ヴァイグレ指揮読響
○2021年8月28日(土)14:00〜15:50
○東京芸術劇場
○3階I列44番(3階最後列から3列目中央やや上手寄り)
○モーツァルト「フィガロの結婚」序曲
(10-8-6-4-3)
 ドヴォルザーク「ヴァイオリン協奏曲イ短調」Op53(V=戸澤采紀)(12-10-8-6-4)

 ベートーヴェン「交響曲第5番ハ短調」Op67(運命)(約32分、第1楽章、第4楽章提示部繰り返し)
 (12-10-10-8-6、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVaの後方)(コンマス=長原)

ギリギリまで疾走するベートーヴェン

 7月に3つのプログラムを振ったヴァイグレが一旦帰国し、8月に再来日、14日の隔離期間を経て2つのプログラムに登場。23日の定期演奏会は行けなかったが、次のマチネに駆け付ける。通常なら完売間違いなしなのだが、緊急事態宣言延長のため観客数5割を超えたところでチケット販売も中止。実際の客の入りは7割程度か。

 今回ヴァイグレは燕尾服姿、棒を持って登場。
「フィガロの結婚」序曲、さらりと流しているようで、小さなクレッシェンドを挟んでみたり、一瞬短調になる箇所で雰囲気を変えてみたり、細かな工夫が伝わってくる。ウォーミングアップと呼ぶのが憚られる演奏。

 ドヴォルザークのソリスト、戸澤采紀は2016年の日本音楽コンクールで最年少(当時15歳)優勝を果たして以降、注目されている若手。楽器は英国のベアーズ国際ヴァイオリン協会から貸与された「マッテオ・ゴフリラー」だそうだ。
 第1楽章、引き締まったオケの序奏に続く最初のソロはいきなり重音のメロディだが、オケに負けない響きでしっかり伝わってくる。節回しにも素朴な雰囲気がよく出ていている。速いパッセージになっても、音楽の落ち着いた流れが失われない。55小節目以降ソロにはほとんど休みがないが、216の頂点に至るまで緊張感を途切れさせることなく盛り上げてゆく。
 切れ目なく第2楽章へ。子供の頃どこかで聴いたような懐かしさのこもったメロディを丁寧に紡いでゆく。フレーズの捉え方が大きいので、安心して響きに身を委ねられる。41以降は一転してロマ風の激しい曲調に。
 第3楽章、イ長調の快活なメロディになるが、スタッカートが控え目なため、レガートだがあまり弾む感じにならないのが惜しい。
 チェロ協奏曲の方が有名なドヴォルザークだが、ヴァイオリン協奏曲も捨てたものではない。楽器の特性を活かして豊かな響きを前面に出し、エキゾチズムや民謡風の親近感を強調。この曲の魅力を伝えようと、戸澤がこだわって表現しているのがよく伝わってくる。

「運命」の弦楽器の編成に驚く。Vは12型だがVa以下は14型の編成。つまり、中低音を重視しようということらしい。
 第1楽章冒頭から快速テンポ。フェルマータも短いだけでなく、1回目(2小節目)と2回目(4〜5小節目)の持続音の長さがほとんど変わらないどころか、普通は1小節分長いはずの2回目の方が短く聴こえるくらい。軽く振っているが、音楽は緊張感をもってどんどん進んでゆく。
 展開部冒頭、125のHrもアクセントでなく4つの持続したffとして響く。158以降pを保ち、166から一気にクレッシェンド。
 ずっと続いてきた緊張が、268のObソロで一瞬ほぐれる。
 終盤の423以降、Vのメロディに対してティンパニの8分音符4つと4分音符のフレーズを目立たせる。
 第2楽章は淡々と進む。しかし、VaとVcが3回目にメロディを提示する98以降、Vのピツィカートを目立たせ、106以降は1Vのアルコ((弓で弾く)のフレーズを目立たせる。その後もどんどん前に進むが、終盤226〜228にかけてテンポを落とし、空気を落ち着かせてから最後の頂点へ。

 第3楽章、ここももったいぶることなくインテンポで始まり、19以降Hrが力強く、かつレガートで主題を提示。
 トリオの低弦のメロディが疾走。これがやりたくて奏者を増やしたのだろう。重戦車が一斉に突撃するような迫力。
 第4楽章、輝かしい響きだが、速いテンポに変わりはない。木管とHrがメロディを吹く26〜27など、つい緩みがちになるのだが、緊張の糸が保たれている。力づくではないがエネルギーみなぎる響きを保ち、上滑りにならないぎりぎりのところで疾走を続ける。

 カーテンコールでは最前列で何かメッセージを掲げた客に手を挙げて応える。団員解散後今日もヴァイグレへの一般参賀。
 ヴァイグレが次に登場するのは来年2月。演奏会形式の「エレクトラ」などが予定されている。この頃には、今度こそコロナが収まっていることを切に願う。

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