下野竜也指揮読響(第614回定期演奏会)
○2022年1月20日(木)19:00〜21:15
○サントリーホール
○2階P6I列23番(2階ステージ後方最後列ほぼ中央)
メシアン「われら死者の復活を待ち望む」
 ブルックナー「交響曲第5番変ロ長調」(約74分)
 (16-14-12-10-8、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVaの後方)(コンマス=林)

速さを感じさせないブルックナー

 オミクロン株の流行は音楽界に再び暗い影を落としている。海外の演奏家の来日がまた困難になり、代役の確保に関係者は奔走している。
 この日の演奏会も、もともとローター・ツァグロゼクが振る予定だったが、下野に変更。その影響なのか、あるいは翌日からまん延防止措置が取られるからなのか、席数制限をかけていないのに半数程度とやや寂しい入り。

 前半のメシアン「われら死者の復活を待ち望む」は第二次世界大戦の終結20周年に向けて、その死者たちを悼むために、当時のフランスの文化大臣、アンドレ・マルローが委嘱したもので、1964年の作。管楽器と打楽器(カウベル、チューブラーベル、大小様々の銅鑼、ゴング)のみによる演奏。最前列にFl系とOb系、その後ろにCl系とFg系、その後ろに金管、そして最後列に打楽器がずらりと並ぶ。
 第1曲「深き淵よりわたしはあなたを呼ぶ、主よ、主よ、わたしの声をお聞きください」は、Tb、Tuなどの低音楽器による持続音が地の底からの声のように響き、打楽器による合奏へ。
 第2曲「キリストは死者の中から蘇られてももはや死ぬことはなく、市はもはや彼を支配しない」は、ピッコロなどによる急速なパッセージを木管のソロが受け継いでゆく。
 第3曲「死者たちが神の子の声を聞く時が来る」は、木管による鳥のさえずりのようなアンサンブル→チューブラーベルの音列に管楽器のアンサンブルが重なる→金管の低音による静かな和音→銅鑼が徐々にクレッシェンドして頂点へ、といった音楽を2回繰り返す。
 第4曲「星たちの喜ばしい歌声と天の子たちの歓呼のうちに彼らは栄光に満ち、新しい名と共に蘇るだろう」は、銅鑼の弱音に始まり、管楽器による鳥のさえずり風アンサンブルにゴングなどの打楽器が加わる。Tpによる輝かしい合奏などを経て、最後は再び銅鑼の弱音で終わる。
 第5曲「私は大群衆の声を聞いた」は、小さな銅鑼が拍子を刻む上に管楽器の静かな持続音が重なり、それが階段状に盛り上がってゆき、最後は救済を高らかに告げるかのような輝かしい持続音で閉じる。
 メシアンらしい自然賛歌と宗教的な雰囲気が伝わる演奏だが、管楽器奏者たちには相当負担のかかる曲である。後半にもステージ上がる奏者たち、大丈夫かと心配になる。

 15分の休憩中に椅子を並べ替えるだけでなく、打楽器も全て撤去しなければならない。譜面台などはステージの端にあらかじめ寄せてあるものの、スタッフたちは大忙し。

 ブルックナーの弦は久々の16型。5番は9年前の2013年2月、下野が読響正指揮者として最後に臨んだ演奏会で取り上げ、名演だったと言われている。代役での登場とは言え、これも何かの縁だろう。
 金管は上手からHr5、Tp4が並び、Tpの後ろにTb3とTu。
 第1楽章、ほぼ標準的テンポ。14小節目3拍目からの休符を少し長めに取る。続くユニゾンはffにしては控え目だが、しっかり地に足の着いた響き。22や30の全休符も長め。31以降頻繁に登場する楔型のスタッカートはあまり鋭く付けない。
 Va,Vcによる第1主題、56〜57の<>は控え目。81〜82のVの上昇音階、30人のVによる分厚い響きは久々の感覚。最初の山が一段落する100の2拍目以降の休符も長め。
 101以降のピツィカートが丸い音で心地良い。115のリタルダンドは殆ど付けない。
 変ニ長調に転じて金管が加わる165以降の>型アクセントもあまり強調しない。177以降も同様。
 247のObがやや乱れる。
 第1主題が転調を繰り返して発展して行き着く319以降のfffの全奏、まとまりはあるが、攻撃的に迫る雰囲気はない。
 347以降、息長く第1主題へ回帰するところのクレッシェンドが心地良い。
 終盤の501以降、金管の32分音符2つの刻みをくっきり聴かせる。
 最後の音はぶちっと切る感じでなく丸い音。

 第2楽章もほぼ標準的テンポ。5以降のObソロ、あまり<>を付けずに淡々と進む。
 31以降の第2主題、控え目だが安定した響き。59以降盛り上げていく部分、過度に緊張を高めず自然に頂点へ達する。
 85以降の全奏も豊かな響き。95〜96のppとffのコントラストもはっきりしているが、ギリギリ追い込む感じはない。
 第1主題が3回目に提示され、169以降の管による上昇音階も快感。

 第3楽章、やや速め。47以降のアッチェランドは3小節くらいでかけて後はそのテンポを維持。快調に進むが、ここでもアクセントは控え目。
 トリオも淡々と進む。107以降のV,Vaのffのトレモロもしっかり響くが、びっくりさせるようなアクセントはない。

 第4楽章へ入る前に下野は長めの間を取り、瞑想して集中力を高め直す。
 ほぼ標準的テンポ。3と5nClがやや不明瞭。12などClのフーガの主題の後のGPは楽譜通り取るが、30の3拍目以降の休符は長めに取らず、そのまま低弦のフーガへ突入。フーガの主題のアクセントも控え目。
 67以降の2Vの第2主題は滑らかで、1Vとの掛け合いもせかせかした感じがない。
 175以降の金管のコラールもレガート。
 223以降のコラール主題によるフーガ、第1主題も絡め小さな山と谷を繰り返しながら息長く盛り上げていくが、緊張感は途切れない。
 終盤564以降、Tp,Tb,Tuによるフーガの主題に応える567などのHrのフレーズをもう少し強調してほしい。
 最後も丸い豊かな音で締めくくる。
 指揮者が棒を下すまで沈黙。聴衆にブラヴォー。

 後で時計を見て意外と速いテンポだったことに気付いたが、一つ一つのフレーズを丁寧に弾かせているので全く速さを感じさせない。しかし一つの楽章が終わるたびに「あっという間」という感じがするから不思議。
 久々の16型の弦はやはり重厚で、音量はあまり変わらなくても響きの密度が上がった感じがする。管楽器も充実、特に金管は安定した演奏で、ブルックナーの世界に身を委ねさせてくれる。欲を言えば、ティンパニはもう少し堅めのバチの方がいいかも。

 団員を解散しても拍手は鳴りやまず、下野がダブル・コンマスだった林と長原の手を引っ張って出てくるが、結局1人残って一般参賀。

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