NISSAY OPERA 2022「セビリアの理髪師」(2回公演の初日)
○2021年6月11日(土)14:00〜17:25
○日生劇場
○1階E列7番(1階5列目下手側)
○フィガロ=須藤慎吾(Br)、ロジーナ=富岡明子(MS)、アルマヴィーヴァ伯爵=中井亮一(T)、バルトロ
=黒田博(Br)、ドン・バジリオ=伊藤貴之(B)、ベルタ=種谷典子(S)、フィオレッロ=宮城島康(Br)ほか

〇沼尻竜典指揮東響(8-8-6-4-3)、C.ヴィレッジシンガーズ(T=7,B=7)
〇粟国淳演出

表も裏も見せます

 NISSAY OPERAは2016年に粟国淳演出の「セビリアの理髪師」を初演、好評を博した。2020年に再演が予定されたが、コロナの影響で延期となり、ようやく実現の運びとなった。東京で2公演の後、11月から12月にかけて大津、堺、山形へ巡回するほか、「ニッセイ名作シリーズ」として中高生向けの無料招待公演も8公演予定されている。
 席間を空けず9割以上の入り。

 舞台には両端に天井まで届く櫓のようなものが2つ。それぞれ舵輪のようなものが付いている。中央には昔の歌劇場を思わせる小さな舞台、最前に照明用の突起が付いている。小舞台は4枚の板状の扉で仕切られ、オペラカーテンの映像が映されている。両端の舵輪を回すと扉が左右に開閉したり、小舞台が回転したりするが、必ずしも舵輪の動きに連動しているわけではなさそうだ。
 序曲の終盤に男が現れて照明に火を入れる。

 第1幕第1場、フィオレッロが楽士たちを連れて登場、扉が開くとロジーナの家。その前に梯子を立てかけ、伯爵はそこに昇ってカヴァティーナを歌う。2階の窓に女性の顔のシルエットが映るが、結局消えてしまう。扉も閉じる。楽士たちへの報酬は紙幣で払っている。
 伯爵たちが退場した後、フィガロのアリア。扉が開くとセビリアの街並。その間を行き来しながら、市民たちとも絡みながら歌う。
 その様子を街並の陰から覗いていた伯爵、フィガロに声を掛ける。小舞台が180度時計回りに回転、伯爵はフィガロにいきさつを話す。扉や街並の書き割りの裏側が丸見えになっているが、お構いなし。
 小舞台が90度だけ反時計回りに回転、扉の端に布が被せられて、バルトロの家。2階がロジーナの部屋で窓が見える。伯爵はフィガロの後押しでリンドーロを名乗ってカンツォーネを歌う。ロジーナがこれに応えて窓を開け、バルトロの妨害の隙を見て手紙を落とす。伯爵、すかさず拾い、フィガロとともに上手端へ。
 小舞台が再び90度時計回りに回転、裏側へ。伯爵はフィガロの助力を頼み、フィガロは承諾。

 第2場、小舞台が180度回転して表側へ。上手にテーブルと筆などの道具。ロジーナ、入ってきてきちんと手の消毒。手紙を書いてカヴァティーナ「今の歌声は」を歌う。下手からフィガロ登場、近況を聞き出すがバルトロが来るので2人とも一旦退場。
 小舞台の扉が開いてバジリオがなぜか傘を差して登場。アリア「陰口はそよ風のように」を歌い始めると、白い仮面を被った男たちが現れ、伯爵を囲んで攻撃。
 2人が退場すると、入れ違いにロジーナとフィガロ登場。フィガロはロジーナにリンドーロのことを伝え、手紙を受け取って退場。
 入れ違いに登場したバルトロ、ロジーナの言い訳に腹を立て、アリア「わしのような医者に向かって」を歌い、扉が開くと大きな鳥かご。ロジーナをそこへ閉じ込める。
 しかし小舞台が180度回転して裏側になると、鳥かごは枠だけ、ロジーナは難なく抜け出す。
 ベルタの短いレシタティーヴォの間に再び小舞台が回転して表側になる。上手にテーブル、男の顔の石像が乗せられている。扉を荒々しくたたく音。バルトロが扉を開けさせると、酔っぱらった伯爵登場。ロジーナ、フィガロ、ベルタも出てくる。とうとう軍隊が入ってきて隊長が伯爵を連行しようとするが、身分を明かされてがっくり。バルトロはテーブルの奥に座り込み、文字通り「石像のように」固まっている。ドタバタのうちにフィガロは伯爵を下手へ連れ出す。

 第2幕、第1幕最後の場面と同じ状態。扉が開くとアロンソに扮した伯爵登場。疑われた伯爵、ロジーナから受け取った手紙をバルトロに渡してしまう。
 小舞台が180度回転して居間に。上手端にチェンバロ、中央奥と上手端に出入口。小舞台の外の下手にテーブルと椅子。バルトロにいやいや引っ張り出されたロジーナ、アロンソを見て狂喜。伯爵は、時折チェンバロを「セサミストリート」のドン・ミュージックばりに髪を振り乱しながら伴奏し、ロジーナの歌の稽古。バルトロは下手のテーブル前に座って時折居眠りしながら聞いている。
 歌い終わるとバルトロが自分の好きな歌を勝手に歌詞を変えて歌い始める。奥の出入口からフィガロ登場。無理矢理髭剃りをさせようとする。上手袖に道具を取りに行き、派手にグラスなどを割ってバルトロが駆け付ける。
 ようやくフィガロとバルトロが戻ってきたところへ、奥の出入口からバジリオ登場。伯爵に言いくるめられたバルトロも協力して何とか追い出しに成功。
 バルトロは下手のテーブル前に座り、フィガロが長い前掛けを掛けて髭を剃り始めるが、隙を見てバルトロはチェンバロを囲んでささやき合う伯爵とロジーナに接近。伯爵の変装を見破ると、フィガロと伯爵は前掛けでバルトロをぐるぐる巻きにして床に放り出す。
 小舞台回転して表側。ベルタのアリア。彼女を取り囲む男たちに対し、眼鏡とエプロンを取って歳の割にはまだまだ美人であることをアピール。
 小舞台が再び裏側になり、バルトロがロジーナに手紙を見せ、リンドーロに騙されていることを知らせる。絶望したロジーナはバルトロとの結婚を承諾。
 嵐の場面、扉が開いて小舞台がゆっくり1回転。風と雷の音を出す楽器が舞台両端にわざわざ運ばれ、合唱団員が譜面台を見ながら生演奏。
 小舞台は裏側。ロジーナのところに伯爵とフィガロが登場。伯爵は彼女の誤解を解く。2人はフィガロの手引きで駆け落ちしようと、下手の階段を昇っていくが、梯子が外されていることを知り、再び降りてくる。扉が開き、バジリオが公証人を連れてやってくる。ロジーナと伯爵は急いでサイン、フィガロとバジリオが証人に。
 小舞台が回転して表側に。扉が開いてバルトロが軍隊を連れてやってくるが、時既に遅し。隊長は伯爵の正体を知って2度がっくり。扉が閉じ、ロジーナは一旦退場。再び扉が開くと、奥から花嫁の白いボンネットを被ったロジーナが伯爵を迎える。バルトロはどうやらベルタと結ばれるようだ。

 粟国はスペインの田舎芝居を思わせる、手作り感ある舞台づくり。中高生向けに劇場の舞台裏のからくり紹介といった要素も盛り込み、大人が観てもどこか懐かしさを感じさせる。最後の曲で、登場人物が1人1人ソロを歌うたびにお辞儀して脇へ移動するので、そのたびに客席から自然と拍手が起こる。ミュージカルのカーテンコールみたいで面白い。

 須藤は張りのあるバリトン、歌いぶりも安定している。ただ、登場のアリア「私は街の何でも屋」で、終盤に至るまで異常に遅いテンポで歌っていたのが後々まで気になってしまった。中井は細かいミスはあるものの、終始明るい声と伸びやかな歌いぶりで、伯爵にぴったり。リンドーロに扮して歌うところではギターも自分で演奏して素晴らしい。富岡も明るい声質のメゾ、コミカルな部分とシリアスな部分の歌い分けも巧みで、こちらも適役。黒田も二期会の「ファルスタッフ」以来、身の程知らずのエロ老人役がすっかり板に付いた感じ。第2幕終盤でロジーナが自分との結婚を認めて絶望を歌っている間、後ろで浮かれまくって腰を痛めるところなど、今の彼の真骨頂と言うべき。残念ながら今回ゆう貴(「ゆう」は示に右)フィガロとの親子共演は実現しなかったが、是非観てみたい。伊藤、種谷も歌と演技でしっかり主張。

 沼尻指揮の東響はきっちり弾こうとし過ぎるのか、今ひとつ音楽が流れてこない。場面によってもう少しタガを外していいところもあるように思う。ただ、第1幕でバジリオが手の消毒をしてバルトロに向かって払い落す仕草にまで節を付けた、平塚洋子のチェンバロにはブラヴォー。C.ヴィレッジシンガーズは、歌も演技も芸達者揃いの集団で、舞台を大いに盛り上げる。

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