大野和士指揮都響(第847回定期演奏会)
○2018年1月18日(水)19:00〜20:40
○東京文化会館
○5階R1列34番(5階上手側1列目舞台寄り)
○ミュライユ「告別の鐘と微笑み〜オリヴィエ・メシアンの追憶に〜」
 メシアン「トゥーランガリラ交響曲」(約76分)
(16-14-12-10-10、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcとVaの間の後方)
〇P=ヤン・ミヒールス、オンドマルトノ=原田節

和解と再生を願う響き

 都響の1月定期、続いて大野和士音楽監督が大曲「トゥーランガリラ交響曲」に挑む。都響ウェブサイトで大野自身のプログラム紹介が観られるが、それによると、昨年9月の定期で取り上げたハイドン「天地創造」とセットで取り上げたとのこと。「天地創造」の方がどうしても聴けず、残念。8割程度の入り。

 大曲の前にメシアンの弟子、ミュライユが師匠の追悼のために書いたピアノ小品が披露される。フルオケの奏者たちの椅子や打楽器などが並べられた状態、つまりいつでも「トゥーランガリラ」を演奏できる状態で、舞台最前中央に置かれたピアノを、「トゥーランガリラ」のピアノ担当でもあるミヒールスが演奏。「トゥーランガリラ」の和音の主題を連想させる、高音部でのゆったりした和音の連続で始まり、中盤ではGが拍子を刻む上下に和音が重ねられ、終盤はHが拍子を刻む中を和音が行き来する。最後はメシアンが天に飛び立つかのような上昇音型で終わる。4分ほどの曲だが、癒やされる。

 ピアニストが退場して拍手が止むと、すかさずオケの奏者たちが入場。最後列にずらりと打楽器奏者たちが並び、下手最後方にはヴィブラフォン、チェレスタ。その隣にあるチェレスタに似た楽器がジュ・ドゥ・タンブル(鍵盤型グロッケンシュピール)というものらしい。ピアノの上手側に置かれたオンドマルトノの存在感が半端ない。これだけ多彩な楽器が用意されているのに、意外にもティンパニとハープがない。
 大野がミヒールス、原田と共に登場。原田は燕尾服の尻尾をズボン状にしたような衣裳。

 第1楽章、大野がサイトでのプログラム紹介で強調していた12音全てが1回ずつ使われるフレーズを、弦などが聴衆に念を押すように聴かせる。最初の「彫像の主題」は控え目に提示。ピアノの高音のトリルが、アラームのように強烈に鳴り響く。
 第2楽章、Tpのキラキラ輝くファンファーレの連続と、オンドマルトノが主体の静かな響きとのコントラストが見事。終盤の天上から地底に落ちていくような息の長い下降音型に息を呑む。
 第3楽章、Clの奏でる愛の主題がオンドマルトノの神秘的な響きの上で、心細そうに歌う。
 第4楽章、ピッコロとFgがオクターブで提示する、おどおどした感じのメロディが印象的。
 第5楽章、金管の下降音型のフレーズが中心。流星が波状的に空から振ってくるような、きらびやかな響き。
 第6楽章、オンドマルトノと弦が愛の主題をゆったりと提示。甘いが整った端正な響き。その上をピアノの鳥の声が、共感して祝福したり、茶々を入れたりする。
 第7楽章、ここだけは間を置かず、ピアノが攻撃的なフレーズで前楽章の夢見心地を打ち破る。続いてオンドマルトノと弦、木管などが、羽がふわふわ落ちていくような下降音型を聴かせる。最後は大太鼓の1発で音楽は中断させる。
 第8楽章、第6楽章の愛のテーマが、金管も含めたフルオケで何度も示され、次第に盛り上がってゆく。そこにピアノが和音のテーマを挟む。
 第9楽章、VとVaは3人ずつ、VcとCbは2人ずつ計13人の弦楽合奏が音楽を進める。落ち着いた響きだがずっと引き続けているので、Vcの最後方の奏者がCb最前列の奏者のために譜めくり。
 第10楽章、冒頭はやや遅めで始まる。第6楽章に似たきらびやかな下降音型の連続。最後は最弱音から息長いクレッシェンドで頂点へ。事前アナウンスが効いたのか、拍手のフライングなし。聴衆にブラヴォー。

 ハーモニーもリズムも複雑の極みと言うべきこの曲を隅々まで整理し、なおかつ地球規模の響きとしてまとめきった大野の手腕に改めて脱帽。
 充実したオケの響きに終始がっぷり四つに組み合ったミヒールスのピアノと原田のオンドマルトノも見事。「トゥーランガリラ」にはほぼ必ず起用されるにしても、原田のみ暗譜というのも驚き。

 大野がこの曲の演奏に込めた、和解と再生への願いは聴く者の心に十二分に届いたことだろう。次は私たちが行動する番である。

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