小林研一郎指揮読売日本交響楽団
○7月21日(火)19:00〜20:55
○サントリーホール
○2階RB5列16番(2階舞台上手側、最後列)
○モーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調」K.219(トルコ風)(6-6-4-3-2)
+バッハ「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番」BWV1002より「サラバンド」(以上V=三浦文彰)
 ベートーヴェン「交響曲第7番イ長調」Op92(約37分、第3楽章23小節まで、第4楽章22小節まで、234〜242小節の繰り返しのみ実施)
+「ダニー・ボーイ」
(10-8-6-4-3、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)

思わぬ傘寿祝い

 「コロナ後」の読響は7月に予定していた定期公演に代わって特別演奏会を開いているが、この日は「静かに、熱狂を待つ」と題してコバケンが登場。入場制限でほぼ半分の入り。

 この日も団員たちが入場すると客席から温かい拍手。入場時にはみなマスクをしているが、着席するとほぼ全員外す。弦楽器の譜面台は1人1台でいつもより少し間隔を空けている。管楽器も同様。日下、長原のダブル・コンマス。
 モーツァルトの「トルコ風」、三浦に続いてコバケンはマスク姿で登場。指揮台も指揮棒もなし。
 第1楽章、室内楽のような、こぢんまりした中にも緊張感のある響き。三浦のソロは40小節からのアダージョも、46以降のアレグロ・プレストも、淡々と弾き進める。カデンツァは重音が多く、彼のこだわりが垣間見える。
 第2楽章も落ち着いた雰囲気。49のような高音で素早く滑り落ちてくるフレーズが心地よい。カデンツァは短めだがここでも重音が目立つ。
 第3楽章、ソロが先行して始まることもあってか、伸び伸びとした弾きぶりに。最初の8小節をオケ側はコンミス、第2V首席、Va首席の3人だけで演奏。さらに親密な雰囲気に。
 イ短調のトルコ行進曲になる132以降、ソロがより生き生きとした表情に。137の装飾音付フレーズでためを作ったり、173以降の1Vの半音階に身体を傾けて反応したり、ノリが良くなってきた。
 終盤の283以降はもうすぐ曲の終わるのを惜しむような雰囲気も。
 あからさまではないが、音楽の喜びがじわじわとにじみ出てくる演奏。
 アンコールのバッハも1音1音かみしめながら響かせる。低音域に深みが加われば、さらに表現の幅が広がるだろう。

 後半も団員たちに入場に拍手。全員席に着いたと思ったら、第2Vが1席空いている。あれっと思う間もなく、「遅刻」団員が登場し、もう一度拍手。団員もそれに応えて貴族風のお辞儀で笑わせる。
 ベト7では指揮台も置かれ、コバケンもいつもの棒を持って登場。
 第1楽章、いつもの大きな鼻息でアインザッツ。10型とは思えない重厚な響き。ゆったりしたテンポ。序奏だけで永遠に続きそうな雰囲気。これぞコバケン。
 主部に入っても遅めのテンポ。67以降の木管のメロディをホールの奥まで飛ばすように指示。88以降の全奏になっても足取りは変わらない。
 第2楽章も遅め。3以降のVa以下の主題、スタッカートは無視、テヌートと言うより2小節ごとにレガートでつなげて弾かせる。
 183以降息長く盛り上げていくところもさすがの迫力。
 第3楽章もやや遅め。3以降頻繁に登場するスタッカートの鋭さよりも、着実に音を積み重ねることに重点を置く。
 トリオも落ち着いた雰囲気。主部に戻る前の227以降の部分も、いつまでも続きそうな感じ。
 第3楽章が終わるとアタッカで第4楽章へ。終始遅めのテンポなのに、音楽のエネルギーがどんどんたまってゆく。低弦の「タータ」の音型が、手押しポンプで燃料をくみ上げているみたい。拍手のフライング数名。
 終盤438以降のTpに向かって、再び遠くへ飛ばすよう指示。最後は文字通り花火のように音楽が弾ける。

 トレードマークのうなりこそ封印するも、つま先を指揮台の前に飛び出させながら、両足を広げて踏ん張ったり(やくみつる氏の「遠藤ペンタゴン」に倣えば「コバケンペンタゴン」?)、背中を反らせたり(「イナバウアー」ならぬ「コババウアー」?)、指示に応えたパートにOKサインを出したり、奏者の内面から音楽を引き出そうとする姿に変わりはない。
 万雷の拍手を止めてコバケンが話し始める。コロナの影響で、80歳記念コンサートを含む約40公演がキャンセルになったそうだ。ということは、このコンサートが80歳になって初めての本番ということになる。ステージから小走りで出入りする姿に変わりはないが、ここまで筋力を維持するのは大変だったのではないか。その意味ではコバケン健在を見事にアピール。団員たち退場後も呼び出されて拍手に応える。

 なお、この日も終演後ホールの指示により時差退場のはずが、勝手に席を立つ客が目立つ。今後の演奏会運営に課題を残した。

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