ベルカント オペラ フェスティバル イン ジャパン2020特別コンサート
○2020年12月6日(日)15:00〜16:30
○テアトロ・ジーリオ・ショウワ
○1階14列17番(1階14列目ほぼ中央)
〇ロッシーニ「小荘厳ミサ曲」
○S=迫田美帆、A=松浦麗、T=澤崎一了、B=小野寺光、P=カルメン・サントゥーロ、O=千田寧子
〇園田隆一郎指揮テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ
(8-6-6-5-4)、藤原歌劇団合唱部(30-20)

小さくない「小荘厳ミサ」

 ベルカントオペラフェスティバルは、藤原歌劇団とイタリアのマルティーナ・フランカ市で1975年から開かれているヴァッレ・ディトリア音楽祭が提携して2019年に始まり、今回が3回目である。当初はヴァッカイのオペラ「ジュリエッタとロメオ」の上演が予定されていたが、コロナの影響で2022年3月に延期となり、その代わりというわけでもないが、コロナ終息祈願の意味合いもあって、ロッシーニ最晩年の傑作「小荘厳ミサ曲」を取り上げることとなった。「小」というのは小編成のことで、4人の独唱と8人の合唱、2台のピアノとハルモニウムで初演されたことから来ている。1981年のミラノ・スカラ座が来日したときに演奏され、NHKFMでも放送されたのを覚えているが、90分近くかかる「大曲」である。
 その後ロッシーニ自身が管弦楽伴奏版を書いたが、生前に演奏されることはなかった。先のスカラ座の演奏はピアノとオルガン?によるものであったが、近年管弦楽版による演奏も徐々に行われている。私自身生で聴くのは初めて。
 1席ずつ空けて半数程度の入り。

 ステージ最前にソリストが並び、その後ろにオケ、さらに奥の一段高くなったところに合唱が間隔を空けて並ぶ。前列に女声、後列に男声。ソリストはフェイスガード、管楽器以外のオケのメンバーはマスク姿。
 ホリゾントには曲ごとに内容を連想させる教会の写真や十字架の前で祈る男女を描いたイラストなどが映される。
 最初に「キリエ」が作られ、その後「グロリア」「クレド」を加えて「小さなグロリア・ミサ曲」とされた時期があったためか、「キリエ」「グロリア」だけで全曲の約半分を占める。「グロリア」がソロや重唱など何曲にも分かれているのに比べると、「クレド」以降は曲の規模としては小さい。しかし、普通のミサで終わらないところがロッシーニらしいところで、「クレド」の後にピアノによるフーガ、「宗教的前奏曲」と、「サンクトゥス」の後に「オー・サルタリス」(O Saltaris、おお、救いの犠牲)が付け足されている。

 管弦楽版は、当たり前だが「キリエ」の前奏から充実したハーモニーで、荘厳な教会に招かれて入っていくような気分に。合唱はポリフォニーで始まるが、やがてホモフォニーとなり、その後も両者が交互に現れる。
「グロリア」は一転して明るい音楽で、大きな扉がバーンと開かれる感じ。テノールのソロ「ドミネ・デウス」は、アンドレア・ボチェッリのアルバムでご存じの方が多いかも。澤崎も見事な歌いぶり。続く「クイ・トリス」はソプラノとアルトの二重唱、しんみりした雰囲気に。締めくくりの「クム・サンクト・スピリトゥ」では壮麗なアーメン・コーラスが歌われ、最初の「グローリア」が一瞬回帰した後、再びアーメンで閉じる。
「クレド」は一転して、何事が起こるのか?といった雰囲気。ソプラノのソロ「クルチフィクスス」では、十字架に磔にされたキリスト像が映し出される。
「サンクトゥス」はオルガンの短い前奏の後、アカペラの合唱。音程的に危ない場面もあったが、何とか持ちこたえる。
「アニュス・デイ」はホ短調でずっと進み、どんよりした雲の中をさまよう感じだが、最後の最後でホ長調に転じ、救いと未来への希望を歌い上げて終わる。

 ソリスト4人はいずれも若手だが、スコアに正面から向かい合って歌う姿勢がすばらしい。特に澤崎の自信に満ちた歌いぶりが心に残る。
 合唱は、時折テノールで不揃いの部分が聴かれたが、全体的には充実したハーモニー。
 園田の指揮はあまりアクセントなどは強調せず、音楽の流れを重視。オケも指揮によく応え、響きは豊かになっても初演版の室内楽的雰囲気を維持。特にトロンボーンとチューバの出番が多く、神聖な空気を創り上げるのに大いに貢献。
 ロッシーニの専門家として知られたアルベルト・ゼッダ氏がこの曲について書いた論文の題名が「小さくない小ミサ曲」というそうだが、正にそのタイトル通りの演奏。

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