ヴァイグレ指揮読響(第244回土曜マチネシリーズ)
○2022年2月19日(土)14:00〜15:55
○東京芸術劇場
○2階B列50番(2階2列目上手側)
○ロルツィング「密猟者」序曲
 ドヴォルザーク「チェロ協奏曲ロ短調」Op104(Vc=上野通明)(約41分)
 (12-10-8-6-5)

+バッハ「無伴奏チェロ組曲第1番ト長調」より前奏曲
 シューマン「交響曲第3番変ホ長調」Op97(ライン)(約33分、第2楽章繰り返し実施)
 (14-12-10-8-6、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVaの後方)(コンマス=林)

推進力と重厚さを両立

 先に予定されていた演奏会形式の「エレクトラ」が中止となり、来日が危ぶまれていた読響常任指揮者のヴァイグレが、何とか半年ぶりに来日。となれば、何をおいても駆けつけねばならない。8割程度の入り。

 ロルツィングの歌劇「密猟者」は喜劇。主人公が村娘との婚約祝いをしていると、彼の射止めた鹿が密漁によるものだったことが発覚したことからひと騒動起きるという物語らしい。ニ長調の軽快な音楽の中に、狩りを連想させるHrの合奏や銃声が組み込まれている。聴く者の緊張をほぐす楽しい演奏。カーテンコールでは銃担当の奏者にも喝采。

 ドヴォルザークのチェロ協奏曲、ソリストは昨年ジュネーヴ国際音楽コンクールで優勝した上野。
 第1楽章、テンポはほぼ標準的。落ち着いた冒頭から徐々に響きを重ねていき、23小節目以降の全奏もしっかり響かせる。56以降のHrソロも安定したフレージング。チェロのソロ出だし、89〜90の重音を丁寧に響かせる。139以降の第2主題はスコア上ppの指示だが、少し大きめ。その後192の全奏に至るまでのソロも着実な歩み。
 第2楽章、ここも丁寧に弾いているが、長調の部分と短調の部分の表情の違いがもう少しはっきり出てほしい。
 第3楽章、一転して軽快に進んでゆく。ト長調に転じる281以降や終盤の425以降クライマックスに向けて息長く歌うところなども情感がこもっている。
 かつて巨匠と言われたチェリストたちは、この曲を一所懸命な表情で弾いていたものだった。彼らと比較すると、あくまで見た目だが、上野の弾きぶりはあまり苦労しているように見えない。オケが容赦なく鳴らしてくるので余計そう見えるのかもしれないが。
 アンコールのバッハも速いテンポでスイスイと弾いてゆく。このスマートな弾きぶりにいかに自分の音楽への信念を込められるか。彼にはそこがこれから問われるだろう。

「ライン」第1楽章、速めのテンポ。冒頭から5小節目までは溌溂と、6から柔らかく歌わせ、14以降は再び溌溂と。その後は細かい指示をほとんどせず、オケ全体を前へ、前へと進めてゆくが、音楽自体は行きつ戻りつしているように書かれている。しかし、139〜140のVaとVcの上昇音型、すなわちもう一段流れを加速させる引き金のようなフレーズを強調。
 一段落してト短調に転じる185の全奏は豊かだが強引さのない響き。その後再び音楽に行き詰まり感が出てくると、今度は367以降Hrが冒頭主題を回帰させて空気を変える。そのまま終盤へ。最後の和音にはほとんどフェルマータをかけない。
 第2楽章も速いが、第1主題の付点リズムの伸びやかさと16分音符のスタッカートの刻みのコントラストを明確に付ける。終盤119以降のHrのファンファーレ風フレーズは堂々と響かせる。
 第3楽章も速め。16分音符のスタッカートで始まる5以降の主題と、17以降のなだらかな主題で表情を変えるが、全体的にレガート重視で歌わせる。
 第4楽章、ここもテンポは速めだが音を着実に積み重ねてゆく感じ。Tbのコラールに絡む6以降の8分音符のフレーズはあまり目立たせない。52以降の管のファンファーレは朗々と響かせるが、その手前の全休符はほとんどなし。
 アタッカで第5楽章へ。やはり快速テンポだが、これまでと一転して細かい指示が多くなる。26以降の弦のフレーズに対しては踊るように身体を左右に揺らす。2拍目と4拍目にアクセントが続いた後の93以降、8分音符、2分音符、付点4分音符のフレーズをレガートでつなげる。しかし、大きな音楽の流れは維持され、着実に盛り上げてゆく。終盤303以降さらにテンポが上がる。
 最後の音が鳴ってからしばし静寂。聴衆にブラヴォー。

 シューマンの交響曲は最近2番以外なかなか生で聴く機会がない。鳴らすのが難しいとも言われるが、ヴァイグレは速いテンポによる推進力と響きの重厚さを両立させ、そこに音楽全体のバランスを崩さない程度の細工を施して、シューマンの音楽の豊かさを見事に表現。

 今回ヴァイグレと読響との演奏会はこの日と翌日の2回のみだが、他のオケも含めサプライズ代役にも期待したいところ。

表紙に戻る