ヴァイグレ指揮読響(2回公演の初日)
○2021年1月9日(土)14:00〜15:55
○東京芸術劇場
○2階D列4番(2階下手側4列目)
○R.シュトラウス「ドン・ファン」Op20
 ブルッフ「ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調」Op25(V=金川真弓)
(12-10-8-6-4)
 ドヴォルザーク「交響曲第9番ホ短調」Op95(新世界より)(約44分、繰り返し全て実施)
 (14-12-10-8-6、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVaの後方)(コンマス=伝田)

重苦しい空気を吹き飛ばすドン・ファン

 年明けから新型コロナウイルスは収まるどころか勢いを増し、とうとう首都圏は2度目の緊急事態宣言発出という事態に。演奏会も再び会場の半分(または5000人まで)という制限がかかることとなった。この日の公演のように既に売り出された分については適用外とは言うものの、チケットを買っていながら遠慮した人もいることだろう。6割程度の入り。

 ヴァイグレ&読響による今年の初演奏は、そんな重苦しい空気を吹き飛ばすような「ドン・ファン」から始まる。冒頭から引き締まった響きが地下から天空へ昇ってゆく。久々に聴く14型の弦が分厚く鳴る。怖いもの知らずのドン・ファンだが、急に周りの空気が穏やかになり、コンマスのソロが奏でる女性が現れると、我がものにせんと追い始める。しかし、いくら追っても彼女は得られず、苦悩に満ちた響きに。この後気を取り直して冒険を再開。Hrが奏でる「尊大なドン・ファンの主題」が力強い。結局彼の望みはかなわず、最後はあっけなく事切れる。
 アンサンブルがまとまっているのはもちろんだが、その上にシュトラウス特有の官能的な響きやフレーズ感が自然と醸し出されてくる。

 ブルッフのソロは、2018年ロン・ティボー国際音楽コンクール2位に入賞して注目され始めた金川。第1楽章冒頭のソロから、静かな中にもこだわりを感じる歌い回し。第1主題を奏でる直前、Vaが下降音型を浮き立たせてお膳立て。その後もレガート重視の弾きぶりが心地良い。そんなソロをオケは控え目にサポートしていたが、ソロが終わるUn poco piu vivoから俄然前に出てくる。重苦しいハーモニーの中に闇を秘めた、これぞドイツ・ロマン派の響き。
 カデンツァから変ホ長調へ転じると、今度は甘い響きに包まれる。第2楽章のソロは温かく優しさに満ちている。
 第3楽章、冒頭からしばしば出てくる8分休符をほとんど無視し、レガート主体で弾いてゆく。その一方でひと段落する34〜35小節のD−E−Dの音型はたっぷり響かせる。オケも雲が晴れたような明るい響きで応える。
 演奏が素晴らしいのはもちろんだが、舞台姿が堂々としていて、大きく見える。これからの活躍が楽しみ。

「新世界」第1楽章、ほぼ標準的テンポ。4小節目のHrをfzで吹かせた後あまり小さくしない。91以降の第2主題から少しテンポを落とす。164から始まるクレッシェンドは、167で音量を下げてから、改めて盛り上げる。304〜307の弦はレガート。コーダに入る400から少しテンポを上げる。
 第2楽章、やや速めのテンポ。7以降のEHrソロは無駄のない響きで淡々と進む。嬰ハ短調に転じる46以降も、スムーズな流れ。
 弦2人ずつのアンサンブルとなる105以降、107〜109の4分休符のフェルマータをたっぷり取る。

 第3楽章、ほぼ標準的テンポ。ホ短調に転じる68以降、あまり牧歌的雰囲気はなく、きっちりしたアンサンブル。109以降の息長いクレッシェンドでも119で落としてから再度盛り上げる。
 第4楽章もほぼ標準的テンポ。26以降低弦のフレーズを強調。34以降の1Vの主題もレガート。85以降のクレッシェンドも90で落としてから再クレッシェンド。184以降はVa以下の弦をメロディとして前面に出す。200以降のVのfzと下降音型はさらりと。227以降のFgソロをきっちり聴かせる。最後の盛り上がりに向かう前の271〜274のHrのアンサンブルも見事。
 最後の管による和音はあまりディミニエンドしないで終わる。直後に数人拍手するも一旦消える。

 ヴァイグレは国民学派の作風を否定するわけではないが、純粋な音の建築として組み立てていく方を重視。限界ぎりぎりの緊張を少し緩めた感じのテンポ感とレガート重視、そして重心の低い響きを貫き、読響も十二分の演奏で応える。
 

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