ブロムシュテット指揮N響(Cプロ)(2回公演の2回目)
○2018年10月20日(土)15:00〜16:50
○NHKホール
○1階13列13番(1階13列目ほぼ中央)
○ハイドン「交響曲第104番ニ長調」Hob. I-104(ロンドン)(約28分、第1楽章提示部、第3楽章主部両方、第4楽章提示部繰り返し実施)(10-10-6-4-3)
 マーラー「交響曲第1番ニ長調」(巨人)(約51分、第1楽章提示部繰り返し実施)
 (16-14-12-10-8、下手より1V-Vc-Va-2V、CbはVcの後方)
 (コンマス=伊藤、第2V=田中、Va=?、Vc=桑田、Cb=市川、Fl=甲斐、Ob=青山、Cl=伊藤、Fg=水谷、Hr=今井、Tp=菊本、Tb=古賀、Timp=植松)


頑固一徹、古典主義

 N響の桂冠名誉指揮者、ブロムシュテットが今シーズンは10月の定期公演で3つのプログラムを振る。ブルックナーを振るAプロに行きたかったが予定が合わず、Cプロへ。9割以上の入り。

 ハイドンは小編成で、ティンパニも小ぶりのものを上手後方に設置。
 第1楽章、最初2小節の全奏をきちんと響かせた後、3以降の和音の変化をじっくり聴かせる。時折ブルックナーを先取りしたようなハーモニーが登場してハッとさせられる。
 アレグロの17以降は快速テンポで進めていく。第1主題が5度上がってそのまま第2主題として出てくる提示部に対し、再現部では228以降にDの連打で一挙に開放的な雰囲気になる。これまた後半のマーラー「巨人」第4楽章の強引な転調を先取りしているようで面白い。
 第2楽章、2などに登場するsfは控え目。25のフェルマータの後に少し間を入れる。ト短調に転調する38以降、これまでと一転して重々しい雰囲気に。淡々と進めているようで、楽譜に書かれたハーモニーの変化を飾らずむき出しのまま響かせる。
 第3楽章、軽快に進む。22以降の低弦のフレーズもあまり目立たせない。冒頭の主題に戻る直前33〜34のティンパニは目一杯クレッシェンドをかける。トリオは優雅な雰囲気に一変。
 第4楽章も快速テンポ。19以降のfのスタッカートや45以降のsfもそれほど強調しない。突進が165で止まり、1小節置いた167以降もテンポを落とさず、必要以上に歌わせない。終盤309以降ティンパニのffのトレモロもそれほど突出しない。
 編成が小さいので疾風にはなっても暴風にはならず、かと言って古楽オケのようにアクセントを過度に強調せず、レガートは維持。しかし、ロマン派のような濃厚な歌わせ方はしない。それでもハイドンが楽譜に潜ませた音楽上の工夫や仕掛けは自然と浮かび上がって来る。

 マーラーでもアプローチは全く変わらない。第1楽章冒頭の弦の高音、pppにしては大きめで芯のある響き。3のA−Eなど頻繁に登場する4度の下降音型にも特別な表情は付けない。9以降これまた頻出するファンファーレも、スタッカートを守りつつ各音が断片にならないよう各音を確実に響かせる。
 62以降の第1主題、テンポは速め。
 展開部に入って172〜173のClのD−Aのフレーズも、カッコウの鳴き声と言うより「DとAの2つの音から成るフレーズ」として聴かせる。207の転調もあっさり進む。
 312以降各パートに登場するオクターブの下降音型に付けられた<>も控え目。その一方で334以降のBTbとTuの下降音型が思わぬ存在感を発揮しながら全体を盛り上げてゆく。352で初めて爆発的な響きになるが、358以降のHrは咆哮するような荒々しさはない。終盤の436以降も少しだけテンポを上げるがなだれ込む感じはなく、行儀よく終わる。
 第2楽章、冒頭の低弦のフレーズに乗せてきっちり3拍子を刻んでゆく。88以降の弱音器付Tpの和音は鋭いが攻撃的な感じはない。その後の山場を収める106のFgとVc,107のCl、そして次の場面につなげる108以降の低弦のフレーズも丁寧に刻む。主部の締めくくりもアンサンブルは崩さない。
 トリオで182の1Vなどに出てくるグリッサンドはほとんど聴こえない。終盤273以降の1VからVcへ受け渡される下降フレーズもきっちり響かせる。
 第3楽章、かなり速いテンポ。22のObのG−F−Eにはスラー、GとFの上にスタッカートが付いているが、ほとんど刻まずに普通にレガートで吹かせる。Mit Parodie(諧謔をもって)と指示された45以降の打楽器も生真面目にリズムを刻む。かと思うと、76〜78のHpのA−A(オクターブ下)−Dのフレーズがくっきり聴こえてハッとする。ここはHpだけpで後のパートはppかpppだから楽譜通りということになる。その後「さすらう若人の歌」第4曲後半のメロディが登場するのだが、それがト短調で収束すると、全く間を置かずに変ホ短調の冒頭主題に戻る。
 第4楽章、冒頭の全奏も整った響き。やはり速めのテンポで時計の針が時を刻むように進み、149以降の小節線上のフェルマータ(マーラー本人の指示ではブレス)も全く付けずにインテンポで収束。
 176以降の弦の息長いフレーズも過剰な味付けはなく、ほぼインテンポで弾き通す。
 254以降冒頭の主題に戻ってもテンポは変わらないが、ハ短調に転調する317以降少し落ち着いた歩みに。
 ハ長調から強引にニ長調に転調する374〜375の間もほとんど取らない。
 一度興奮が収まり、458のVcから始まる息長い山場もあっさり通り過ぎる。
 終盤の656以降、HrだけでなくTpとTbも1人ずつ一緒に立ち上がる。マーラー自身が「場合によっては」加えてもよいと書いているのでその指示によるものだろう。最後のD−D(オクターブ下)のフレーズも勢いに任せずインテンポで決める。

 古典派と世紀末のニ長調の交響曲を2曲並べたわけだが、ハイドンでは奇抜で斬新なフレーズやハーモニーがあふれ出て聴こえてきたのに、マーラーでは一フレーズたりとも様式と型からはみ出させまいとする解釈で、逆にこっちの方が古典派っぽく聴こえてしまうのが面白い。ブロムシュテットが振るときのコンマスには、色気のあるマロより端正な響きの伊藤の方が合っている。
 ブロムシュテットは腕の振りこそ小さくなっているが足腰は盤石で、ステージの出入りも颯爽としたもの。オケが解散した後も呼び出されて喝采に応える。

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