ファビオ・ルイージ指揮N響(2回公演の初日)
○2021年11月18日(木)19:30〜20:50
○東京芸術劇場
○3階G列48番(3階7列目ほぼ中央)
○ブルックナー
「交響曲第4番変ホ長調」(ロマンティック)(約72分)
(14-12-10-8-6、下手から1V-2V-Vc-Va,CbはVc後方)
(首席奏者:コンマス=白井、第2V=大宮、Va=佐々木、Vc=辻本、Cb=吉田、Fl=神田、Ob=吉村、Cl=松本、Fg=宇賀神、Hr=今井、Tp=菊本、Tb=古賀、ティンパニ=久保)

メイン一皿で大満足

 N響はコロナ以降「定期演奏会」を中止し、「〇月公演」という形で通常より短いプログラムでの演奏会を細々と続けてきたが、今シーズンからようやく「定期演奏会」が復活した。ただ、内容はまだ以前の水準には戻っていない。この日もブルックナーの4番のみということで、開演時間も19時30分に設定された。
 さらに、今月は来シーズンから首席指揮者に就任するファビオ・ルイージが3つのプログラムを振る予定だったが、隔離期間を確保できず、先週の定期は沼尻竜典に交代。この日が就任決定後初のお披露目ということになった。
 客席は制限が緩和され、8割程度の入り。

 珍しくステージには開演数分前から管楽器とティンパニが着席。アナウンスが終わると、何とルイージが登場。そして、彼に促されるようにして、弦楽器奏者たちが入場という前例のない幕開けとなった。これからブルックナーを聴こうというのに、心の準備が追い付かない。

 第1楽章、滑らかなトレモロの上を、Hrソロの美しいソロ。テンポは遅め。最初の息長いクレッシェンドは、ルイージらしからぬ、じわじわと着実に盛り上げてゆく感じ。
 75小節目以降の第2主題も丁寧に歌わせる。119以降の弦が下降音型と上昇音型を繰り返すところでは、自然な><で特に強調はしない。151以降の長丁場のクレッシェンドも少しずつ盛り上げ、強引さが全くない。239以降も同様。
 305以降のコラールでは、終始響きの豊かさを保ち、ほとんど強弱の変化を付けないが、一段落付く325以降にティンパニ(G)のトレモロを加える。つづく333以降の弦の合奏をさらに丁寧に、手袋をはめて骨董品を扱うような手付きで響かせる。第1主題に戻る直前、362〜363の和音の変化も変わり目を全く感じさせない滑らかさ。
 365以降の再現部は冒頭よりさらにテンポが遅くなった感じ。丁寧な音楽づくりはその後も維持され、最後の和音もふんわりした響き。

 第2楽章、ほぼ標準的テンポ。レガート重視だが、第1楽章よりは淡々と進んでゆく。51以降のVaパートソロは弱音重視、57以降、62,68〜70などのppを極端に抑え目に弾かせる。77のHrでわずかなミス。101以降も自然と盛り上げてゆく。193以降も同様。終盤238のHrソロの冒頭でわずかなミス。

 第3楽章、テンポは若干遅めだが、一転してルイージらしいきびきびした音楽に。フレーズの刻み方に鋭さが増してくる。特に219以降の息長いクレッシェンドでは、終盤で放物線状に緊張を高める彼らしい音楽づくりがようやく現れる。トリオは速めのテンポで進み、終わると間髪入れずスケルツォに戻る。

 第4楽章、冒頭の低弦の刻みは明確だが滑らか。遅めのテンポで始まり、最初の頂点に向けたクレッシェンドもティンパニが加わる39以降でぐんとギアが上がる。43以降のユニゾンは豊かな響きだが強引さはない。その後さらにテンポを落としてじっくり盛り上げてゆき、第1楽章の主題が回帰する79以降で急に速くなって収まる。
 93以降の第2主題は標準的なテンポで進み、155以降の全奏は力強い響き。それが収まった183以降は再びテンポが落ち、203以降は丁寧な音楽づくりが復活。それが頂点に達する237以降の金管合奏は朗々たる響きだが、245以降の弦楽合奏はかつてのルイージらしい硬質の響き。その後は比較的柔らかな音楽が続いてゆき、特に383以降のユニゾンで始まるくだりは、徐々に緊張を高めながらもアクセントよりも丸い響きを保つことが優先され、頂点の411の3連符の最後は、ふわっと宙に弾けるように終わる。
 477以降の最後のクライマックスは奇をてらうことなく着実に盛り上がり、最後は充実した響きで閉じられる。しばし沈黙。聴衆にブラヴォー。

 かつてのルイージのような、強引に根こそぎ持っていくような音楽づくりがないわけではないが、とにかくこの日は全てのパートの大事なフレーズに細かく指示を出して、丁寧に大事に、最後の響きが消えるまで神経を行き渡らせるような指揮ぶりが印象に残る。だから、フレーズの終わらせ方が実に美しく、音楽の流れがせき止められるような場面が全くない。もともとスケールの大きな演奏を聴かせる指揮者ではあったが、細部を磨き上げる技巧が向上して、さらに一皮むけた感じ。最近少し力任せになりがちに聴こえることもあったN響の響きを一変させるかもしれない。
 その一方で「ブルックナー1曲では物足りない、などと言わせない」と言わんばかりの、この曲に込めるエネルギーの凄まじさも伝わってくる。

 この日の団員たちはとにかくルイージが無事指揮台に立てたことを祝いたかったらしく、団員たちを立たせて拍手に一礼する彼が向き直ると、団員たちは座って彼に喝采を送り、早々に退場し始める。ルイージはそのまま残って客席の拍手に応え、団員たちがほぼ退場したところでようやく彼も退場。しかし、それで聴衆が満足するはずもなく、2度呼び出されてようやく終演。
 待ちに待ったルイージの、今後の指揮ぶりも楽しみである。

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