)

省エネ指揮で出力全開

 読響の常任指揮者、ヴァイグレが6月再来日し、3つのプログラムを振る。諸般の事情により3つ目のプログラムの2日目にようやく駆け付ける。9割程度の入り。

 コロナの感染状況も落ち着いてきたことを受けてか、ヴァイグレはマスクなしで登場。オケの奏者の中にもマスクをしている者は少ない。
「さまよえるオランダ人」序曲、冒頭のHrの主題、上のAを少し強調しながら吹かせる。テンポは標準的だが「ゼンタのバラード」の主題を木管が提示する部分は少し落として丁寧に響かせる。

 モーツァルトのファゴット協奏曲、ソリストのロラ・デクールはフランスのランス生まれ、19歳でパリ管に入団、2017年からヴァイグレが音楽監督を務めるフランクフルト歌劇場管のソロ・ファゴット奏者を務め、2019年のチャイコフスキー国際コンクールで第4位入賞。真っ赤なワンピース姿。
 オケは10型だが通常4人のVcが3人、代わりにファゴットが1人加わる。ソロが休んでいる個所のファゴット・パートを吹いているようだ。
 デクールの音色はファゴットにしては明るく響くが、どこかのどかさを感じさせるフレージングは紛れもなくファゴットらしい。細かいパッセージにも余裕がある一方、第2楽章では丁寧にメロディを歌わせる。
 アンコールはイタリア?のファゴット奏者による作品らしい。単純な分散和音による舞曲が次第に発展してゆき、最後は同じフレーズを繰り返しながら退場してゆく。

 ベト7第1楽章、ほぼ標準的テンポ。主に顔の前で小さく振っているのだが、響きは重厚。緊張感に満ちた序奏に続き、63小節目以降の第1主題に入ると、ややテンポが上がる。オケの推進力に任せているかと思えば、展開部終盤、第1主題に戻る直前の267以降、弦の上昇フレーズが小節をまたぐところを強調してさらに推進力を高める。せっかく高めた推進力は落としたくないのか、300の木管の和音でほとんどフェルマータは付けない。
 なぜか間を取らずに第2楽章へ。やや速めだが、低弦をしっかり響かせるので足取りはしっかりしている。長調に転じる101以降も低弦のピツィカートがアンサンブルを引き締める。183以降の二重フーガ、淡々と進んでいるようで響きに厚みがあるので、徐々に豊かな音楽へ発展してゆく。最後も未練なくサラッと終わる。
 第2楽章以降は、楽章間の間を取る。
 第3楽章、速めのテンポで疾走してゆく。ただ、風を切る爽快感でなく、波を切り裂いてゆく感じ。トリオも速い。通常省略される2回目のトリオの後半も繰り返し実施。
 第4楽章も速いテンポ。26以降のHrのフレーズも全く間延びなく突き進む。116以降の第2VとVaの16分音符のフレーズをあおる。378以降は低弦がオケ全体を引っ張ってコーダへ向かってゆき、そのまま一気にゴールイン。

 スピードとリズムが生み出すエネルギーを外へ発散させるのでなく、内に蓄積しながらさらなる推進力につなげてゆく。しかし、それをいつもの身体全体を使った指揮でなく、ほとんどは顔の手前の小さなスペースだけを使った小さな振りだけで成し遂げている。指揮者とオケの関係が一段階成熟してきたのかもしれない。

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