ネーメ・ヤルヴィ指揮N響(2回公演の初日)
○2019年5月22日(水)19:00〜20:50
○サントリーホール
○2階P6列23番(2階ステージ裏最後列ほぼ中央)
○イベール「モーツァルトへのオマージュ」
(14-12-10-8-6)、フランク「交響曲ニ短調」(約30分)
 サン・サーンス「交響曲第3番ハ短調」Op78(オルガン付)(O=鈴木優人)(約30分)
(16-14-12-10-8、下手から1V-2V-Vc-Va,CbはVc後方)
(首席奏者:コンマス=篠崎、第2V=田中、Va=佐々木、Vc=藤森、Cb=吉田、Fl=神田、Ob=青山、Cl=伊藤、Fg=宇賀神、Hr=今井、Tp=菊本、Tb=新田、ティンパニ=植松)

胸がすくような爽快感

 N響5月の定期にはこのところネーメ・ヤルヴィが登場している。今年は2つのプログラムを振る。NHKホールでのCプロには行けなかったが、何とかBプロにすべり込む。ほぼ満席。

 イベールの作品はタイトルから推察されるように、1956年のモーツァルト生誕200年を記念して作曲されたもの。ロンド形式で、最初の主題は弦が忙しく駆け回る。その一方で挿入部では管楽器を中心に軽やかで楽しげな曲風。5分程度の曲で、胃にもたれないオードブルという感じ。

 何せこの日はメインディッシュに交響曲を2つも並べるという贅沢なプログラム。

 まずはフランク。第1楽章、普通なら暗い音色で重厚に始まる低弦の主題が、快速テンポで前に前に進む。「レント(Lento、ゆっくりと)」がこのテンポで、29小節目からのアレグロ・ノン・トロッポはさらに速くなる。ボーっと聴いているとチコちゃんに叱られる、じゃなかった、どんどん置いて行かれる。ロマンスカーに乗って窓際の景色が目の前を飛んでゆくのを眺めるような感じ。39〜40の弦の<>も、うねる感じでなく鋭く切り立つ感じ。97〜98のpoco rall.(少し速度を落として)もイン・テンポ。前半の頂点になる129以降、1小節ごとのレガートでなく、4小節をひとまとまりという感じで演奏させている。
 全奏で最初の主題に戻る331以降もブレーキをかけずに突き進む。すると336以降のG−FED−のフレーズが各パートから畳みかけるように迫ってくる。
 コーダに向かう手前の473以降で少しテンポが落ち着くが、485以降元のテンポに戻り、あとは一気に最後の頂点へ。
 第2楽章もテンポは速め。冒頭の弦とハープの序奏は緊張感ある響き。16以降にEHrが主題を奏でるが、24以降のVaパートとのアンサンブルに聴き惚れる。48以降の1Vのメロディも繊細な響き。
 変ホ長調に転調する185以降、付点のリズムが快速テンポに乗って、メリーゴーランドで風を切っているような気分。
 コーダにつながる手前の221以降で少しだけテンポを落とし、225の4分休符を少しだけ長めに取る。
 第3楽章もテンポは速いが、冒頭の弦のトレモロにゴリゴリした感じはない。7以降のVcの第1主題もスイスイ前に進む。ここでも4小節が4拍子の1小節にまとめられているような感覚。
 その後メロディを担当する箇所でなくてもしばしばVcを強調。
 金管が第2主題を提示する72以降も同様だが、少しテンポを落とす。
 第1主題に戻る140以降、快速テンポながら息の長い昇りが続き、187以降響きが弾ける。丘を一息に駆け上がって頂上に立つと、一気に視界が開けた感じ。
 
 サン・サーンス、第1部冒頭から緊張感ある響き。9小節目以降のCbで拍頭の8分休符をしっかり意識させる。
 12以降のアレグロ・モデラートも速いが、そのテンポで16分音符の刻みが延々と続く。弦も大変だが、練習番号A7小節目以降の管楽器はさらに大変。
 C手前5から始まる木管の主題も1小節ごとのレガートを1本の線につなげる。Fから始まる1Vの第2主題から前半の頂点に至るまでも一筆書きのように進む。
 アダージョの第2部も速めのテンポ。弦の第1主題も4小節ひとまとまり。Sの3小節目以降の1Vと2Vの掛け合いも美しい。
 Uの低減のピツィカートから始まる第1楽章のテーマにオルガンがppで絡むところまではどこにいても聴けるが、第1主題が戻ってくるV以降もずっと弾き続けているのはPブロックでないとなかなか聴き取れない。ときおり混ざる空気の振動音が何とも心地よい。
 第2部前半はほぼ標準的なテンポ。弦の32分音符は鋭いがゴリゴリした感じはない。木管も含めあまりアクセントは強調しない。
 トリオ部分(プレスト)に入るとピアノが登場するが、出番まで奏者が何度も空弾きしているのが見える。
 後半への序奏となるQの7以降、少しテンポが落ち着く。
 後半(マエストーソ)の幕開けを告げるオルガンは引き締まった響き。これに続く主題でもアクセントよりレガート重視でどんどん進む。
 Z以降登場するTbの主題が少し弱い。
 AA11以降の弦のffのメロディ、両手を下して横に大きく振りながら歌わせる。
 第2主題の全奏が一段落した後のBBの7以降、木管などが第3主題を奏でる間オルガンがHの低音をずっと響かせている。Stringendo(急いで)の指示があるFFの3つ前からもずっと鳴らしているが、だんだん音が少なくなり、1分の3拍子になって全奏が鳴っている間は、Gの低音1音のみ。これらのオルガンの響きが他の席以上によく聴こえ、背中に響く。快感。
 このままクライマックスへ向かうが、最後の和音はかなり長めに響かせる。

 フランス音楽を代表する大交響曲を、2曲とも特急のテンポで、余計な変化はほとんど入れず終始緊迫した空気を保ち、ぜい肉を削ぎ落して曲の本質だけを聴かせる。ネーメ得意のスタイルをこの日も貫く。

 客席からの「ブラヴォー」の声に向かって手を耳に当て、「もっと大きな声で」と要求。さらに声がかかると、団員たちを示して称える。
 オルガンの鈴木優人も指揮者に呼び出され、何とステージ上へ移動して指揮者や団員たちの喝采を浴びる。この曲のカーテンコールでは珍しい。
 演奏の出来に満足だったのか、いつもは冷静なステージ姿のネーメが茶目っ気たっぷりに拍手に応えていたのが印象的。

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