ミューザ川崎ホリデーアフタヌーンコンサート2022前期
○2022年3月12日(土)13:30〜15:30
○ミューザ川崎シンフォニーホール
○2階CA5列33番(2階中央ブロック5列目やや上手寄り)
○ベートーヴェン「魔笛の主題による7つの変奏曲変ホ長調」WoO46
 シューマン「幻想小曲集」Op73(繰り返し実施)
 黛敏郎「BUNRAKU」
 ポッパー「ハンガリー狂詩曲」Op68
 ドビュッシー「チェロ・ソナタ」
 プーランク「チェロ・ソナタ」
+マスネ「タイスの瞑想曲」
〇Vc=岡本侑也、P=大須賀恵里

ショー・マスト・ゴー・オン

 当初このリサイタルはチェロの岡本侑也とピアノの北村朋幹によるデュオ・リサイタルとして予定されていた。しかし、北村が帰国した際に乗った飛行機に新型コロナウイルスの陽性者が判明し、彼も濃厚接触者とされたため、彼自身は陰性ながら出演できなくなってしまった。そこで急遽大須賀恵里がピアノを務め、曲目も一部変更して開催されることとなった。3階席を使わない状態で6割程度の入り。
 ステージは山台が同心円状にせり上がった状態。4台置かれた譜面台に「会話はお控え下さい」との表示。演奏開始前に撤去。

 岡本は若手演奏家によくある、黒のシャツとズボン姿。対する大須賀は真っ白なドレスに左肩から腰にかけて黒い帯がかかっていて、チェリストよりずっと目を引く(なぜそんな衣裳かは後でわかる)。

 ベートーヴェンの「魔笛」変奏曲、各変奏の曲想に合わせて表情を細かく変えていくチェロに対し、ピアノはまずは無難にサポート。
 シューマンからポッパーは当初の予定から変更。第1曲は寂しげなメロディをチェロが丁寧に歌ってゆく。第2曲は一転して春の訪れを告げるような明るいメロディを伸び伸び歌う。ピアノはここでも安全運転。ピアノが飛び出しても構わないはずの15小節目などでも抑えている。
 しかし第3曲でアクシデント。チェロの上昇音型が到達したところでピアノが和音で合わせるというパターンが何度かあるのだが、2と6は同じパターン、続く10では1音下がってチェロが弾くのだが、ピアノがそれまでと同じ和音を弾いて妙なハーモニーに。これが前半で2回、後半でもう1回出てくる。最初はピアニストの勘違いと思ったのだが、3回とも同じようなハーモニーになってしまう。間違った和音を弾いているのに気付いてないのか?
 黛の「BUNRAKU」はチェロ独奏。拍子木を思わせるピツィカートに始まり、三味線風のグリッサンドに太夫の浄瑠璃語りを思わせるメロディが心地良い。
 ポッパーはチャールダーシュ風の緩と急の組合せが目まぐるしく交代する。軽々と弾き進めてゆくチェロにピアノが必死で付いて行く感じ。

 後半最初のドビュッシーも当初の予定から変更。しかし、蓋を全開したピアノが、第1楽章冒頭の和音でこの日初めてホール全体に響き渡る。前半ではとにかくチェロを邪魔しないように控え目だったピアノがようやく前に出てきて、チェロと対等に渡り合う。
 楽譜に指示はないがアタッカで第2楽章へ。チェロのピツィカートとピアノのスタッカートが上手くかみ合って音楽に躍動感が出てくる。
 楽譜の指示通りアタッカで第3楽章へ。細かいリズムを刻むピアノの上を7以降チェロが心地良さそうに歌う。

 プーランクのソナタ第1楽章、ここもピアノの決然とした和音から始まる。しかし、チェロのメロディ・ラインはプーランクらしい、乾いた雰囲気。
 第2楽章、先行するピアノの和音はppだが決して控え目でなく、チェロの夢見るようなメロディをお膳立て。
 第3楽章はピアノの切れのいいフレージングにチェロがピツィカートとアルコで自在に応える。
 第4楽章、チェロの重音にピアノの和音が重なり、深刻な雰囲気の序奏と11以降プレストで軽快に進む部分とのコントラストが見事。

 演奏後2人がマイクを握って話し始める。北村が出演できなくなった経緯、曲目変更での打合せの様子(大須賀は「アルペジョーネ・ソナタ」ならすぐ弾ける」と言ったが受け入れられなかった、わずか2日で本番を迎えた)など、岡本が話しかけたものの、FM埼玉でMCを務める番組を持っているせいか、その後は大須賀が話し続ける。白の衣裳は「矢を受けても血が赤くにじんですぐわかるようにするため」だとか?!北村の無念の思いもしっかり代弁。
 一気に客席がなごんだところでアンコールの「タイスの瞑想曲」へ。不測の事態に見舞われたこの日のリサイタルを静かに締めくくる。
 終始大須賀を先に退場させる岡本に対し、カーテンコールでは岡本から遠く離れている大須賀。遠慮する大須賀のところへ近付いて何とか一緒に客席の拍手に応えようとする岡本の仕草が微笑ましい。

 まだまだコロナの影響が音楽界に暗い影を落としていることを再認識。別の機会に岡本と北村の競演を改めて聴いてみたい。

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