ヴァイグレ指揮読響
○2021年7月11日(日)14:00〜15:55
○東京芸術劇場
○3階K列42番(3階最後列やや上手寄り)
○ロッシーニ「セヴィリヤの理髪師」序曲
(12-10-8-6-4)
 藤倉大「箏(こと)協奏曲」(箏=LEO)
 ブラームス「交響曲第2番二長調」(約46分、第1楽章提示部繰り返し)
 (14-12-10-8-6、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVaの後方)(コンマス=日下)

箏とオケの協奏を楽しむ

 もともとヴァイグレは6月の3つのプログラムを振る予定だったが、7月に予定していた指揮者が来日できなくなったため、前日とこの日も指揮することに。ファンとしては嬉しい限り。7割程度の入り。
 この日の第2Vは前から2-4-3-3のフォーメーション。

「セヴィリヤ」序曲、冒頭は軽く「ジャジャーン」といった感じ。その後の木管のCis−Gis−Aのフレーズとこれに応える弦の同じ音型のフレーズで表情を変えるところなど、小憎らしい。ロッシーニ・クレッシェンドでは速度も少しずつ上げていく。かと思うと、ホ短調の主題が戻ってくるところで、1VなどがH−H−H−C−Hを2つずつ繰り返すところ、通常は1つ目より2つ目を小さくするのだが、この場の2回目では2つ目を大きく弾かせるなど、おや?と思わせる解釈がいくつもあって楽しい。やはり最初の曲から気が抜けない。

 2曲目は当初予定していたソリストが来日できなくなったため、藤倉大の箏協奏曲に変更に。実はこの曲、4月に初演を予定していたが緊急事態宣言発出で演奏会が中止になり、無観客での収録となった。したがって、昨日初めて聴衆の前で演奏されたことになる。タイミングよく6月の「読響プレミア」でも放映されたので、予習ができた。
 箏をサントリーホールや東京芸術劇場でソロで演奏して果たして音が届くのか、少々心配したが、高性能?マイクのおかげで、最後列でも問題なく届く。
 冒頭、高音域をぐるぐる回るような箏のフレーズ(スクイ爪と呼ばれる、右手親指が弦を横に払うような動きが混ざる)が繰り返され、オケはピツィカートや短い音で応える。途中からは弦がコル・レーニョで応える。このやり取りが行き付くところまで行ってぷつんと切れると、1回目のカデンツァ。
 続いてFlなどがフラッターなどで震える音から下降していくフレーズが箏に絡んでゆく。まるで急降下爆撃機が一気に飛来してくるようで、少しゾッとする。それがひと段落すると、静かな雰囲気になり、2回目のカデンツァ。徐々に低音域も使われるようになる。
 その後箏のソロにVが応える。初演時の弦は対抗配置だったので、箏にステージ双方から応えるような感じだったが、この日はソロの後から1Vと2Vが包みこむような感じに。
 その後この曲で唯一、オケだけで強奏するところがあるが、すぐに収まって箏のソロへ。3回目のカデンツァ。音域を広く使うが、だんだん勢いがなくなってゆく。そこに管楽器が息の音だけで応える。最後は高音部のトレモロ風のフレーズが消え入るようにして終わる。
 約20分の曲だが、箏はほとんど休みがない。もちろん技巧的な部分はたくさんあるが、全て伝統的な奏法で作曲されているせいか、不自然な音が全くない。ひょっとしたら江戸時代の名手がこんな曲を作っていたかもしれない、と思わせるほど。LEOも自分の演奏と言うより、楽器の魅力を最大限に引き出し、伝えようとしているのがわかる。
 これに対し、オケの演奏は初演の映像(鈴木優人指揮)とは全く対照的。あくまで箏を立てて控え目に演奏させた鈴木に対し、ヴァイグレは文字通り「協奏」曲として演奏させていた。14型のオケを鳴らすときは鳴らし、ときに容赦なく箏に対して突っ込みを入れ、心地良い緊張感を生み出していた。

 ブラ2第1楽章、ほぼ標準的テンポ。冒頭から1小節ずつスラーがかかっているのを忠実に守らせる。つまりVcのD−Cis−D、そしてHrのFis−A、次にA−D、そしてE−Fis−Eと、1小節ずつの塊で聴こえてくる。そうすることで、17小節目以降の1VとVaの長いスラーが際立つ。
 82以降ややテンポを落とす。VaとVcの第2主題、84のノン・レガート(スラー・スタッカート)も忠実に表現。盛り上がって全奏になる118以降少しだけテンポを上げ、頂点に達する134以降、シンコペーションはあまり強調せず、メロディ・パートを前へ前へ進ませる。
 ブラ1でもそうだったが、繰り返し前の「カッコ1」が久々に聴けて嬉しい。
 展開部で頂点に達する246以降などでは分厚い響き。
 
 第2楽章、やや速め。冒頭のVcのメロディはあまり細かい表情を付けずに前に進ませる。穏やかな雰囲気を維持しながらも淡々と進んでいくが、嬰ヘ長調がロ短調に転じる49以降、転調を繰り返しながら緊張を高めてゆく。しかし、冒頭のメロディが回帰すると、また元の雰囲気に戻る。
 第3楽章、ほぼ標準的テンポ。Vcのピツィカートを弾ませながら木管のアンサンブルを浮き立たせる。弦が主導する33以降は少し速めで、よそ見させずに疾走させる。嬰ヘ長調で冒頭の主題が再現する194以降、走り疲れて一休みという感じ。
 第4楽章、ほぼ標準的テンポ。冒頭は文字通りp、23以降も文字通りf。あまり極端に強弱のコントラストは付けない。それより音楽の流れを重視。例えば、32以降の管楽器のsfはさほど強調せず、Vをスムーズに進ませる。
 78以降の1VとVaの第2主題もmpを守り、必要以上に目立たない。114以降の全奏もfだがまだ抑え気味で、118に加わるHrもさほど強調しない。
 第2主題が回帰する281以降はVとVaがfで弾くが、ここも響きは厚くしてもゴリゴリ唸らせる感じはない。
 終盤に向かう353以降でようやく息長いクレッシェンドが始まる。これまで比較的冷静に振っていたヴァイグレがここからだんだんエネルギーを発散してゆき、そのまま一気にクライマックスへ。最後の音のフェルマータは短め。

 今日も一般参賀。これでヴァイグレは一旦帰国するが、8月末の演奏会のために再来日し、三度14日間の隔離期間を過ごすことが発表されている。オリンピック期間を避けたようにも見えるが、本当に律儀なことだと思う。明日から東京都は再び緊急事態宣言発出のため、以後の演奏会のチケットは今日いっぱいで停止になる。ヴァイグレがステージに戻ってくる頃には緊急事態宣言が予定通り解除され、今度こそ心置きなく音楽を聴ける状況になることを切に願う。

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