大野和士指揮都響(第863回定期)
○2018年10月19日(金)19:00〜21:50
○サントリーホール
○2階LA5列14番(2階ステージ下手側ブロック5列目)
マントヴァーニ「2つのヴィオラと管弦楽のための協奏曲」(14-12-10-8-6)
+バルトーク「44の二重奏曲」Sz98より第22曲「悲嘆」
サン・サーンス
「交響詩第3番ハ短調」Op78(オルガン付)(約34分)
 (16-14-12-10-8、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)(コンマス=矢部達哉)
Va=タベア・ツィマーマン、アントワン・タメスティ、O=室住素子

ロマンチシズムと構成美を両立

 都響の定期は今月も大野音楽監督の登場が続く。9割程度の入り。

 フランスの作曲家、ブルーノ・マントヴァーニは1974年生まれ、2010年に36歳でパリ国立高等音楽院長に就任したことで話題になった。その前年にツィマーマンんとタメスティのために作曲した協奏曲の日本初演。指揮者を挟んで上手側にタメスティ、下手側にツィマーマンが立つ。ツィマーマンは黒地に細い曲線が全面に波打つワンピース姿。
 BとFなどの重音の連続から静かに曲は始まる。短いフレーズを2人で受け渡し合ったり、一緒に弾いたり。かなり長いカデンツァ。ようやく加わるオケは管楽器と打楽器を中心に、機関銃のような短い音符の連打。ピッコロTpが目立つ。マリンバが舞台奥両端に置かれ、ばちの反対側の先で叩く。Flが尺八風に息を漏らしながら加わる。弦は弱音の持続音が多く、控え目にソリストたちを支える。Vaの第1プルトの奏者たちとソリストたちのやり取りも。
 明確な切れ目はないようだが、2部構成らしい。後半になるとソリストたちは開放弦の響きを多用するようになり、カデンツァでもD,G,Cといった音が多くなる。
 ソリストたちとオケの掛け合いが激しく複雑になってきた最中、ツィマーマンが声を上げて退場。弦が切れたようだ。戻ってくるまで5分くらいかかっただろうか。その間に指揮者がタメスティとオケに再開場所を指示。練習番号68から再スタート。
 ソリストたちを押しつぶさんと管楽器や打楽器が攻撃。2人を応援するはずの弦の響きは依然弱々しい。最後はオケ側が勝利したように聴こえるが、冒頭に似た同音連打で終わる。

 アンコールでは、今度はタメスティがヴィオラの首席(N響の村上淳一郎が客演していたらしい)の楽器を借りる。調弦がうまくいかなかったのか?演奏後返してもらおうとすると首席が手放そうとしないご愛敬付き。

 サン・サーンスも実質4楽章だが2部構成。そういう曲を揃えたということか。
 第1部冒頭から緊張感に満ちた響き。12小節目からの第1主題は速めのテンポ。練習記号A(international Music Company出版の楽譜による)、以下同じ)の7小節目から始まる木管のスタッカートが尖っている。特にFlがすばらしい。提示部の頂点となるGから23以降、アンサンブルはまとまっているが、Tpがもう少し突き抜けてもいい。
 第1部後半、ほぼ標準的テンポ。ステージ周りの席だとオルガンとオケとが絶妙のバランスで聴こえる。Sの4以降、1Vと2Vの掛け合いが美しい。特に途中のクレッシェンドを2Vの方を強めにかけるので、ハーモニーのバランスが実に安定する。
 最後のオルガンの和音をかなり長く残す。

 第2部はまた速めのテンポ。鋭く切り込む主部と、ときどきおどけながら池の周りをぐるぐる回っているようなトリオとの対比が楽しい。
 後半冒頭のオルガンはしっかり響かせているが圧倒的な音量ではない。楽譜上はfが1つ。むしろSの2小節目以降、弦の主題とピアノのアルベジオに応えるpの和音の方に存在感がある。
 Zから始まるTbのフレージングもオルガン風。そこから盛り上がるが、BBから7小節目以降Flのメロディで一旦落ち着かせる。
 終盤FFに入ってもさほどテンポは上げない。GGのPesante(重々しく)も控え目。響きの厚みと豊かさを維持したままクライマックスへ。拍手のフライングなし。聴衆にブラヴォー。

「オルガン付」は成功間違いなしの鉄板の曲だが、熱くなり過ぎず、メロディのロマンチックさと古典的なハーモニーの校正美を見事に両立。
 オケが解散した後もオルガンの室住さんへ拍手のおまけ。

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