飯守泰次郎指揮東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
○8月7日(火)19:00〜20:55
○ミューザ川崎シンフォニーホール
○2階RA4列34番(2階舞台上手側4列目2P寄り)
○ワーグナー「タンホイザー」序曲
 ブルックナー「交響曲第4番変ホ長調」(ハース版)(約65分)
(12-10-8-6-5、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)

指揮者とオケの信頼の賜物

 夏のクラシック音楽祭として今やすっかり定着しているフェスタサマーミューザも、今年は新型コロナウイルスの影響が心配されたが、客席数を制限し、ライブ配信とのハイブリッドで開催されている。アロハシャツ姿の作曲家たちが描かれたポスターも楽しいし、久々に生の演奏を披露するN響始め首都圏のオケが勢揃いするのも嬉しい。
 この日はシティ・フィルが桂冠名誉指揮者の飯守泰次郎の指揮で登場。おそらく「コロナ後」初と思われるブルックナーの演奏が聴きたくて足を運ぶ。
 4階席は閉鎖され、3階以下の席も約半分には着席しないよう帯状のカバーがかけられている。

 この日も団員の登場に温かい拍手。
 先日は80歳になって初の指揮だったコバケンを聴いたが、飯守さんも9月末で80歳となる。最近足の手術をされたとかで、ゆっくりしたすり足で登場。
 ワーグナーは飯守さんの代名詞とも言うべき得意レパートリーだが、やや遅めのテンポで冒頭から悠揚迫らぬ雰囲気。しかし、フレージングへのこだわりは強く、メロディパートに対しては細かく表情の指示を出す。

 ブル4第1楽章、静かなトレモロで始まる。テンポはほぼ標準的。最初の全奏51小節目以降のマルカートと59小節目以降のレガートの区別をはっきりつける。かと思うと、次の全奏での122や126における弦の上昇音階を強調するといった個性的解釈も。息長いクレッシェンドの末にたどり着いた165以降の金管のアンサンブルはバランス良く堂々と響く。
 金管がコラールを奏する部分では、Tpなどのテーマに応える311〜313、319〜321のHrパートを前に出さない。その代わり、第1主題に戻る直前の324でクレッシェンドをかける。

 第2楽章、少し速めのテンポで淡々と進む。51以降のVaがメロディを奏でる部分では、ほとんどVaの方を向かず、まるでVとVcのピツィカートがメロディであるかのような指揮ぶり。2回目の155以降はかなりVaの方を向いて指揮。
 曲想が変わる部分でもほとんど間を入れずに続けてゆく。

 第3楽章はほぼ標準的テンポ。121〜122のClソロでテンポを落とさない。143以降のストリンジェンドもほとんどかけず、インテンポで進む。
 トリオでは、ハース版だとFlとClがメロディを吹くのだが、なぜかObも加わる。

 第4楽章、ppだが低弦のしっかりした足取りで始まる。やや遅めか。全奏で主題の3音をユニゾンで提示した後の46冒頭のティンパニが不明瞭。最初の頂点となる76での指揮が後打ちのように見えたのだが、4拍目から全奏になることを考えると、裏拍のつもりで振ったのかもしれない。
 156以降のティンパニは6連符でなくトレモロ。
 237以降の金管と弦のやり取りは対等に渡り合う。しかし、次の全奏が続いた後に金管の多くが休止する337では急に響きが薄くなる。
 終盤のクライマックスは堅実に盛り上がり、最後の音を空の彼方まで送り出すような仕草で振り終える。

 プレトークは聞けなかったのだが、聞いた人の話では、コンマスの戸澤さんが「わかりにくい指揮から生み出される音楽が飯守さんの魅力」といった趣旨の発言をされたらしい。確かに意図不明な動きで統率が緩みかけるように見える箇所もあるのだが、アンサンブル自体が崩れるわけではないので、団員たちは全く動じることなく演奏しているのがよくわかる。オケと指揮者の信頼関係の賜物だろう。
 むしろ12型の弦でブルックナーが成り立つかの方が心配だった。もう少し弦に厚みがあった方がいい場面も何カ所かあったが、演奏全体のスケール感にはほとんど影響がない。Hr首席に細かいミスが目立ったのが残念だが、金管全体の響きは充実していた。

 団員が解散しても拍手は鳴りやまず、飯守さんが1人で呼び出される。まずは健在ぶりをアピールできたと言っていいだろう。

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