桐朋学園宗次ホール オープニング・コンサート・シリーズ 会田莉凡ヴァイオリン・リサイタル
○2021年12月8日(水)19:00〜20:30
○桐朋学園宗次ホール
○b列6番(2列目下手側)
○ドヴォルザーク「ルサルカ」より「月に寄せる歌」、チャイコフスキー/アウアー「エフゲニ・オネーギン」より「レンスキーのアリア」、グラズノフ「ライモンダ」より「グランド・アダージョ」、ドビュッシー/ハイフェッツ「牧神の午後への前奏曲」、プロコフィエフ/バイチ、フレッツベルガー 組曲「ロメオとジュリエット」より「序曲」「騎士たちの踊り」「百合の花を持った娘たちの踊り」「マキューシオ」「決闘とティボルトの死」
フランク「ヴァイオリン・ソナタイ長調」
+マスネ「タイス」より「瞑想曲」
〇V=会田莉凡、P=五十嵐薫子

木の折り紙にたたずむ清楚なフランク

 桐朋学園宗次ホールのオープニング・コンサート・シリーズ、この日は桐朋出身で2012年の日本音楽コンクール・ヴァイオリン部門で第1位を取って以降着実に成長している会田莉凡が登場。
 客席はほぼ市松配置で半分程度の入り。
 前半はオペラやバレエの名場面集。「ルサルカ」の「月に寄せる歌」は基本的に歌の部分をヴァイオリンが弾いていくのだが、2回目のサビの部分を1回目の1オクターブ上で弾くことで、華やかな雰囲気に。
「レンスキーのアリア」も歌の部分をヴァイオリンが担当。青春の過ちを悔いる歌だが、ヴァイオリンの音色がよく合っている。
「ライモンダ」からの「グランド・アダージョ」は、第1幕第2場、ライモンダが恋人の幻と踊るグラン・パ・ダクシオンの最初の曲。テンポはアダージョだが、終盤に繰り返される振幅の大きなアルペジオの連続で「グランド」な感じになる。
「牧神」はフルートとピアノで演奏されることが多いが、メロディ部分をヴァイオリンがほとんど取って代わるだけでなく、オケ版のコンマス・ソロもオリジナル通りに弾く。
 プロコフィエフの「ロミジュリ」では、序曲の冒頭から一気に悲劇の世界へ吸い込まれる。「騎士たちの踊り」は「カプレーティ家とモンテッキ家」と呼ばれる方が一般的かも。中間部を経て最初の主題をピアノが提示する場面、音量はpだがもう少し付点を鋭く聴かせてほしい。「百合の花を持った娘たちの踊り」は原曲ではフルートがメロディを奏でるが、ヴァイオリンでもなかなかいい雰囲気。「決闘」も原曲はヴァイオリンがメロディ担当なので違和感ないが、「マキューシオ」や「ティボルトの死」で元々金管が提示するメロディも力強く、迫力十分。
 会田のヴァイオリンは前半こそ高音が鳴り切らない部分があったが、中低音の厚い響きが心地よい。情感を込めた表現で、各曲の場面が目に浮かぶ。

 後半は一転してフランクのヴァイオリン・ソナタという、名曲中の名曲に挑む。譜めくりの男性が、ピアノ用楽譜を譜面台に置いて1枚めくるのが少々乱暴。
 第1楽章、速めのテンポ。ねっとり弾いてほしいとオールドファンは言うだろうが、私は断然この方が好きだし、解釈として正しいと信じる。盛りを過ぎた貴婦人の厚化粧でなく、さりげなく気品がにじみ出るようでなければならない。しかもテンポよく進めていても、頂点に向かって緊張は着実に高めている。
 ヴァイオリンの主題がひと段落した31小節7拍目から始まる、ピアノの8分音符3つの下降フレーズを過度に遅くしないのもよい。89以降も同様だが、93の7拍目から少しテンポを落とす。
 終盤115からのヴァイオリンのフレーズでも少しテンポを落とすが、最後の音は楽譜通り3拍分でサッと切る。
 第2楽章はほぼ標準的テンポ。14から始まるヴァイオリンの主題、分厚い響きだが強引さは全くない。ppで入ってくる29以降のフレーズとコントラストをはっきりつける。
 冒頭の主題が回帰した後ピアノ・ソロとなる148以降、1回目とは違った和声展開になることをもう少し強調すると面白いのだが。
 フィナーレの202以降、ppから徐々に緊張を高めていって最後の頂点に向かうところはヴァイオリン・ピアノ一体となって見事。
 第3楽章もほぼ標準的テンポ。冒頭のピアノのfは落ち着いているが、重苦しい感じはない。27以降徐々に緊張を高め、46で頂点に達した後47で急に緩めて48以降の夢見るようなフレーズへ移行するあたりの大きな流れを、無理なくスムーズに進めてゆく。
 第3楽章の後も少し間を置く。
 第4楽章もほぼ標準的テンポ。喜びにあふれた音楽が淀みなく紡ぎ出されてゆく。ピアノが転調を繰り返しながら、ヴァイオリンが第3楽章のフレーズを繰り返す123以降の両者の掛け合いも聴き応えがあったが、ハ長調に収束した直後の159のピアノの和音が、ffと指示されているのに随分と控えめなのはもったいない。

 会田のヴァイオリンは高音から低音まで満遍なくよく響き、奇をてらった表現もなく、音楽の運びにも自信が満ちていて、風格を感じさせる。
 五十嵐のピアノも1音たりともおろそかにしない精密な弾きぶりだが、それを平常心でやってのけるところはただ者ではない。特に前半の言わばオケを担当する部分のサポートは見事。しかし、フランクは伴奏に徹し過ぎ。ピアノと対等か、ところによってはピアノが前に出る場面があればもっと面白い演奏になったのに。

 フランク演奏後会田さんから挨拶。今年4月から京響、来年4月から札響のコンマスを務める一方、ここ2年程オペラ・バレエにはまったそうで、それが前半のプログラム選択につながったとのこと。また、フランクは大好きな曲でこのホールでぜひ弾きたかったとのこと。
 アンコールは前半のパターンでタイスの瞑想曲。こちらもうっとり聴き惚れる。次回はオケピットで弾くのを聴きたい。

 演奏者たちのステージ上の立ち位置も定まってきたのか、この日のヴァイオリンとピアノのバランスはばっちり。今夜も贅沢な時間。

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