大野和士指揮都響
○2019年9月4日(水)19:00〜21:05
○サントリーホール
○2階C11列19番(2階最後方から2列目ほぼ中央)
○ベルク「ヴァイオリン協奏曲」(ある天使の想い出のために)(V=ヴェロニカ・エーベルレ)(14-12-10-8-6)
+プロコフィエフ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」より第2楽章
ブルックナー
「交響曲第9番ニ短調」(約57分)
 (16-14-12-10-8、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)(コンマス=四方恭子)

生気に満ち溢れたブルックナー

 都響の2019−2020年シーズンは、1986〜1995年に音楽監督(87年からは首席指揮者)を務めた若杉弘の没後10年を記念する演奏会で幕を開ける。都響の歴史だけでなく我が国のオペラの発展にも力を尽くした若杉が亡くなってもう10年になるのかと、軽いショックを受ける。ベルクとブルックナーという、彼が繰り返し取り上げて日本の聴衆の耳に馴染ませてきた作曲家の組合せは、彼の功績を思い起こすのに正にふさわしいプログラム。ほぼ満席の入り。

 ベルクのヴァイオリン協奏曲、第1楽章冒頭の5度を中心とする上昇と下降のテーマがVソロとオケとの間でやりとりされる。いずれもくっきりと壁に彫刻を刻み込むように聴かせる。15小節以降のソロ、伸びやかに昇ったかと思うと一転してEの低音となり、マノンの人生の行く末を暗示する。
 舞曲風になる104以降は軽快に進む。終盤もテンポは落とさず、最後の音も短めに切る。
 第2楽章、オケが病気を暗示する不吉な和音を容赦なく響かせる。それにソロが必死に抵抗する。
 長い戦いの後、136からソロがバッハのカンタータのテーマを奏でる。それをClが受け継ぐ。何度聴いても癒される箇所だが、この日はまだどこか緊張が解けない雰囲気。この楽章も最後の音は短めで、さらりと曲を閉じる。

 エーベルレは、マノンが生きていたらこんな感じだったのかなあと思わせる可憐な容姿。緊張感に満ちた音色で芯の強さを伝える一方、ホールを巧く響かせ、祝福されながら天に昇っていく雰囲気も見事に表現。
 アンコールはバッハかと思ったら、意外にもプロコフィエフ。しかし、民謡風のフレーズが出てきて、ベルクとの意外な共通性が感じられて面白かった。

 ブル9第1楽章、予想通り速いテンポ。63の最初の全奏に至るまでほとんどテンポを変えない。97以降の第2主題も先へ先へと進む。129以降のrit.や130のGPもほとんどなしで、第2主題に戻る。Vがpで高音に跳ぶ194の4拍目も音楽の流れは止めない。276のGPも短め。続く木管が旋律を担当する277以降、弦のピツィカートをくっきり響かせる。303以降、Vの旋律に応えるVaのフレーズをたっぷり聴かせる。次の全奏へと盛り上げる途中の325以降、緊張は高めるがテンポは上げない。
 次の全奏が一段落した後の400以降の弦の息長いアンサンブルも、細心の注意を払って始まるが、テンポに緩みはない。ffからppに変わる404では極端に音量を落とさない。
 次の全奏に続く503〜504のHrのフレーズもことさら強調せず、間を置かずに次の木管の合奏へつなげる。最後の音はテヌート気味にしっかり延ばして終わる。

 第2楽章、引き続き速いテンポでどんどん進む。42以降の主旋律の全奏、重過ぎないがせわしくもない、といった感じ。中間部のObソロで、122の4拍目から音量を落とす。147以降、Vと木管がだんだんテンポを上げながら絡んでいく部分、弦の刻みが最後まで明瞭。
 トリオ、全体で盛り上がって弦のロマンティックなアンサンブルに移行する53以降もテンポを変えない。

 第3楽章、ここも速めのテンポだが、冒頭の1Vのフレーズはたっぷり響かせる。29以降のWTbの合奏、楽譜上はmfだがかなり抑えて吹かせる。
 93以降のVa以下の弦、重苦しい感じはなく、むしろきびきびと弾かせる。105以降の低弦から始まる息長い登り坂も力強く進んでいく。128のGPも短め。155の弦の合奏は輝かしいだけでなく大らかな広がりを感じる。
 終盤のクライマックスに向かう173以降も揺るぎない推進力。199以降の全奏にも不思議と破滅的な雰囲気はない。
 236以降、WTbはppでHrはpだが、いずれもかなり強めに響かせたまま終わる。

 2曲とも、指揮者が手を下ろすまで沈黙。聴衆にブラヴォー。

 フレーズの隅々にまで神経の通った、大野独特のフレージングが徹底されると、ブルックナーの9番でさえ、死を連想させる雰囲気は一切消え去り、むしろ生気に満ち溢れた音楽になるから面白い。「明日も元気に生きていこうぜ!」と背中を押されたような気分。

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