ベートーヴェン「第9」演奏会(4回公演の3回目)
○12月24日(月・祝)15:00〜16:15
○NHKホール
○2階C2列21番(2階2列目ほぼ中央)
○ベートーヴェン「交響曲第9番ニ短調Op125」(合唱)(約64分、第2楽章主部(1回目のみ)、トリオ繰り返し実施)
○S=藤谷佳奈枝、MS=加納悦子、T=ロバート・ディーン・スミス、B=アルベルト・ドーメン、東京オペラシンガーズ(55-45)
○マレク・ヤノフスキ指揮
 (16-14-12-10-8、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)
 (首席奏者:コンマス=伊藤、第2V=大林、Va=佐々木、Vc=藤森、Cb=市川?、Fl=神田、Ob=茂木、Cl=伊藤、Fg=水谷、Hr=今井、Tp=菊本、Tb=新田、ティンパニ=久保)


妥協なきテンポと地を這う低弦

 今年のN響の「第9」にはヤノフスキが登場。ほぼ満席の入り。

 合唱団員はオケより先に入場。木管は4人ずつ。
 第1楽章、テンポは驚くほど速い。そして、しばしば低弦を強調する。例えば132小節以降や401以降。195や213の木管は楽譜通り少しだけブレーキをかける。316〜319にかけて茂木がベルトップで吹く。337〜338にかけて楽譜通り自然なディミニエンド。
 終盤506や510のリタルダンドはほとんど付けない。513以降も低弦が目立つ。

 第2楽章も速いテンポでどんどん進むが、全体的にレガートは保たれる。198,201,204のティンパニのアクセントもほとんど付けない。284以降の低弦を強調。主部の後半も繰り返すので、めったに聴けない「1カッコ」の部分も演奏。一瞬道に迷ったような雰囲気になる。
 トリオも速いテンポを維持。ここでもあまりスタッカートを付けない。

 第2楽章が終わるとすかさずソリスト入場。拍手なし。

 第3楽章、ヤノフスキ自身が終楽章よりも「最も重要」と位置付けている。テンポは相変わらず速い。中でも最も大事な部分と位置付ける21の変ロ長調からニ長調への転調部分もさらりと、しかしはっきり印象付けて吹かせる。83以降のアダージョでもあまりテンポを落とさない。120〜121などのファンファーレでは楽譜通り忠実にスタッカートを付ける。終盤もインテンポで進む。

 第4楽章、ややテンポを落とす。低弦には過度な表情を付けず、淡々と進ませる。
 声楽が加わる237以降も無理のないテンポで始まる。289〜290ではあまり極端なsfやディミニエンドはかけない。330の"vor Gott."のフェルマータは短め。
 331からテンポを上げる。スミスが遅れまいと必死で歌っている。ソロ終盤の426以降で合唱が音量を抑える。
 449以降も低弦がオケ全体を引っ張る。
 Tbが入る594以降少しテンポが落ち着く。654以降の二重フーガも同様。745のsfもあまり目立たせない。
 851以降テンポを上げる。916以降のマエストーソでさらにテンポを上げ、920以降のプレスティッシモの方が遅く感じられるくらい。そのまま流れに任せて終わる。

 藤谷は若々しく伸びのあるソプラノ。加納は残念ながら響きが弱い。スミスは明るく伸びのある響き、ドーメンも充実した低音で、歌い終わりの842でしっかりAに降りるだけでなく、"wellt"の"t"まではっきり聴かせる。
 東京オペラシンガーズはパワー十分なだけでなく、一糸乱れぬフレージングが見事。

 ヤノフスキの指揮は、普通の演奏がスローモーションに聴こえるくらいの速さでほぼ全体を貫くが、Vよりも低弦をしばしば強調することで、空に舞い上がろうとする響きを大地に繋ぎ止めながら進む。アクセント、スタッカート、リタルダンドなどを過度に強調せず、レガート重視なので音楽の流れは心地良いが、ここぞの場面では重量感のある響きが保たれる。
 彼も来年で80歳になるが、無駄のない指揮ぶりは魅力。来シーズン以降の再登場に期待したい。

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