エリソ・ヴィルサラーゼ ピアノ・リサイタル
○2018年11月27日(火)19:00〜21:05
○すみだトリフォニーホール
○3階6列26番(3階6列目中央やや上手寄り)
○シューマン「6つの間奏曲」Op4、「ダヴィッド同盟舞曲集」Op6
 ショパン「バラード第2番ヘ長調」Op38、「ワルツ第3番イ短調」Op34の2、「ノクターン第4番ヘ長調」Op15の1、「ワルツ第4番ヘ長調」Op34の3、「ワルツ第9番変イ長調」Op69の1、「ワルツ第8番変イ長調」Op64の3、「ワルツ第7番嬰ハ短調」Op64の2、「ノクターン第7番嬰ハ短調」Op27の1、「ノクターン第8番変ニ長調」Op27の2、「バラード第3番変イ長調」Op47、「ワルツ第2番変イ長調」Op34の1

狂気に向き合う恐るべき集中力

 ヴィルサラーゼは最近毎年のように来日してくれる。ファンとしては嬉しい限り。

 前半は得意のシューマン。とは言え、「6つの間奏曲」は初めて演奏会にかけるのだとか。
 通常は5分押しで始まる演奏会が、この日は19時ぴったしにヴィルサラーゼ登場。いつもの黒の衣裳、ハンカチまで黒。それをポンとピアノの中に置いてすぐさま弾き始める。
 元々第2〜5曲は続けて演奏されるのだが、そんなことにはお構いなしで、第1曲から切れ目なしで弾き通す。絶望と悩みが行き場を求めて手当たり次第に暴れ回るような音楽の連続。

「ダヴィッド同盟舞曲集」もロ短調とト長調を中心に、短いが起伏の激しい曲が並ぶ。こちらも間をほとんど全く入れずに次々と進んでゆく。しかし、第14曲では暗い森を抜けた先に突然現れた湖に月の光が映るように、変ホ長調の明るい響きが朗々と流れてくる。第17曲で第2曲のメロディが再現される。最後の第18曲ではまた一転して、清らかなハ長調に。白無垢姿のクララが見える。

 ここまでで50分過ぎ。一度退場したものの、恐るべき集中力。シューマンの狂気と正面から向き合い、そのままピアノの響きに乗せて聴衆に伝える。

 後半のショパンはややリラックスした弾きぶりながら、集中力は途切れない。
 バラード3番の荒れ狂うイ短調は低音部からせり上がってくる。最後もイ短調で終わり、そのまま同じイ短調のワルツへ。速めのテンポで憂鬱な気分をさらりと。ヘ長調のノクターンに入ってほっとしたのも束の間、ヘ短調の中間部で地獄を垣間見る。ヘ長調のワルツはブーニンがショパンコンクールで弾いた曲だが、超絶技巧やメリハリや鋭いアクセントは皆無、代わりにこれ以上ない気品に満ちる。弾き終わると髪をかき上げる。以上4曲を組曲かシンフォニーのようにまとめる。
 以降は変イ長調、変ニ長調(と同じ根音の嬰ハ短調)の曲を揃える。「別れのワルツ」で変ホ長調に転調したところ、右手のアルペジオの上昇と下降のフレーズの優美なこと!8番のワルツも滑らかなレガートに酔う。7番のワルツとノクターンでは憂鬱になるが、8番のノクターンの終盤で全ては救われる。
 髪をかき上げてからバラードの3番へ。これまたスケールの大きな、聴く者を包み込むような豊かな響き。

 最後にもう一曲あるはずだが、バラードを弾き終わったところで退場。2番のワルツはこれまで見せなかった弾きぶり。技巧を強調し、テンポをあおり、聴かせどころでためを作り、文字通り「華麗な」演奏で締めくくる。

 ショパンについても、彼の苦悩、情熱、気品をそのままピアノを通してストレートに表現。

 唯一残念なのは客の入り。半分程度か。聴衆の反応は熱狂的だっただけに、今後はもう少し適切な大きさのホールを選択すべきだろう。

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