「リトル・ナイト・ミュージック」
○2018年4月19日(木)18:30〜20:55
 同年4月26日(木)18:30〜20:55
○日生劇場
○4月19日:2階I列41番(2階後方から3列目中央やや上手寄り)
 4月26日:2階J列26番(2階最後列ほぼ中央)
○デジレ=大竹しのぶ、フレデリック=風間杜夫、シャーロット=安蘭ケイ、カールマグヌス=栗原英雄、マダム=木野花、アン=蓮佛美沙子、ヘンリック=ウエンツ瑛士、ペトラ=瀬戸たかの、フレデリカ=トミタ栞、フリード=安崎求他
〇音楽監督・指揮=小林恵子
○演出=マリア・フリードマン

ソンドハイムをなめるな

 日本で"A Little Night Music"が上演されるのは、私が知る限り99年青山劇場で麻美れいが主演して以来のはずだ。もう20年近く経つ。今回も配役を見る限り不安しかないのだが、行かないわけには行かない。

 まず人物の呼び方からして気に入らない。プログラムではEgermannを「エーガマン」と標記され、俳優たちは実際そのように発音しているが、原語を普通に発音すれば「エガーマン」の方が近い。「映画マン」に聞こえて非常に耳障り。以下、ここでは「エガーマン」と表記する。

 また、プログラムナンバーだけではストーリーを追いにくい。プログラムには記載されていない「場」を脚本に沿って補足しておく。

 舞台は白い床が正面からまっすぐ奥へ伸びてゆくが、奥へ行くとその床はいびつに折れ曲がって見える。手前の床はオケピットを包むように両端の花道まで伸びている。

〇第1幕

1 オーバーチュア/ナイトワルツ

 チューニングのピアノでなく、弦のDesの持続音から始まり、両側から語り部たちが登場。発声練習はするがおとなしめで、ハイEsまで出す歌手はいない。
 ナイトワルツ、いかに冒頭でテンポを整える必要があるとは言え、指揮があまりに機械的。木管のメロディも1音1音ぶつ切れで、全くワルツらしくない。
 それでもその音楽に乗って登場人物たちが次々と舞台に現れる。「踊りがない」と聞いて出演を決めた風間さんまでいきなり踊ってるじゃないですか!

 舞台中央に残るマダムとフレデリカ。ソリティアがうまく上がれずいらだって声を上げるマダム。人生を達観しているはずのマダムがそんな表情を見せるとは。
「トランプのゲーム」と語らせているが、PCやスマホのアプリのおかげで、日本でも「ソリティア」はかなり知られているはずでは?
 マダムは上手へ退場するが、フレデリカは舞台手前に残り、語り部たちがその後ろに並ぶ。さらにその後方、両側からカーテンが引かれる。オリジナルはフレデリカのピアノの練習曲が流れるところだが、ここでは語り部たちが2幕のナンバー"The sun sits low"がラララで歌われる。

第1場 エガーマン家の自宅

 中央手前にソファ、後方に巨大なワゴン台のような、2階のみの寝室。上手に螺旋階段。2階上手側手前がアンの化粧台、中央奥に衝立、下手側にベッド。
 男の語り部2人がソファの奥からチェロを持ち出し、座っているヘンリックに持たせる。

2 今

 オリジナルでは妻を抱くか昼寝するか、抱くなら力づくか男の魅力でか、男の魅力で行く場合は遠回しにか直接的か、ということで合計4つの選択肢が示される。ここでは「力づく」の部分は歌うがそれ以降の部分は端折られる。

 ヘンリックは、階段に向かうペトラに対して「そんな歩き方は止めろ!」と叫ぶ。

3 あとで

 途中のピツィカートは省略。

4 もうすぐ

 アンの歌がヘンリックのチェロに遮られると、アンは階段途中まで降りてきて「ヘンリック、うるさい!」と叱る。しかし、普通のネグリジェなので、本来ヘンリックに見つめられて動揺しながら言う"Later"の台詞は省略。ヘンリックも叱られてうつむくだけ。これでは後に2人が結ばれることへの伏線とはならない。
 風間の歌は「今」の歌い始めから三重唱最後の寝言「デジレ」まで同じ調子で、棒読みならぬ棒歌い。だからと言うわけでもなかろうが、三重唱の部分から語り部たちが歌にも加わる。何とか頑張って歌っている蓮佛や余裕で歌えているウエンツに対して失礼。

5 すてきな人生

 本来フレデリカがピアノを弾きながら歌う場面だが、普通に上手から登場して中央で歌う。普通の母親について歌う部分で"look exhausted"に対応する訳詞がない。
 デジレは上手奥から舞台衣裳姿で登場。語り部たちが荷物を運び、3枚の衝立の表裏を変えながら、下手の楽屋→中央の車中→上手の別の楽屋へと移動してゆき、デジレは何度も衣裳を脱いでだんだん身軽に。
 後半でデジレに絡むフレデリカとマダムのフレーズも省略。

第2場 地方の劇場

6 サロンミュージック

 フレデリックとアンは2階の寝室から会話を始め、降りてきて下手端の客席へ。寝室は舞台の幕で隠され、上手端には語り部たちが座る。
 傷ついたアンは下手へ退場。

第3場 エガーマン家の自宅

 ソファの上に寝転ぶペトラ、ワインのボトルとグラスもソファに。その後ろでズボンを履こうとするヘンリック。
 上手からアンが帰ってくるので、ヘンリックは慌ててソファの下手側に隠れる。アンはヘンリックたちの方を見向きもせず、一目散に階段を上がって寝室へ。続いて帰ってきたフレデリックは、ヘンリックの姿を見て「バカ!」と叫んでから寝室へ。オリジナルにないセリフ。
 アンを寝室に寝かせて降りてきたフレデリックは上手花道へ。煙草を一服。

7 リメンバー?

 舞台手前に語り部たちが1列に並んで歌う。フレデリックが下手へ向かうとリンドクイスト氏が手際よく灰皿を出して吸い殻を片付ける。

第4場 デジレの下宿

 下手手前がデジレの部屋。散らかったテーブルとソファ、奥に衝立。
 オリジナルでは2人は"schnapps"を飲むのだが、「ウォッカ」と「訳」されている。ヨーロッパの強いお酒であることをわかりやすく伝えるためかもしれないが、やりとりを観れば想像できるはず。そこまで観客に譲歩する必要があるのか?
 デジレは肉体がまだまだ魅力的なことを見せるために、ソファに座るフレデリックの前でガウンをバッとはだける。ゆっくり見せるのが通常の演出。

8 妻に会ってほしい

 オリジナルより1音低いCDurだが、風間のキーに合わせたのか?大竹はキー選択を間違えたカラオケのようでいたたまれない。スコアを見ても大半は狭い音域を行ったり来たりするだけなのだが。
 歌い終わると、2人は衝立奥へ。

9 リエゾン

 上手端で歌う。2番まで。"I even named her Desiree."に相当する訳がなく、「期待外れだったわね」と歌わせる。

 舞台外から聞こえるカールマグヌスの声。デジレとフレデリックは衝立の前に飛び出してくる。カールマグヌスは上手から登場し、デジレの部屋へ。
 フレデリックがカールマグヌスのガウンを着ている理由を問われると、動揺したデジレはカールマグヌスにもらった花束でフレデリックの頭をひっぱたく。
 デジレはフレデリックの服を洗濯用バケツに付けた状態で持ってくる。乾かしてすらいない。フレデリックは頭を反らしてナイトキャップの先を後ろへ送ってから上手へ退場。

10 女性賛歌

第5場 伯爵家の朝食用の部屋

上手端にテーブルセット。テーブル奥にシャーロット、上手側にカールマグヌスが座る。

第6場 エガーマン家の自宅

 2階寝室のベッドの上でペトラがアンの髪をとかしている。
 ペトラのエプロンのひもが片方下がったままシャーロットを迎えに。

11 毎日の小さな死

 シャーロットとアン、ソファに座って向かい合った姿勢で歌う。
 ヘンリックが上手から登場、シャーロットは上手へ退場。
 アンは泣きながらヘンリックに抱きつく。これが伏線?2人のやり取りに舞台裏から絡むマダムのセリフ省略。

第7場 アームフェルト家のテラス

 中央にマダム。下手のベンチにいるフレデリカを呼ぶ。
 下手からデジレ登場。

12 田舎でウィークエンド
"weekend"と"country"が同じリズムのフレーズ。「ウィークエンド」を先に歌わせようとすると最初の冠詞"A"に当てられた音符が邪魔になる。そこで"country"に当てられたフレーズで「ウィークエンド」と歌わせるという、苦心の訳。
 ただ、この重唱の流れにほどよいアクセントを与えるアンの"Oh, no!"やカールマグヌスとシャーロットの"Aha!"は訳詞では活かされていない。
 デジレとフレデリカは下手端、シャーロットとアン、シャーロットとカールマグヌスは上手端でやりとり。
 シャーロットから行くべきと勧められたアンは寝室へ昇ってフレデリックとペトラに行こうと伝えるのだが、彼らの三重唱はシャーロットとカールマグヌスの二重唱に被って聞こえない。
 ヘンリックは中央奥から寝室の下をくぐって登場。
 エガーマン家と伯爵家の人々が舞台上を交差しながら曲は進み、最後は全員揃って舞台手前に1列に並ぶ。ホリゾントから窓に明かりがともったアームフェルト家の屋敷がせり上がってきて、歌い終わると全員屋敷の方を振り返ったところで幕。

第2幕

1 ナイトワルツ

 両脇の花道にベンチ。
 舞台中央にアンデルセン夫人が登場して歌い始め、他の語り部たちは長さの違う3本の木が生えた台を回しながら登場。
"Eight o'clock"などのフレーズは「たそがれ」と訳されている。私が観た2日とも、エアランソン氏が"Ten o'clock"に相当するフレーズで最初のハイBを外す。

第1場 アームフェルト家の芝生の庭

 マダムは下手端で車椅子に乗ったまま。デジレは下手花道のベンチ、フレデリカは中央に布を敷いてその上で語り部たち2人とトランプ。ジンジャークッキーを食べ過ぎないようマダムに注意されたフレデリカは口をもごもごさせながら答える。
 車は警笛のみ。マダムたちは一旦下手へ退場。入れ違いに伯爵夫妻は上手から登場。シャーロットは日傘を差している。エガーマン家は下手から登場。
 デジレは下手から登場。カールマグヌスが来た理由を説明する場面、通常は説明に窮した彼が助けを求めるように指を鳴らすとシャーロットが"Plague"(伝染病)と言うのだが、ここでは彼が続けて話そうとするのを遮るように「ペストで!」と叫ぶ。

第2場 庭の別の一角

 中央にアンとシャーロット。フレデリックが下手から登場し、シャーロットが彼のアスコットタイ(原文は"cravat")を褒め、アンとともに両脇から腕を組んで下手へ。

第2場A 庭の別の一角

 上手奥から現れたヘンリックとフレデリカ、下手花道のベンチでやり取り。その後上手へ退場。

第3場 アームフェルト家のテラス

 2人向かい合って座れる椅子が付いた東屋が中央へ。

2 その方がすばらしい(彼女は完璧だ)

 フレデリックとカールマグヌスは東屋の前で向かい合ったり離れたりしながら歌う。2番に相当するカールマグヌスのソロパート省略。後奏の間に2人の後方からフレデリカ登場、カールマグヌスを下手奥へ連れ出す。入れ違いに上手からデジレ登場。
 カールマグヌスの怒り声が聞こえると、フレデリックは一旦上手端の木の陰に隠れるが、だんだん近寄ってきて東屋の上手側に身を隠し、カールマグヌスの背中越しにおちゃらけてみたり、お尻を彼の方に向けてペンペン叩いたりしてからかう。
 下手端に現れたフリッド、デジレとカールマグヌスに夕食の用意ができたことを告げた後、フレデリックの近くへ行かず、その位置に留まったまま呼ぶ。
 東屋に入った3人、カールマグヌスは片足を下手側の椅子に乗せる。フレデリックも対抗して上手側で同じポーズを取るがぐらつく。東屋ごと下手へ退場。

第4場 ダイニングルーム

3 いつもときめいていると

 天井から1対のシャンデリアが降りてくる。横長のテーブルの向こう側に並ぶ人々。下手から誕生日席にマダム、向こう側にシャーロット、フレデリック、デジレ、伯爵、アン、ヘンリック、上手誕生日席にフレデリカ。
 ヘンリックが怒って席を立った後、シャーロットはしゃっくりを繰り返す。

第5場 アームフェルト家の庭

 奥からヘンリックがかけてくる。追ってきたフレデリカがヘンリックを見つけ、彼が上手へ逃げると入れ替わりにアンが下手から登場。2人は腕を組んで上手へ退場。

第5場A 庭の別の一角

 木々が手前に寄ってきて、その手前で愛し合うペトラとフリード。上手から駆けてきたヘンリックが木越しにその様子を覗いてしまう。フリードは「失礼!」と言いながら立ち上がり、ペトラと笑いながら下手へ退場。

第6場

 オリジナルはデジレの寝室だが、ここでは東屋でのやり取り。このため"Sit down.""On the stockings?"などのやり取り省略。

4 ピエロたちの喜劇(センド・イン・ザ・クラウンズ)

 デジレは東屋の中で飲んでいる。フレデリックが奥から登場、中に入って上手側に座る。途中で床に座りながら話していたデジレ、招待した理由を告げる場面で椅子に座り直す。フレデリックは妻を愛していることを話す下りで東屋から出て上手手前へ。そのフレデリックに向かって、デジレは歌い始める。
"Do try to forgive me."の訳が「許してくれ」では弱い。フレデリックは下手へ退場。

第7場 森

 中央の木の枝で首を吊ろうとするヘンリック。上手からアンが駆けてきて見つける。下手端へ逃げるヘンリック、追うアン。見つめ合う2人。
 脚本にはこの後(They start to kiss passionately.)とあり、どちらからキスするかは書かれていない。ここではアンの方からキスしてから、ヘンリック「愛している」と言う。
 アンは下手後方から出てきたペトラに気付き、「あ、ペトラ」と小声で叫んでヘンリックと一緒に下手へ退場。

5 粉屋の息子

 上半身下着姿。2番省略。

 プログラムには、この後これまでのナンバーの「リプライズ」が演奏順に紹介されている。確かにその通りなのだが、事実上この先は「フィナーレ」に相当するわけだから、その旨どこかに書いておかないとわかりにくい。

第8場 アームフェルト家の屋敷と庭

 カーテンが引かれ、その手前で、下手から日傘を差したシャーロット。上手からフレデリカ。フレデリカが挨拶してもシャーロットは無視して上手花道のベンチで座る。
 カーテンが開くと、中央やや奥にマダム、フレデリカはマダムのそばまで移動して座り込む。2人はその後の登場人物たちのやり取りを見つめている。
 下手から登場したフレデリックが見つけ、並んで座る。
 1幕のワゴン台の寝室が下手奥に。螺旋階段が1幕とは反対の下手側に。ベッドにデジレが横たわっている。
 上手奥からヘンリックとアンが駆けてきて、下手端でやり取りの後退場。フレデリックは立ち上がって数歩歩くがそのまま見送る。絶望してベンチに戻る。なぐさめるシャーロット。
 寝室にカールマグヌスが入ってくる。上着とズボンを脱ぎ、靴を片方脱いだところで下方のシャーロットたちを見つける。寝室ごと下手へ退場。
 マダムとフレデリカのやり取り。マダムのA wooden ringのエピソード省略。
 カールマグヌスは下手から登場、フレデリックに決闘を申し込む。銃を渡されたフレデリック、下手へ向かうカールマグヌスの後ろから銃を向けるが、振り返られて慌てて返す。
 銃声の後フレデリックは担架に乗せて上手端まで運ばれる。
 仲直りしたカールマグヌスとシャーロット、脚本ではアンデルセン夫人の色っぽい"Aaaah,"のフレーズの後寄り添って退場するのだが、その前に手を取り合って退場。
 立ち上がったフレデリック、上手花道のベンチに飛び上がって若ぶる。オケの演奏が頂点に達すると、デジレとフレデリックは抱き合ってキス、寝室の階段を昇りかけたところで寝室ごと下手へ退場。

 マダムが死ぬとフレデリカ、車椅子にすがって泣いた後、中央手前へ。
 舞台手前の上手にアンとヘンリック、下手に伯爵夫妻登場。下手奥からデジレとフレデリックが、マダムを越えてフレデリカに近付く。
 最後のピアノの和音が鳴ると、ホリゾント上手寄りの空にオリオン座が輝く。

<総括>

 大竹は「スウィーニー・トッド」よりははるかに安心して観ていられた。「センド・イン・ザ・クラウンズ」は彼女の声に最も合うソンドハイム・ソングだろう。風間は全体的に棒歌い。安蘭は安定した歌、演技でセリフでも随所で笑わせてくれる。栗原はあの「真田丸」で真田信尹役で存在感を示した俳優。歌唱力もなかなかだが、少し力が入り過ぎで滑稽さが今ひとつ出ない。蓮佛はいつもの声とがらりと変わってお茶目でおきゃんなアンを演じ切る。もう少し声量がほしいが高音まで正確に歌えていたのは立派。ウエンツは声も演技も素晴らしく、この役にぴったし。木野はさすがの演技力、歌もまずまず。瀬戸はしっかりした歌いぶり。

 オケについては予算の制約はやむを得ないにしても、弦が各パート2人ずつでは少なすぎる。管楽器も、「ナイトワルツ」のメロディをイングリッシュホルンで、とまでは言わないが、トランペットがないのは何とも物足りない。"Now""In Praise of Women""Miller's son"などの聴かせどころが全部ホルンになってしまっている。

 演出のマリア・フリードマンはソンドハイム歌手として数々の作品に出演。劇場使用時間など様々な制約があるとは言え、ソンドハイムの音楽と歌詞の魅力を知り尽くしている彼女が、ここまで歌詞がカットされた公演の演出をしなければならないとは。

 久々の「リトル」なのに上っ面をなでるような公演に終わってしまっているのが、ファンとしては何とも悲しい。

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