ヴァイグレ指揮読響
○2021年6月15日(火)19:00〜21:05
○サントリーホール
○2階RA6列10番(2階舞台上手側最後列)
○ヴェルディ「運命の力」序曲
 メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲ホ短調」Op64(V=アラベラ・美歩・シュタインバッハー)(約30分)
(12-10-8-6-4)
 ブラームス「交響曲第1番ハ短調」Op68(約49分、第1楽章提示部繰り返し)
 (14-12-10-8-6、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVaの後方)(コンマス=林)

おかえりなさい、マエストロ

 読響常任指揮者のヴァイグレが1月以来の再来日。最近一部大物アーティストは3日間の隔離措置で済ませているようだが、今回も14日間きちんと守った上でリハーサルを開始したそうだ。
 まだ緊急事態宣言中だが、8割程度の入り。

 最初の曲に「運命の力」を選ぶとは、なかなか意味深長。正にここ1年以上、みなコロナに運命を翻弄されているわけだが、冒頭の金管のファンファーレは力強いが圧迫感はない。Tpを少しだけ目立たせている。テンポはほとんど揺らさず、木管による第4幕二重唱のテーマや弦の「祈りの動機」などをきっちり響かせながら、整然としたアンサンブル。Clソロ(金子)がよく歌う。終演後指揮者が立たせる。ヴェルディに欠かせないチンバッソの響きも心地良い。

 メンデルスゾーン、シュタインバッハーはプルシアンブルーのロングドレス姿。第1楽章、遅めのテンポ。冒頭のフレージングが少しぎこちなかったが、10小節目のDisを抑え目に。その後は丁寧に歌ってゆく。木管が第2主題を提示する131以降、低音のGを木管奏者の方に向けて響かせる。
 展開部が落ち着いた後の263以降、さらにテンポを落とし、内省的な表現に。カデンツァの後は再び丁寧なフレージングに。
 第2楽章はやや速め。8分の6の2拍子感を意識しながら、後へ引きずることなくスムーズに進んでゆく。重音が続く55以降は気品のある響き。
 第3楽章、ほぼ標準的テンポ。17以降の上昇音型、1回目と2回目は軽めに、3回目は最後の音を勢いを付けて響かせる。ソロが第2主題を提示する78以降、指揮者の動きに合わせて大きく左右に揺れるようなフレージング。その後は快調に進み、終盤233〜234のEの最高音をピンっと跳ね上げるように切る。
 線は細いが、細いなりに私の席まで音は届く。決して技巧をひけらかさず、親しい者同士が集まったサロンでリラックスして弾いている感じ。単純なレガートでなく、独特のフレージングで民謡風の素朴な雰囲気を醸し出す。メンデルスゾーンはやはりドイツ音楽だと思わせる。派手な動きはほとんどなく、腰まで伸びたストレートヘアがわずかに揺れる一方で、割れたスカートの裾から見え隠れする足がたまらない(←アホ)。

 ブラ1、客席に一礼後振り向きざま振り始める。第1楽章8小節目、8分の9拍子の4拍目で一旦弱めてからすぐクレッシェンドをかけて9冒頭のffへ。
 145以降少しテンポを落とす。157〜158の休符を長めに取る(繰り返し後と再現部の432〜433はイン・テンポ)。
 終盤に向けて緊張が高まる476〜477にかけてはインテンポで進める。
 第2楽章、17以降と38以降のObソロ(金子)が整ったフレージングで美しい。55の3拍目、上がりきったVと下がりきったVa以下のハーモニーも充実。林のソロも輝かしい響き。
 第3楽章、ピツィカートで刻むVcに対して踊るような仕草でアンサンブルを先導させる。
 第4楽章、6以降の弦のピツィカートはアダージョのまま、7にストリンジェンド(だんだん速く)の指示があるがそのままインテンポで進み、10〜12にかけて少し速くする程度。16以降も同様。62以降の第1主題は悠揚迫らぬ雰囲気。
 第1主題に戻る直前の185〜186でかなりテンポを落とす。その後は息つく暇なく突き進み、268以降木管などがB−A−Bのフレーズを挟むところでもインテンポ。286の全奏の手前もほとんど休符を入れないくらいでなだれ込む。
 392以降のピウ・アレグロでもほんの少し速める程度。408以降の「クララのテーマ」では、414〜417の2つの和音を長めに響かせる。

 この日のヴァイグレは終始棒を持たず、拍子を刻むより各曲の曲想を際立たせることに重きを置いているように見える。必要以上に細工せず、大きな音楽のうねりを生み出す。そのうねりに安心して身を任せる。

 団員たちが解散した後、ヴァイグレの一般参賀。
 この演奏会の直前に、7月別の指揮者が振る予定だった演奏会も担当することが発表された。8月末に元々予定されていたものもあるから、夏はずっと日本滞在だろう。ヴァイグレの音楽創りをたっぷり楽しめそうだ。

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